第357話 新大陸桜エリア
メアリーが長袖の作業着に着替えて、鉱石をインゴットに変えていく。本当に慣れた手付きでどんどんと変えていくので、経験者なのではと思ってしまう。これが、登録されたプレイヤーのスキルを反映するという事なのかな。
アカリは、メアリーが作ったインゴットを確認していった。
「おぉ……私が手作りしたインゴットと同じ品質だ。MP消費で作るより全然良い!」
「へぇ~、スキルのレベルとかまで反映してるのかな?」
「多分、そうかも」
アカリが時短で済ませていたものの品質が上がるので、これからアカリが作るものもどんどんと良いものに変わってきそうだ。
「全然問題無さそうだね。じゃあ、私は桜エリアに行って来るね」
「うん。いってらっしゃい」
そう言ってアカリが頬にキスをしてくれるので、私も同じように返してから、新大陸湖畔エリアにある湖畔の古都に転移した。そして、そのまま東に飛んで桜エリアに転移する。桜エリアは、入った瞬間から桜が咲き乱れていた。とても綺麗で居心地の良い場所だと思う。
「うわぁ……花見会場としては、満点かな」
見える範囲には桜しかなく、道のような場所もないので、迷子になりそうなエリアだ。空を飛んでから周囲を見回してみる。一面ピンクと白ばかりで、目立つのは、小高い丘みたいな場所だけかな。
「飛んで調べるのは無理がありそうかな。【召喚・ラウネ】【召喚・エアリー】」
周囲に植物が溢れている点から、ラウネが適切だと判断して、ラウネを召喚した。エアリーは、こういう開けた環境で最強なので、召喚しておいた。ついでに、蝙蝠達も放ってマッピング距離を稼ぐ。
『わぁ……ハク姉。この植物欲しいの!』
「え? 桜? う~ん……モンスターからドロップしなかったら、枝を貰っていくでも良い?」
『うんなの!』
枝を折って挿し木をするにしても、成功するかは分からないので、モンスターから苗がドロップするのを期待する方が良いと考えた。ここまで特徴的なエリアなら、ドロップしてもおかしくはないかなと思ったというのもある。
『お姉様。周囲の木々に擬態しているモンスターがいます』
「おっ、早速苗を落としそうなモンスターだね。基本的には拘束でお願い。私が吸血したいから」
『うんなの』
『はい』
エアリーが言っていたモンスターの方に向かうと、大きな桜の木が襲い掛かってきた。名前は、サクラトレントというモンスターで、幹に目と口になる穴が空いている。サクラトレントは、枝を振り回して襲い掛かろうとしてきたけど、ラウネがその動きを止めた。ラウネが止めてくれている間に、サクラトレントに近づき、その幹に牙を立てる。サクラトレントが溜め込んでいる水等が口の中に入ってくる。少し青臭い感じもするけど、最悪の味と匂いである血よりはマシだった。
手に入れたスキルは、【植物操作】というスキルだった。
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【植物操作】:植物を操作する事が出来るようになる。
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操作系スキルの植物版だ。控えでは発動しないから、入れ替えながら使う感じになるかな。
「あっ、苗木落ちた」
『本当なの!?』
「うん。ギルドエリアに行ったら渡してあげるね」
『うんなの!』
ご機嫌なラウネに、思わずエアリーと一緒に笑ってしまう。その後、桜妖精という花びらを纏った小さい妖精と桜幽鬼という火の玉を周囲に浮かせた死装束の女性のモンスターと遭遇した。桜妖精は丸呑みすればいいので楽だったけど、桜幽鬼は短刀を持って絶叫しながら襲い掛かってくるので、ちょっと怖かった。豪雨エリアの狂乱桜に似ている。
その二体からは、【混乱の魔眼】と【発狂】のスキルを手に入れた。
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【混乱の魔眼】:MPを消費して、見た対象を混乱状態にする事が出来る。控えでも効果を発揮する。
【発狂】:一定以上の声量の絶叫で相手を拘束する事出来る。
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【発狂】は、人前で使うのは恥ずかしいかもしれない。一定以上の声量がどのくらいかにもよるけど。桜幽鬼と同じような声量だったら、私はあまりやりたくない。全力の絶叫になるし。
取れるスキルは全て取ったので、残りのモンスターは倒して貰いながら進む。周囲を見回していたけど、特に何も見当たらない。相変わらず綺麗な桜が広がっているだけだった。
「エアリー、何かあった?」
『いえ、特には』
「ラウネは?」
『う~ん……ただ木が生えているだけなの。だから、何かあるって感じはしないの』
「そうなんだ。街でもあれば良いんだけど……」
『それでしたら、最奥にあります』
「へ?」
いつの間にかエアリーは街を見つけていたみたい。私が探しているものは、大抵隠しエリアなどの隠された何かである事が多いので、私の質問をそういったものと判断して答えていたって感じかな。
『ご案内しますか?』
「うん。お願い」
『わ、私も頑張るの』
「うん。よろしくね」
自分も役に立ちたいと思ったのかラウネが意気込んでいたので、頭を撫でてあげる。サクラトレントの動きを止めたり、普通に倒したり、全然役に立っていないわけでもないし気にしないでも良いのにね。
皆で歩いて移動しているけど、一向に街に辿り着かない。
「エアリー。後、どれくらい?」
『既に見える範囲にありますが……見えませんね』
「う~ん……幻影に隠れてるとか?」
『可能性はあります』
「それじゃあ、エアリーにしっかりと案内して貰わないと駄目そうかな。皆で手を繋いで移動しようか」
エアリーとラウネと手を繋いで移動する。二人とも遠距離攻撃が主体なので、手を繋いでいても問題ない。そのまま歩いていくと、幻影の膜を通り過ぎて、和の雰囲気が漂う街に着いた。
「おぉ……本当に幻影だった。エアリーが場所を把握してくれたおかげで辿り着いた感じかな。認識してないと、辿り着けていなかった気がする」
『同感です』
『でも、凄いの。ここの植物の状況は読めなかったの』
「風は通すけど、気配は断つみたいな感じかな。念のため、二人は戻って貰っても良い?」
『はい』
『うんなの』
街中で何があるか分からないので、二人には一旦ギルドエリアに帰って貰った。この街の名前は神桜都市。かなり広い街なので、探索は時間が掛かりそうだ。ただ、何となくだけど、何かに見られているような感じがする。近くにいる人達が見ているとかではなく、遠くから見られているような感覚。でも、不思議と不快感はない。二人を帰した理由の大部分は、これだった。嫌な感じはないけれど、何かが起こるかもしれない。皆の安全は最優先事項だ。
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