第373話 初詣と初日の出
それからまた時間が経ち、お正月がやって来た。大晦日の夜中に光と待ち合わせをして、二人で大きな神社に初詣に来ていた。ちょっと
「ふぅ……寒い」
「冬で夜だもんね。ゲームでは、ギルドエリアの寒さどころか、氷点下でも大丈夫なのにね」
「本当にね。でも、おかげで、こっちが現実なんだって実感出来るけどね。ちょっと、光、もう少しくっついて」
「仕方ないなぁ」
二人とも厚着をしているので、くっついてもそこまで温かくないけど、しないよりマシだ。それに、こんなことを言っている光もちょっと嬉しそうな顔をしながら、私とくっついてくれているし。まぁ、くっついて貰った理由は、もう一つあるのだけど。
「うわぁ……人多いね」
「まぁ、初詣だからね。大晦日から並んで一番にお参りしたいんでしょ。私達も同じ考えだし」
「だね」
大きな神社という事もあって、並んでいる人は多い。それでも、結構早めに来ているからか、初詣が始まるまでに出来た行列の三分の一くらいの位置に着く事が出来た。これなら結構早く初詣は終わるかな。
少し待っていると、人が動き始めた。それと同時に、光が私の耳に口を寄せる。
「誕生日おめでとう。それと、今年もよろしくお願いします」
「ん? あっ、そっか。ありがとう。こちらこそ、よろしくお願いします」
私の誕生日は一月一日なので、日付が変わった瞬間に光が祝ってくれた。かー姉やみず姉達からもメッセージでお祝いと新年の挨拶が届いていた。そっちにも返信をしておく。
それからしばらくすると、私達の番がやって来た。五円玉は用意しておいたので、お賽銭として投げて願う。内容は、光と幸せな日々が送れますようにというもの。普段は、ゲームの事だったり、自分の事だけ願うけど、光という恋人が出来たから、そっちを優先してお願いしたい。
初詣を済ませた後は、おみくじを買う。私は吉で、光は大吉だった。幸先は良いかな。このまま人混みの中にいるのも嫌なので、すぐに神社からは離れる。
「ねぇねぇ、このまま初日の出を見に行かない?」
「良いよ」
お母さんに初日の出を見る連絡をすると、ちょうどかー姉が帰ってきたから、こっちに車を出すと返信が来た。
「かー姉が車で迎えに来てくれるって」
「じゃあ、どこにいるのか、ちゃんと知らせないとだね」
「取り敢えず、歩こっか。どうせ夜明けまで時間はあるし」
「うん。でも、その前にこれ」
光が鞄の中から小さな箱を取りだした。
「誕生日プレゼント」
「ありがとう」
光から受け取った箱はリングケースのように見える。中を開けて見ると、本当に指輪が入っていた。赤い宝石が付いている。
「えっ……これ高そうだけど、お金は大丈夫だったの?」
「うん。昔作った白ちゃんの服があるでしょ? その中の白ちゃんが着たことのないやつを、お母さんがフリマに出してみたらどうかって言うから、軽く色々と直して売ってみたの。そうしたら、コスプレ好きの人達とかが買ってくれたみたいで、そこそこのお金になったんだ。だから、白ちゃんに誕生日プレゼントをしよって思ってね」
「全部着たと思ったけど、着てない服もあったんだ?」
「うん。ちょっと私が気に入らなかったやつとかがね。それに白ちゃんが着た服は、さすがに売りに出さないよ。色々と嫌でしょ?」
「まぁ、そういう目的で買われるとしたら嫌だけど」
「私もそう思ったから、そっちの服は綺麗に取っておいてあるよ」
「ありがとう」
光から貰った指輪を左の薬指に着ける。指輪のサイズはぴったりだった。
「凄いぴったりだ」
「うん。作る前にサイズ測ったからね」
「気付かなかった……まぁ、それもそっか。事ある毎に採寸とかしてるしね。じゃあ、今度は光の指のサイズを測らないとね。誕生日にお返しするために」
「似合うのを選んでくれると嬉しいな」
