第358話 神桜都市の主

 神桜都市は、沢山の和服の人で賑わっている。街中を歩いている私をちらちらと見てくるけど、それ以上は何もしてこない。珍しいという風には感じているみたいだけど、干渉はしてこないみたいだ。でも、街に入った時からしている視線は続いている。歩いていて、ようやく視線がどこから来ているのかが分かった。それは、かなり奥の方にあるお城からだ。


「偉い人が見ている感じかな」


 そんな独り言を呟いていたら、正面から綺麗な和服を着た女性が向かってきた。完全に私の方に来ているので、その場で止まって相手を待つ。


「ようこそ、神桜都市へ。城主がお会いしたいと申しております。こちらへお越しください」


 有無を言わせず、女性は城の方に歩いて行った。無視するのも問題になりそうなので、そのまま付いていく。街の中は基本的に食事処や鍛冶屋や服屋が多かった。それぞれ特色のあるものみたいだ。

 そのまま進んでいき、城門を抜けて城の中に入る。お城も和風なお城で全体的に木が使われている。雰囲気も良い感じだけど、大きさのわりに中にいる人の数が少ない。


「ここには城主さんしか住んでいないんですか?」

「いえ、私と他二名も住まわせて貰っています」


 つまり、計四人で住んでいるという事だ。城主さんとお世話係三人って感じかな。そのまま大広間とかまで案内されるかと思ったけれど、案内されたのは小さな居室だった。その中には、綺麗な和服に羽衣を着た女性がいた。綺麗で可愛らしい女性で、現実にいたら男性も女性も一瞬で虜にされてしまうと思う。私もアカリがいなかったら危なかったと思う。


「無理に連れてきてしまい申し訳ありません。私はサクヤと申します」

「あっ、私はハクです」


 急に自己紹介されたので、こっちも簡単に自己紹介した。


「ハクさんですね。早速ですが、一つお聞かせください。どのようにして、この神桜都市に入ってきたのですか?」

「えっと……精霊の力ですかね」

「精霊でしたか。てっきり、貴方も神の一柱なのかと」

「いえ、私はどちらかというと天使……って、貴方も? という事は、サクヤさんは神様ということですか?」

「はい。私は地上に降りた神です。今では土地神に近いでしょうか」


 まさかの神様だった。天使には出会っているけど、まだ神様には会った事がなかった。神様と同等の力を持ったレインはいるけどね。


「本来ここに入る事が出来るのは、この街の住人だけなのですが、精霊と聞いて納得しました。それに、貴方が天使という事も。天上界には行きましたか?」

「あ、はい。今は、セラフさんに稽古をつけて貰っています」

「そうでしたか。あっ、すみません。立たせたままで。こちらにどうぞ。お茶をよろしくお願いします」

「かしこまりました」


 お世話係の人は一旦部屋を出て行った。別の場所でお茶の準備をしてくれるらしい。私は、サクヤさんに案内されて畳の上に置いてある座布団に正座で座る。ちゃぶ台を挟んだ対面にサクヤさんも座る。


「天使としての修行を進めるのは、神に至るためですか?」

「へ? いや、根源を得るためですけど……」

「そうなのですか?」

「それに、私吸血鬼で悪魔でもあるので」

「ああ、だから変な雰囲気だったのですね。なるほど……邪神に至りそうですね」


 サクヤさんは笑顔でそんな事を言う。


「邪神に至るって、悪いことなのでは?」

「そうですね。世界を滅ぼすような方であれば危険ですね。大人しい邪神なら歓迎ですよ」

「そんなのがいるんですか?」

「中にはいましたね。邪神というだけで毛嫌いする方もいらっしゃいますが、ただ邪神となってしまっただけという事もありますから、私は気にしません」


 サクヤさんは心の広い神様らしい。邪神と言えば災いをもたらす神様になると思うけれど、大人しい邪神もいるらしい。

 ここでお世話係の女性が戻ってきて、私とサクヤさんの前にあるちゃぶ台にお茶を置いて出て行った。見張りでいないという事は、私の事を信用してくれているって事なのかな。


「あっ、このお茶美味しい」

「神茶ですから」


 神様のお茶かな。本当に美味しい緑茶だった。神茶を飲んでいると身体がぽかぽかとしてくるのを感じる。


「……ハクさん、既に根源をお持ちなのですか?」

「あ、はい。血の根源を持ってますけど」

「あ~……思えば、セラフから教えを受けているという事は【熾天使】ですよね。こちらの考えが足りませんでした」

「といいますと?」

「【神力】の解放が始まります。中途半端に終わらせると、歪な形での解放になる可能性があります。こちらへお越しください」

「え? あ、はい」


 唐突に始まった【神力】解放イベントに困惑してしまう。でも、取り敢えず、サクヤさんに付いていくしかない。


「これって、根源を持っている事が条件なんですか?」

「根源は神に近い力です。さらに【熾天使】となれば条件の一部は達成しています。その他条件のどれを達成しているのか分かりませんが、ハクさんの様子から条件を満たしている事は分かります。放っておいても完了するかもしれませんが、より確実に解放できるようにサポートします」

「サポート?」

「はい。ハクさんには、今からお風呂に入ってもらいます」

「お風呂ですか?」

「はい。神の力が満ちたお風呂に入り、しばらく浸かって貰います」


 それならレインの泉に入っていても同様の効果を得られるのかな。それか、ここのお風呂は他に特別な力があるとかなのかな。

 案内された浴場で水着に着替えて湯に浸かる。湯船はプールみたいな広さがあるので、本当に広々と入れる。そして湯には、様々な種類の葉っぱやら花やらが浮いている。一つはアンブロシアと分かるけど、他の花はよく分からない。


「これって……いつまで浸かっていればいいんだろう」

「取り敢えずは、神の力が身体に浸透するまでですね」


 そんな声が聞こえたと思ったら、隣にサクヤさんがやって来た。サクヤさんは浴衣を着ている。まさか一緒に入ると事になるとは思わなかったけど、師匠とも一緒に温泉に入っているので、特に気にはならない。


「神の力が浸透するというのは、どうしたら分かるんですか?」

「身体の中に何かが入ってくるような感覚はありませんか?」

「う~ん……何となくなら」


 身体の中に何かが入ってくるというよりは、お風呂に入って身体が温まってきているというような感覚に似ている気がする。


「それが明確に分かってくると思います。それまでは、こうしてゆっくりと浸かってください」

「なるほど。というか、何故サクヤさんも一緒に?」

「いえ、お一人では退屈だろうと思いまして。せっかく同性なわけですし、裸の付き合いというものですね」


 どうやら同性専用イベントらしい。まぁ、その前に色々な条件が必要になるけど。思いも寄らぬ【神力】収得イベント。このままお風呂に入っているだけで終わるといいけど。

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