第365話 深海に残る沈没船

 【海神のお守り】の効果でタンクが必要なくなったらしいけど、一体どのような感じなのだろうか。そう思って、海水の中に顔を突っ込む。すると、地上で呼吸するように海の中でも呼吸する事が出来た。でも、水の中という事は変わらないようで、泳いで移動する事になる。基本的にはレインに引っ張っていって貰うのが速いかな。後は、水の中でレインと会話できるか。


「あ~……何とかいけるか」


 水中という環境は変わらないので、声を張らないと喋りにくいけど、一応意思疎通は出来ると思う。レインが聞き取りにくいだろうから、そこだけ申し訳ないけど。


「レイン。行こうか」

『うん!』


 レインに引っ張って貰いながら移動していると、【万能探知】にイモータルメガロドンが反応した。レインが反射的に移動しようとしたけど、私は首を横に振る。


「確かめてみよう」


 ポセイドンさんは、【海神のお守り】を持っていれば、イモータルメガロドンが敵対する事はないと言っていた。だから、こうして近くに来ても、こっちには見向きもしないはず。念のため、レインとは手を繋いでおく。イモータルメガロドンは、私達の方に向かってくる。

 イモータルメガロドンは、私達を一瞥しながら、すぐ横を通り過ぎていった。その際にイモータルメガロドンの身体をよく見る事が出来た。その身体には、大きな三つの傷が付いていて、それ以外は綺麗なままだった。


「イモータルなのに、傷が残ってるんだね」

『傷が三つ並んでいたから、三つ叉の槍じゃないかな?』

「三つ叉の槍……サハギンが持っていたのだと小さいから、それよりも大きなものって事ね。う~ん……そういえば、ポセイドンさんが持っている槍みたいなのも三つ叉じゃなかったかな。そう考えると、ポセイドンさんがイモータルメガロドンと戦って従わせているって感じなのかな」

『そうかも。これで安全に探索出来るね』

「そうだね。神様とは仲良くした方が良いって事かな。これから先、どんな神様に会うのか分からないけど」


 ポセイドンさんのおかげで快適な深海ライフを送る事が出来ていた。深海には、他に沢山の沈没船と地面の中に鉱石や宝物などが埋まっていたりした。お金稼ぎにぴったりって感じなのかな。

 そして、これまでの沈没船とは大きさが桁違いの沈没船を発見した。それは、深海エリアの一番奥に沈んでいた。


「でっか……これは調べるのに時間が掛かりそうだね」

『うん。それに、これまでと材質が違うみたいだよ?』

「ん? ああ、本当だ。あまり気にしてなかったけど、これ金属製だね。これを沈められるようなものがあったって事だけど……」

『大きな穴』

「ね」


 金属製の沈没船には、一箇所大きな穴が空いていた。その穴は、丸い穴などではなく、何かが食い千切ったような跡だった。


「イモータルメガロドンかな?」

『ううん。もっと大きいと思うなぁ』

「じゃあ、イモータルメガロドンより大きなモンスターがここにいるって事?」

『それはないよ。それだったら、今の私が見つけられないわけないもん』


 レインは胸を張って自信満々にそう言う。身体は成長したけど、中身は変わっていない。可愛さの中に美しさが混じったみたいな感じだ。取り敢えず、可愛いので頭を撫でておく。


「それじゃあ、中を探してみようか」

『うん!』


 その大きな穴から、レインと一緒に沈没船の中に入っていく。金属製だから、足を着いても急に崩れるという事はなかった。それでも錆び付いてはいるので、色々と気を付けないといけない。


「レイン。何か変わったものはない?」

『変わったものばかり!』

「そっか」


 レインが見た事のないものばかりという事は分かった。私もこういう船はゲームでしか見た事がないので、何が何なのかは分からない。レインと一緒に進んでいくと、どんどんと船底の方に行く事になった。その船底には、何か変なものがあった。丸い形の動力炉みたいだ。その動力炉に触れてみると、動力炉がアイテム化した。