「そのネックレスを選んだ。私のセンスを信じて欲しいなぁ」
「信じてないと思う?」
「思わない」
どちらからともなく指を絡ませて、初日の出が見られるような海岸まで歩いて行く。普段と違う雰囲気の街だからか、少しドキドキとしたけど、人目に隠れて軽くキスをするだけに留めた。初日の出が出るまでの時間は、かなり長いので、コンビニで温かいものを買いつつ日の出を待つことにした。
旅行の時も思ったけど、こういうまったりとした時間も良いな。光との時間というだけで、凄く幸せを実感出来る。他愛のない話をしながら、夜明けを待つ。空が段々と白んでいく様子を見て、太陽がゆっくりと上がってくるのが分かった。
「綺麗だね」
「だね。二人で夜が明けるのを見る事なんて……前にもあったか」
「それって、夜明けを待っていたわけじゃなくて、いつの間にか夜が明けていた時でしょ? もうロマンチックな雰囲気が台無しだよ」
「ごめんごめん。お詫び」
光へのお詫びにキスをする。お詫びと言いながら、私がしたいだけだったりするけど。他にも人はいるけど、お構いなしにキスをする。それを光も受け入れていた。
「さてと、これ以上すると、私が抑えきれないから、かー姉のところに行こうか。さっき着いたって連絡も来たし」
「うん」
光の手を引いて、かー姉の連絡にある場所に向かっていく。すると、車の前にみず姉が立っているのが見えた。
「あれ? 水波さん?」
「だね。なんでいるんだろう?」
みず姉は、私達に気付くと、飛び跳ねながら手を振っていた。背が高く色々とでかいみず姉がやると、どこでも目立つので良い目印になる。
「どうして、みず姉もいるの?」
「姉さんが何か準備して出掛けようとしてたからだよ。途中で、白ちゃんと光ちゃんを迎えに行くって聞いたんだ。二人ともあけましておめでとう」
「あ、うん。おめでとう」
「おめでとうございます」
みず姉は、私と光と一遍に抱きしめる。みず姉の体温が温いので、ちょっと前まで来るまで待っていたのかな。せっかく車があるのに、ずっと外にいるのも馬鹿みたいなので、後部座席に光と乗り込む。みず姉は助手席に座った。
「かー姉、迎えありがとう」
「おう。寒かっただろ。水波」
「はい。温かい飲み物だよ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
みず姉から温かいお茶を受け取る。程よい温かさなので、すぐに飲む事が出来る。
「そんじゃあ、家に帰るか」
「そういえば、つばちゃんは?」
あの旅行が終わってもつばちゃんの呼び方は変えていない。ずっとこっちで呼んでいたら、こっちの方がしっくりくるようになってしまったからだ。みず姉はニコニコとしている。つばちゃんから話を聞いた感じかな。
「家で寝てるぞ。普通に迎えに行くだけだったからな。私一人でも良いと思ったんだ。その結果、無駄なのが付いてきたけどな」
「んなっ!? こんな美少女と一緒にドライブを楽しめたというのに!?」
「お前の少女の時代は終わった」
「心はいつでも十代!」
「実年齢も十代だろうが」
「てへ!」
かー姉はため息をつきながら車を走らせた。それから皆で話をしている内に、いつの間にか眠りについていた。次に起きた時には、自分の部屋で光と一緒に寝ていた。どうやらかー姉達が運んでくれたみたい。
目を覚ましてすぐに、私は自分の左の薬指を見た。そこには光から貰った指輪が填まっている。それを見て幸せな気持ちになった私は、周囲に誰もいない事を確認してから、眠っている光にキスをする。すると、光も目を覚ました。互いに意識のある状態でもう一度キスをしてから、リビングに降りて改めて、光も含めた皆でお正月を過ごしていった。
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