第380話 妖怪女子会

 妖怪女子会のメンバーが集まったところで、場所を移動する事になった。移動と言っても、私がいた広間から一つ奥に行った玉藻ちゃんの部屋で行われる。四角いちゃぶ台を囲んで座って、その中央に山となった稲荷寿司が置かれている。

 私は玉藻ちゃんの隣に座っている。尻尾で完全に捕まっているので、他の場所には行きようもなかった。他の三人は、他の辺の前に座っていた。


『さてさて、よく集まってくれたのう。早速ウキウキわくわくな女子会を始めようぞ』

『その前に、そちらの主さんはどちら様なんでありんす?』


 蜘蛛の巣柄の和服を着た女性が、私を見ながらそう言う。女子会のイツメンの中に、知らない人がいたら、誰でも疑問に思うと思う。他の二人も頷いているし。


『おっと、そうじゃったな。まずは、互いの紹介からじゃ。こやつは、今回の女子会の目玉であるハクじゃ。凄いぞ。吸血鬼で、天使で、悪魔で、鬼で、精霊で、竜でもあるそうじゃ。それに加えて、色欲と嫉妬の大罪まで持っているそうじゃ!』


 玉藻ちゃんが私を紹介すると、三人とも驚いたように目を開いていた。やっぱり、ここまでキメラになっているのは珍しいのかな。


「ハクです。よろしくお願いします」


 一応私からも挨拶をしておく。


『そして、次はこっちじゃな。この蜘蛛の巣柄のやつが絡新婦の胡蝶じゃ。蜘蛛じゃが胡蝶という何とも面白い名じゃろう。最初に聞いた時は、笑うてしもうたわ。因みに、遊郭の顔役はこやつじゃよ。あそこで悪さを働けば、こやつとその部下に処される故に気を付けるとよいぞ』

『胡蝶でありんす。花街に来るには、主さんは、まだ早うありんす。もう少し成長してから来なんし』

「あ、はい」


 遊郭を取り仕切っている人に言われたら、頷くしかない。ゲームの中だけど、無駄に死にたくはないし。


『そして、そっちの蛇を巻いているのが清姫じゃ。執念深い女子でな。気に入った男の子に嘘をつかれてのう。そのまま逃げたもんで、追い掛けて焼き殺してしもうた。こやつには嘘はつかん方が良いぞ。ただ、料理の腕は良い方じゃ。こやつが経営しておる茶屋は絶品揃いぞ』

『人聞きの悪い事を言わないで下さい。あの頃とは違います。私も大人になったのですから。改めまして、清と申します。気軽に清ちゃんと呼んでください。茶屋に来た際には、最上級のおもてなしをしますので、是非寄って下さいね』

「はい。今度行かせて貰います」


 清ちゃんが微笑むと、首にいる白蛇が頭を下げた。蛇好きというわけではないけど、ちょっと可愛いと思った。ゲーム内で若干デフォルメされているからというのもあるかもしれないけど。


『そして、最後が鬼女の紅葉じゃ。かの第六天魔王の力を引き継いでいると言われておるのじゃ。物腰は柔らかく見えるが、盗賊を率いたこともある実力者じゃぞ。医学や裁縫、文芸などに秀でておってな。薬店の経営や学び舎での教師をしておる。医者としても教師としても先生と呼ばれておるの』

『紅葉と申します。私の薬店にいらっしゃってくださり、ありがとうございました』

「へ? あっ! あそこの薬屋さんがそうだったんですか? すみません、何も買わずに……」

『いえ、健康な事は良いことです。加えて、あの店舗には、人に対して毒となるものが置かれています。買わずにいた方が良かったでしょう』


 変わった店だと思っていたら、紅葉さんのお店だったらしい。あの店舗と言うって事は、他にもいくつか経営しているのかな。妖都に住む妖怪達の健康を引き受けている凄い人なのかもしれない。それに加えて、教師もしているらしいし、もしかしたら一番忙しい人でもあるのかも。