「へ? 持って帰れるの?」


 まさか、動力炉を持って帰られるとは思わず驚いた。アイテム名は液体魔力動力炉というよく分からない名前だった。取り敢えず、アカリへのお土産にする。


『お姉さん、こっちこっち』

「ん?」


 レインに呼ばれた方に向かっていくと、そこには水晶のような塊が落ちていた。拾い上げると固体魔力水晶というものだという事が分かった。


「固体魔力水晶だって」

『何それ?』

「さぁ? アカリにあげないと分からないかな。他には、何かある?」

『あっちに、沢山水晶があったよ』

「ん? 本当だ。どこかに保管庫があるのかな」

『う~ん……こっち!』


 レインが進んでいく方向に泳いでいくと、大量の固体魔力水晶が落ちていた。これを液体にして燃料にしていたのかな。

 そこから沈没船の探索をしていると、人が住んでいたような船室で青い靄を発見した。前にもやったように血を広げて、直接血の中に収納する事にする。一瞬だけ見えたのは、日記のようなものだった。いくつかの靄を見つけて回収していき、船橋までやって来た。

 その船橋にも靄があり、回収する。多分、これで沈没船の中の靄は全部回収出来たと思う。


「これ以上の情報は無さそうだし、一旦ギルドエリアに帰ろうか」

『うん!』


 レインに引っ張って貰って、深海エリアから大洋エリアに移動し、そこでレインをギルドエリアに帰してから、【悪魔王翼】で空を飛び湖畔の古都に移動してからギルドエリアに転移した。【悪魔王翼】は、これまでの【大悪魔翼】よりも一回り大きな羽だった。そのせいか、他の羽と併用は出来ないみたい。ただ、一対の羽でも【熾天使翼】と同じくらいの速さが出た。

 ギルドエリアに帰ってきたら、ちょうどアカリが実験室から出て来たところだった。


「あれ? ハクちゃん、おかえり。もう探索は終わったの?」

「うん。半分くらい探索が出来たからね。一応大きな成果も手に入れたしね」


 アカリに沈没船で見つけた動力炉とかを渡していく。


「何これ? こんなの見た事……あれ? 見た事あるなぁ」

「あるの?」

「うん。本で見たことがある。強力な発電機って感じだったかな。これがあれば、もっと色々な事が出来るよ。まぁ、直せたらの話なんだけどね。この固体魔力水晶にも秘密がありそうだし、多分どうにかなるとは思うけどね。そういえば、タンクの方は問題なかった?」

「うん。深海でも問題なく使えたよ。最終的には必要なくなったけど」

「そうなの?」

「うん。神様に会って、水の中でも呼吸が出来るようになったから」

「わぁ……どんどん超人化してるね」


 確かに、普通のプレイヤーでは耐えられない環境に耐えられたり、水の中で呼吸が出来るのは超人かもしれない。


「そうだ。後、【大悪魔】も進化してSPがマイナスになったんだけど、そういう人って他にいるかな?」

「マイナス? さすがにないと思うよ。SPが足りなかったら、スキルは取れないし。【熾天使】と同じで特別な進化だからかな。でも、マイナスは困るね」

「本当だよ。スキルは一切取れないし、【神力】の封印を解くのも先になるし、何か【色欲悪魔】になるし、【色欲の大罪】も手に入っちゃうし」

「色欲? 悪魔の種類が?」

「うん」

「何で? そんな要素のあるスキル持ってたっけ? どちらかというと、暴食じゃない? 現実が反映されているわけもないから」


 アカリも同じ意見だった。やっぱり認識としては暴食になる確率の方が高いとなるみたい。


「考えられるのは、女の子ばかりテイムしてるからとか?」

「へ?」


 そう言われて、これまでテイムした皆を思い返す。確かに、私がテイムしているのは女の子ばかりな気がする。スノウとエレクも性別は女子だ。


「でも、私自身も性別は女だから、色欲って感じではないんじゃない? 異性を集めるとかだったら分かるけど」

「性別が一種類で固まってるから、ハーレムを築こうとしてるって判断されてるとか。ギルドも皆女性だし」

「なっ……そんなところから判断する!?」

「でも、あり得ない話だと思うなぁ。始祖さんのところには行ったの?」

「ううん。アカリにお土産を渡してから行くつもりだったから」

「じゃあ、聞いてみた方が良いかもね」

「だね。それじゃあ、行ってくる」

「うん。いってらっしゃい」


 アカリの頬にキスをしてから、闇霧の始祖の元に向かった。

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