第359話 【神力】収得イベント(?)とお近づきの印
湯に浸かっていると段々と身体の中に何かが入り込んでくるというのが分かってきた。ただやっぱり例えるなら、身体が温まっていく感じが近い。身体の外側から心臓の方に向かって力が浸透していく。それが段々と強くなっている。
「そこから少し辛くなっていきますが、我慢してください」
サクヤさんの言うとおり、少しだけ苦しい感覚に変わっていった。満腹まで食べたのに、まだ突っ込まれるような感じだ。身体が弾けそうな感じがする。
「呼吸は止めず、ゆっくりと続けてください」
深呼吸をしろという事かな。ゆっくりと息を吸って吐いてを繰り返す。すると、段々と身体の周囲に虹色の膜が出来始めた。同時に、内側から何かが溢れようとしてくる。
「んぐっ……」
額から角が生えてきて、【熾天使翼】ではなく【大悪魔翼】が生えてくる。鬼と悪魔の力が神の力に反応しているという事なのかな。この状態は良いのか悪いのか分からない。
「抑え込まず、そのまま解放し続けてください」
「それは……大丈夫……なんですか……?」
「はい。寧ろ、その方が良いです。貴方自身の力に神の力を浸透させましょう」
サクヤさんにそう言われたので、このまま力は抑え込まない。全ての力を解放したまま、神の力を受け入れ続ける。そのまま五分くらい経ったところで、角と羽が引っ込む。次いで、神の力も身体に入らなくなった。いや、その感覚が消えただけなのかな。
「上手くいったようですね」
そう言われたのと同時に、ウィンドウが現れる。
『【神力(封)】を強制収得しました』
上手くいったと言われたけど、スキルの文字に封とある。どう考えても封印状態だ。
「封印されているみたいなんですけど」
「満たしたのは宿す条件だけで、解放する条件は満たされていないという事でしょう。恐らくは経験でしょうか」
「経験?」
そう言われて【神力(封)】を調べてみると、解放条件にSP1000が必要みたい。経験というのが、SPという事かな。
「う~ん……一応、神の力は身体に宿ったって事ですよね?」
「そうですね。早く神の力を解放出来ると良いですね。解放したら神界に一緒に参りましょう。私の故郷を紹介しますよ」
「天上界の他に神界なんて場所があるんですか?」
「はい。天上界は天使以上でないと入れず、神界は神にならなければ入れません。今のハクさんは天使以上神未満ですので、まだ神界には入れませんね」
「そうなんですね」
SPを溜めないといけないから、いつになったら神界に行けるようになるか分からない。でも、サクヤさんの故郷は気になる。
「神界は、天上界と違うんですか?」
「そうですね。様々な世界が区画に分けられた世界というところでしょうか。私の故郷は、ここと同じで自然豊かで良い場所ですよ」
「へぇ~、ちょっと興味ありますね。サクヤさんは、いつでも帰る事が出来るんですか?」
「はい。地上に降りてきたとはいえ、追放された訳ではありませんので」
自分から降りてきたから、普通に帰る事も出来るみたい。この街に居付いて土地神みたいになっているだけって感じなのかな。
「そういえば、根源って神に近い力なんですよね?」
「そうですね」
「じゃあ、サクヤさんも根源を持っているんですか?」
私が【神力(封)】を得る条件が、根源を持っている事と言っていたので、サクヤさんも持っているのかなと気になって訊いてみた。
「はい。私は、火と土の根源を持っています」
「へぇ~、どうやって手に入れたんですか?」
「私は神ですから、生まれた時から持っていますね」
「あ、そうなんですね」
根源を手に入れるヒントを得られるかと思ったけど、全く参考にはならなかった。やっぱり地道に属性を育てるしかないみたいだ。セラフさんのところに通わないといけない。
「血の根源を持っていらっしゃるハクさんは珍しいですよ。少なくとも神の中にはいません」
「私が神になったら、初めての神になるって事ですか?」
「私がいない間に生まれていたら分かりませんけどね」
「地上に降りてどのくらいなんですか?」
「どのくらいでしょうか? 数百年という事は分かるのですが……」
「まぁ、長く生きてたら、あまり気にしないですよね」
「そうですね。年齢も忘れてしまいますから」
そう言いながら笑い合っていたけど、私は十五年しか生きていないので、サクヤさんの気持ちはあまり理解出来ていないかもしれない。
「そうだ。せっかくですから、ハクさんにお近づきの印に良いものをプレゼントさせてください」
「良いものですか?」
「はい。ハクさんにもお似合いになると思います。準備をして参りますので、後十分はゆっくり浸かっていてください」
「あ、はい」
サクヤさんは先に出てしまったので、一人でぼーっと湯船に浸かっていた。一人で長風呂はあまりしないので、若干退屈だったけど、サクヤさんが十分は浸かっているようにと言うくらいだから、その必要があると思って浸かり続けた。
いつもの服に着替えてから浴場を出ていくと、私を迎えに来たお世話係の女性がやって来た。
「こちらへ」
案内されて行った場所は、ちょっとした広間だった。そこには沢山の着物が掛けられていた。その中で、サクヤさんがタンスから着物を出している。
「う~ん……これも良いですね」
それを近くにいたお世話係の女性が受け取って、また衣桁に掛けていた。色や柄が全部違うし、見た事がないくらいに綺麗なので、目を奪われてしまう。
「あっ……これも良いですね」
また着物が増えていく。その度に衣桁も増えていくのでお世話係の人達が忙しなく動いている。
「あっ、ハクさんは、そちらに座っておいてください。少々時間が掛かりそうですので」
「あ、はい。分かりました」
私を案内してくれたお世話係さんが座布団を置いてくれたので、そこに座って待つ。十分間浸かっていてと言われたのは、この時間があったからなのかな。
そのまま五分間待つと、どんどん着物が増えていった。あの中の一枚を貰えるって感じなのかな。滅茶苦茶高そうだし、着物の良し悪しを知らない私でも良いものという事がよく分かる。
「面倒くさいから全部あげましょうか」
その一言でお世話係の人達がどんどんと着物を畳んでいき持ってきた大きな桐の箱に入れていく。
「えっ、本当に全部プレゼントになるんですか?」
「はい。せっかくですから」
「それでも、十枚以上は貰いすぎな気がするんですが……」
「沢山あるのでお気になさらず」
これは貰わないといけないパターンだ。こんないっぱいの着物をどうすればいいのだろうと思うけど、ちょっと着てみたい欲はあるので、ギルドエリアで着てみようかな。
「では、いただきます」
「はい。沢山着てあげて下さい」
「でも、どうしてこんなに沢山の着物を?」
「私の趣味です。色々と試しましたが、着物を織るのが一番楽しいですね」
どうやらアカリと同じ趣味らしい。ただアカリが洋服を作っているのに対して、サクヤさんは和服を専門に作っているみたいだ。アカリと気が合いそう。
「じゃあ、私はそろそろ失礼しますね」
「あ、はい。既にハクさんは、この街に入る権利をお持ちですから、次からは精霊の力を借りずとも入る事が出来るようになります。是非、またお越しください。歓迎します」
「ありがとうございます」
「城門までお送りします」
「お願いします」
さすがに城の構造を把握しているわけじゃないので、お世話係さんに城門まで案内して貰った。送って貰ったので、頭を下げてお礼を言ってから、街の中央に行って転移出来るようにする。これもサクヤさんに許可を貰わないと出来なくなっていたのかな。見つけるのも受け入れられるのも難しそうな街だった。
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