第372話 楽しいクリスマス旅行

 旅行当日。私は家で光と一緒にいた。


「ねぇ、お母さん。本当に車使っちゃって大丈夫なの? 割と長いよ?」


 私達が家でかー姉達を待っている理由は、旅行に行くための車としてうちの車を使うからだった。五日間の旅行なので、その間、お母さん達は車を使えないという事になる。


「大丈夫。その分の食材は買ってあるし、遠出の予定もないしね。水波も帰ってこないみたいだから、車が無くても平気」

「そうなんだ」


 そんな話をしていると、玄関が開いた音がした。


「ただいま。白、光、行くぞ」


 かー姉から声を掛けられるので、光と一緒に玄関に移動する。その後ろをお母さんもついてきた。


「んじゃ、車は借りてく」

「気を付けて。翼ちゃんもこの子達の事お願いね」

「はい。お任せ下さい」


 私と光の荷物は、既に車に積んであるので、後はかー姉と翼さんの荷物を積むだけだった。かー姉がトランクを開けると、少し驚いた表情をしていた。


「ん? 光にしては荷物が少ねぇな」

「えっ!? さ、さすがにそんな沢山は持っていかないですよ」


 かー姉は、光が私に着させるための服を沢山持ってくると思ったみたい。さすがの光も私の家に来るのならともかく普通の旅行で沢山持ってくるという事はない。かー姉達もいるし。でも、沢山持ってこないというだけで、絶対に持ってきてはいると思う。

 運転はかー姉で助手席に翼さん、後部座席に私と光が座る。


「そんじゃあ、行くか」


 かー姉が車を出す。お母さんが手を振って見送ってくれるので、お母さんが見えなくなるまでは手を振り返しておいた。


「そういえば、二人ともテストはどうだった?」


 車が走り出して、少しすると翼さんが訊いてきた。私達のテスト期間はある程度把握されているので、旅行直前にテストがあったことも分かられている。


「普通に出来ましたよ」

「平均点よりは上でした」


 私と光の答えに翼さんは満足したように頷いた。


「それじゃあ、旅行中はさん付けと敬語は禁止ね」

「えっ!? どうしてですか!?」

「気楽な旅行にしたいじゃない。昔みたいにすれば良いだけよ」

「まぁ、付き合ってやれ。一時期、お前達に距離を置かれたんじゃねぇかって落ち込んでいたしな」

「そういう事は言わないでいいの。とにかく、分かったわね?」

「は~い」

「はい」


 翼さん……つばちゃんが気にするみたいなので、とにかく昔みたいに話す事にする。最近はずっと敬語だったから、ちゃんと出来るか心配になるけど。


「途中のパーキングエリアで早めの昼飯にするか」

「そうね」


 車は高速道路に乗って、海の上のパーキングエリアで止まった。そこで、軽くお昼ご飯を食べてから、再び車が走り出す。その途中で寝てしまって、起きた時には既に宿泊場所であるヴィラに着いていた。


「う~ん……着いた!!」

「白は半分以上寝てたけどな」

「かー姉、うるさいよ。そういえば、今日の夜ってどうするの?」

「バーベキューセットがあるみてぇだが、今日は普通に作って終わりだな」

「バーベキューは明日?」

「だな。ほら、荷物持って中に入るぞ」

「うん」


 車から荷物を出して、ヴィラに向かっていく。結構大きな一軒家のような場所で外からでも中が広々としているのが分かる。実際、中に入ったら、その豪華さに驚く事になった。


「わぁ! ねぇ、かー姉! カラオケあるよ!」

「そうだな。それより寝室だろ。白と光は一階にしとけ。そっち部屋があるはずだ」

「は~い。行こ、光」

「うん」


 かー姉が一階にするように言ったのは、自分達が二階に泊まりたいからではないと思う。二階に泊まるという事は荷物を二階に持っていかないといけないので、スーツケースを運ぶ手間を掛けないで良いようにするためかな。

 光と一階の寝室に入ると、大きなベッドが二つ並んでいた。私達が二人で寝ても余裕がありそうなベッドだ。


「うわぁ……ここ高そうだね」

「実際、高いと思うよ。お母さんが驚いてたもん。それでも、割引できたみたいだから、多少安くなってるんじゃないかな」


 ベッドの上に座って、その座り心地の良さに思わず上体をベッドに預けてしまった。


「うわっ……すっごいよ」

「本当?」


 スーツケースを端っこに置いた光が私の隣に腰を掛ける。


「本当だっ!?」


 光が座って油断した瞬間に、身体を起こして光の膝に乗り押し倒す。


「ほら、寝心地も良いでしょ?」

「うん。それは良いけど、上に火蓮さんと翼ちゃんがいるんだよ?」

「上だから大丈夫だよ」


 上に覆い被さりながら、光にキスをする。かー姉とつばちゃんがいる事を気にしていた光だけど、しっかりと受け入れていた。まだ夕方前なので、あまりやり過ぎないようにしていると、部屋がノックされた。

