第366話 色欲の理由
ギルドエリアから闇霧の始祖の部屋に来ると、闇霧の始祖は顔を上げて待っていた。
『大罪持ちになったわけか。何の大罪だ?』
こういうところの気付きは、本当に早い。おかげで、話も早くなって有り難い。
「色欲」
『ん? 大罪なら暴食になると思っていたが……』
「これって、何が原因か分かる?」
『何かの集団や組織に属しているか?』
「うん」
『それは一つの性別で構成されているか? お前以外だ』
「うん」
『それと、確か、お前は精霊を従えていたな。何体いる?』
「えっと八人。他にも氷姫の子と氷炎竜王とライトニングホースも」
『全員性別は同じか?』
「うん」
『なら、原因はそれだな。直接的な関係になくとも、一つの性別に拘りを持っているという判断をされれば、色欲の大罪に繋がる事がある。極希だがな』
アカリの予想通りだった。ただ一つ引っ掛かる点がある。
「極希って事は、そうならない可能性もあったんだよね?」
『ああ。自分の同じ性別でその判定を受けるという事は、本当に稀だ。逆の性別で統一されていれば、可能性は上がるはずだがな。お前の恋愛対象などが女性なら話は別だがな』
「その通りだけど、それって、どこで判断してるの?」
『そうだな……恋人はいるか?』
「うん」
『その恋人と接吻などはしてるか?』
「うん」
『なら、そこでも判定は取られるな。この二点とお前のスキルでは、前者の方が要素が濃かったのだろう』
つまり、ゲーム内でイチャイチャしていなければ、暴食になっていた可能性の方が高くなっていたというところかな。
『だが、まだ【暴食の大罪】を諦めるには早い。大罪の複数持ちは、過去に例があるらしいからな』
「そうなの? でも、SPがマイナスなんだよねぇ……」
『進化の代償という事か。そこは、自分で補うしかないな』
「やっぱり? まぁ、頑張るか……」
『そうしろ』
さすがに、闇霧の始祖もこれを解決する方法を持ち合わせていなかったので地道にレベル上げをして、SPをプラスに戻さないと、新しいスキルも収得出来ないから、このまま成長できなくなる。
「そういえば、大罪の複数持ちは可能って言ってたけど、入手方法とかは分かるの?」
暴食に関しては、今のスキルを統合すれば大罪になりそうな気がするけど、他の大罪は検討もつかない。実際【色欲の大罪】の入手した理由に関しては、私も予想外だったし。
『予測は出来るな。だが、お前自身の行動が関係するからな。暴食以外の大罪は難しいだろう』
「えっと……他の大罪は、傲慢、憤怒、嫉妬、強欲、怠惰だよね。それぞれに合った行動をすると手に入るの?」
『それに値するスキルを持つという事もある。それと、これは恐らくだが、大罪を持つモンスターを倒す事でも引き継げる可能性がある。それだけの素質があればの話だ』
それなりに具体的な情報をくれる。という事は、何かしらの情報源があるはず。
「それって、実例があるって事?」
『かなり古い文献に載っていただけだ。確証はない』
「ふ~ん……まぁ、そんなモンスターに会う事なんて、そうそうないよね」
『そうだろうな』
闇霧の始祖もこう言うという事は、本当に遭遇する確率は低そうだ。他にも気になる事はあった。
「素質っていうのは?」
『今のお前の状態だろうな』
「【大悪魔】から進化している事って意味?」
『そうだ』
「それって、結構難しいよね」
『そんな簡単に大罪持ちになれるわけがないだろう。悪魔の最上位に位置する存在だぞ』
「それもそっか。それじゃあ、私は行くね。教えてくれてありがとう」
『最後に、今の状態で【魔聖融合】は使うなよ。ほぼ確実にお前も死ぬぞ』