『では、改めて! 女子会を開始するのじゃ! いっぱい食べて、いっぱい喋って、楽しむのじゃ!』


 玉藻ちゃんの音頭によって、女子会が始まる。


『それにしても、また玉藻ちゃんが人を捕まえたのかと思いましたが、本当に魅了されていないみたいですね』

『そうなのじゃ! 大罪を持つ悪魔というのは凄いのう。妾も驚きなのじゃ。加えて嫉妬も持っているからのう。清姫は親近感が湧くのではないか?』

『私は恨みを抱きはしましたけど、嫉妬はしてませんよ。そういう点なら、般若の方が当てはまると思います』

『それもそうじゃのう』

「般若って、あの鬼っぽい妖怪ですよね?」

『そうじゃ。本来のあれは、ただの面じゃったが、嫉妬と恨みが積もり妖怪となったのじゃ。そういう面で言えば、其方の【嫉妬の大罪】の下位互換というところかのう』

「えっ……あっ! だから、襲われなかったんだ」


 般若が私を見て刀を納めたのは、自分の同士と思ったからなのだと気付いた。という事は、【色欲の大罪】を持っている現状なら、サキュバスも敵対しないかもしれない。


『妖怪道中で、妖怪に襲われたんでありんすか?』


 胡蝶さんにそう訊かれて、すぐに冷や汗が出て来た。同じ妖怪を倒して回っているという事が知られたら、この場で処されてしまうのではと思ったからだ。ただ、ここは正直に言って、相手の反応を見る。危なくなったら、即行で逃げればどうにかなるかもしれないし。


「あっ、はい。返り討ちにしちゃったんですけど……」


 怖ず怖ずと訊いてみると、玉藻ちゃんが尻尾で頭をポフポフと叩いてきた。


『良い良い。襲う方が悪いのじゃ。妖怪道中には、妖都で遊ぶ金欲しさに人を襲う連中が集っておる。まぁ、中には強者と戦いたいだけの者もおるがのう』

『妖怪は、死しても時を経れば復活します。ですから、ハクちゃんが気になさる必要はありません』

『そうじゃ、そうじゃ。大嶽丸など、そのために妖都の前で張っているからのう。あれは強かったじゃろう?』

「あ~……私、神霊と一緒に戦っているので、割と楽に倒せました」

『なぬ!? 神霊じゃと!?』


 玉藻ちゃんだけではなく、皆が驚いていた。やっぱり神霊というのは、珍しい存在みたい。


『其方の事が、益々分からなくなるのう。じゃが、それが面白い! これで恋人がいなければ、妾のものにするのじゃがなぁ……』

『恋人がいるんですか?』


 清ちゃんが、キラキラとした目でこっちを見ていた。恋バナが好きなのかな。


「はい。彼女がいます」

『彼女とな!? 良いのう。良いのう』

『もう既に経験はありなんすか?』

「あ、はい」

『ほう! 良いのう! 進んどるのう!』


 玉藻ちゃんが頬に手を当てて身体を振っている。物凄い乙女っぽい仕草だった。


『恋人がいるのなら、花街には来ない方が良いでありんす。トラブルの元になりなんす』

「花街って、どういうところなんですか?」


 アク姉に訊くよりも、顔役の胡蝶さんに訊く方が良いと思ったので、ちょっと訊いてみる事にした。


『基本はお座敷遊びでありんす。人間相手であれば、ここまでになりなんす。その先は妖怪のみでありんす』

「何か理由があるんですか?」

『何度かトラブルがありなんして、そこからは妖怪相手のみなりなんした』

「へぇ~、そうなんですね」


 やっぱり遊郭ではそういう事を出来ないようになっているらしい。それ目的で行く人は、期待通りの事は出来ないで落ち込む事だろう。まぁ、お座敷遊びも面白いだろうから、それで満足してくれはするのかな。

 そう思いながら、稲荷寿司に手を伸ばす。せっかく作って貰ったので、ちゃんと食べないと失礼になる。それを抜きにしても、味が気になるので食べたい。お箸で口に運んで食べる。油揚げが吸っている汁が、口の中に溢れ出てくる。ちょっと濃いめだと思ったけど、中の酢飯とよく合っていて美味しい。


『どうじゃ? 狐達の特製稲荷寿司じゃ』

「美味しいです。ここまで美味しい稲荷寿司は初めてかもしれません」

『うむうむ。そうじゃろう。そうじゃろう。狐達が作る稲荷寿司は、絶品なのじゃ!』


 そう言いながら、玉藻ちゃんの尻尾が私を撫でてくる。褒められた事が嬉しいみたい。それから、ちょっとした恋バナや玉藻ちゃん達の経験など色々な事を話していった。ただただ稲荷寿司を食べながら話しているだけだったけど、本当に楽しかった。

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