 光の上から退いて、扉を開けるとかー姉が立っていた。


「どうしたの?」

「夕飯と朝飯の買い出しだ。光を借りてくぞ」

「だって」

「あ、は~い!」


 走ってきた光を連れて、かー姉は買い出しに行ってしまった。さすがに部屋に一人でいるのは寂しいので、つばちゃんのところに向かう。つばちゃんは、リビングの方にいた。

 リビングにはふかふかのソファが置いてあって、テレビとローテーブルもある。さらに、普通のテーブルと椅子も置いてあるので、食事はそっちでする事になるかな。


「つばちゃん、何してるの?」

「火蓮達が帰ってくるまで、私達の方で出来る事はないから、ゆっくりしているところよ」

「ふ~ん、よいしょっと」


 私もソファに座って、つばちゃんの膝に頭を乗せる。昔は良く膝枕をして貰っていたので、普通に乗せてしまっていた。つばちゃんも何も言わないので、このまま膝枕の状態でつばちゃんが見ているテレビを観る。

 一時間くらいしたところで荷物を持ったかー姉と光が帰ってきた。


「あ~! 白ちゃんズルい!!」

「私じゃなくて、白の方なのね……」


 つばちゃんに膝枕をして貰っている私を羨みながら、光は荷物を持って冷蔵庫の方に向かい仕舞っていく。それが終わるとソファの方に来て、私の上にのしかかった。若干重いけど、光なので気にならない。かー姉は、私達がいる方とは逆側に座った。

 そこからは、普通に世間話をしていき、程よい時間になったところでつばちゃんと一緒に夕飯を作って食べた。


「それじゃあ、白と光は先にお風呂に入ってきなさい」

「は~い」

「はい」


 寝室に戻って下着と寝間着を持ってから、お風呂に入る。お風呂場も結構広い。二人で入ってもまだ余裕があるくらいだ。二人で洗いっこをしてから、湯船に浸かる。広々としていても、私と光はぴったりとくっついて浸かっていた。くっついているのは、肩とかだけじゃないけど。

 お風呂から出た後は、リビングで皆と過ごしてから寝室に入る。車でぐっすりと寝ていたからか、まだあまり眠くはない。なので、光が座っているベッドの方に行く。


「白ちゃん?」

「一緒に寝よ。こういう機会って、全然無いし」

「えっ……えっと……うん」


 光の隣に座って、手を重ねる。指と指の間に私の指を入れていると、ちょっと安心する自分がいる。


「そういえば、買い物に行ってる間にかー姉と何か話した?」


 ちょっと気になったので訊いてみた。


「う~ん……特別な事は話してないかな。最近、ワンオンで何をしてるのかとか、火蓮さん達をお姉ちゃんって呼んでも良いとかそんな事くらいだよ」

「前半はともかく後半は特別な事だと思うけど……呼ぶの?」

「う~ん……お姉ちゃんと思ってはいるんだけどねぇ」

「まぁ、つばちゃんはともかくかー姉達の呼び方に関しては、昔から全く変わってないもんね。緊張するのは分かるかも。まぁ、ゆっくりと呼べるようになれば良いと思うよ」

「うん。そうする」


 そう返事をした光が、私の頬にキスをした。それがきっかけだった。声を我慢する光も可愛かった。ちょっと寝不足にさせちゃったのは悪かったかな。

 翌日は、水族館に行って楽しみ、夜はバーベキューではしゃいだ。

 クリスマスイブは、皆で海の近くに行って、浜辺などを歩いていった。クリスマスイブにそんな風に過ごした事はなかったけど、冬の海というのも良いものだった。夜は、皆で手巻き寿司を作ったりして、結構楽しかった。

 クリスマス当日は、どこにも行かずにゆっくりと過ごした。寝室で光と一緒にいる時間の方が長かったけど、これはかー姉達も同じだ。この一日だけでも、光の事をもっと好きになった気がする。そのくらい濃い一日だった。

 その翌日は、観光地巡りをしていった。明日のお昼には帰る事になるので、最後に色々な場所での思い出作りが出来た。車を使えない高校生の内に、ちょっと行きにくい場所にも行けたので、本当に楽しかった。ちょっとドキドキとする事もしたけど。

 最終日は、軽くゆっくりとしてから家に帰った。

 光とも楽しい時間を過ごす事が出来たし、もっともっと仲を深めることが出来たので、かー姉とつばちゃんには感謝しないと。この五日間は本当に良い息抜きになったと思う。

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