言われるまで考えもしなかった。最上位の天使と悪魔の光と闇。これらを合わせてしまえば、これまで以上の被害を出す事になるだろう。恐らくエリアのほとんどを破壊する事になると思う。
「あっ、そうだね。気を付ける」
そう言って、闇霧の始祖の元から出て行き、ギルドエリアに戻る。時間的にはまだ余裕があるので、屋敷の自分の部屋にベッドに寝っ転がって沈没船から手に入れた本を読む。全部で四冊あるけど、全て日記だった。最初の方は、本当に普通の日記だった。その日にあった楽しい出来事や故郷で待っている奥さんへの言葉など温かい日記ばかりだった。どうやら、あの沈没船は、まだ試作したばかりの船で実用試験の途中だったらしい。
ただ日記の最後は不穏な終わり方になっていた。
「船を遙かに超す程の大きさの蛇。船底に穴を開ける程の顎。海の怪物か……」
そんな怪物は見た事がない。大洋エリアにも、そんなモンスターはいなかった。一体どこのモンスターにやられたのだろうかと思っていると、目の前にウィンドウが出て来た。
『クエスト『大洋に潜む怪物』を開始します』
何か新しいクエストが始まった。このクエストが始まってようやく出会えるモンスターなのかもしれない。
「でも、この内容だと出て来るモンスターって、アレだよなぁ……」
「アレって?」
いつの間にかベッドに上がってきていたアク姉が訊いてきた。ベッドの上で捕まりそのまま足の間に入れられ、後ろから抱きしめられる。ほぼほぼ抱き枕状態だ。
「これ」
アク姉に日記を読ませる。
「あぁ~……なるほどね。リヴァイアサンだね」
「だよね。あっ、もしかして、これってアク姉もクエスト出た?」
「ううん。フラグがこれだけだと満たされないみたいだね。この本は、どこで手に入れたの?」
「深海エリア」
「えっ!? 深海エリアに行ったの!?」
「うん」
驚いたアク姉に揺らされながら返事をする。
「でも、あそこに入ったら基本的に即死って言われてるんだよ!?」
「何で?」
「水圧で」
「ああ、なるほど。私、【適応】持ってるから」
「あっ、そういえばそうだね。私達は深海に耐えられる服を作って貰ってるところだけど、ハクちゃんは素のままで行けるって事かぁ。いいね」
「良いでしょ。ついさっき、水の中でも呼吸できるようになったよ」
「えっ!? エラ呼吸!?」
アク姉に身体をペタペタと触られるけど、私の身体にエラ呼吸用のエラはない。というか、こんな事ばかりしているから、【色欲悪魔】になったのかな。アク姉は、姉だけどゲーム内じゃ関係ないしね。
「あっ、そうだ。私、SPがマイナスになったから、アク姉達も気を付けてね。特別なスキルの進化とかだと、強制的に持っていかれるみたいだから」
「えっ……そんな事もあるの?」
「うん。【大悪魔】が強制進化して【色欲悪魔】になったらなったから、そういう特別なスキルだけだと思うけどね」
「ああ、そういえば、ハクちゃんはそういうスキルがいっぱいだったね。ん? 色欲?」
「うん」
アク姉に闇霧の始祖から聞いた事を伝える。
「はぇ~、私達もそういう判定に含まれるんだ?」
「みたいだよ。一番は、アカリとキスしてたからみたいだけど」
「う~ん……まぁ、ゲーム内でするのはそういう判定になるかもね。ハクちゃんが、そんなえっちな子になっていたなんて……」
「アク姉も似たようなもんじゃん」
「そんなことないよ」
そう言いながら私の髪に鼻を当てて匂いを嗅いでいるので、どの口が言っている状態だった。
「やっぱハクちゃん吸いは良いね」
「人をヤバいものみたいに扱わないで欲しいんだけど」
そのまま夕飯の時間までアク姉と話しながら過ごした。何故かお風呂に連れて行かれたりもしたけど、普通に楽しかった。
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