第352話 フレ姉との一対一
荒れ地を走りながらプレイヤーを倒していると、真横から嫌な予感がして、身体を前に投げ出して避ける。私の背後を槍が通り過ぎていく。
「絶対フレ姉でしょ……」
槍が飛んで来た方を見ると、崖の上にフレ姉が立っていた。こっちを見てにやりと微笑んでいるから、ようやく戦えるみたいな風に考えているのかな。薙刀を取り出したフレ姉が、こっちに突っ込んでくる……【電光石火】を使って。
「うわっ!? 危なっ!?」
上から薙刀を叩きつけてくるので、ギリギリで人斬りを使ってパリィした。弾かれた衝撃を利用して、フレ姉が距離を取った。
「いつの間に【電光石火】なんて手に入れたの!?」
「ん? ああ、何かライトニングホースと遭遇してな。麻痺をさせてくるから厄介な事この上なかったぞ」
「へぇ~……フレ姉が持つと面倒くさいね」
「簡単に防いでおいて何いってんだ」
そんな会話をしながら、フレ姉が薙刀を振り回してくるので、その攻撃を弾いていく。師匠の攻撃速度よりは遅いから弾くくらいなら簡単にできる。それを見てフレ姉は、楽しそうに笑いながら攻撃の速度を上げてきた。なので、迎撃の速度も上げる。
そして、その中で、影を使ってフレ姉の足を掴む。その影をフレ姉は力任せに引き千切った。
「フレ姉の馬鹿力!!」
「もっと頑丈な影にしておけ」
「じゃあ、こっち!」
一気に血を出してフレ姉を縛る。直後、フレ姉の頭に角が生えて、血の拘束も千切った。そして、黒い闘気みたいなのを纏う。
「嘘!? 黒鬼倒したの!?」
「中々に骨のある敵だったな」
武器による攻撃の一切を無効化する黒鬼は、素手じゃないとダメージを与えられない。だから、私には吸血で倒すしかなかった。【吸血】すら使っていないフレ姉が倒すには、本当に素手で倒すしかない。絶対に無理だと思っていたけど、フレ姉はやり遂げたらしい。色々なスキルでキメラ状態になっている私よりも、フレ姉の方が化物な気がする
こうなると、私も【鬼】を使って力を引き上げるしかない。加えて、人斬りから黒百合、白百合に入れ替えて、血、【神炎】、影、雷、闇を纏わせる。さらに、【天聖】で光の球を作り出し光線を撃ち込む。
それをフレ姉は薙刀で打ち消していた。やっぱり薙刀の扱いに関しては、現実でも心得があるから上手い。さらに、白い男にもやった様々な属性の剣を作りだしフレ姉に殺到させる。
フレ姉は、その剣の弾幕の一部薄くなっている部分を見抜いて、剣を打ち払いながら抜けてきた。速度が一時的に上がったような感じもしたので、【敏捷闘気】か何かを使ったのだと思う。
私の通り道にする予定だった場所なので、私と正面からぶつかる事になる。
「何で対応出来るのさ!?」
「割と分かりやすいぞ?」
「絶対にフレ姉がおかしい!!」
フレ姉の薙刀を弾き続けて、薙刀の耐久値を減らしていく。フレ姉の攻撃速度が速いのもあって、耐久の削れる速度も早くなるはず。そう思っていたら、端こうした薙刀が消失した。
「へ?」
薙刀を仕舞ったフレ姉は、その場で回転していた。その手には、薙刀ではなく槍が握られていた。そのまま勢いよく突き出される。ギリギリで血と影を使った防御が間に合って、フレ姉の突きが一瞬だけ止まる。その間に、【電光石火】で背後に移動したので、フレ姉の突き攻撃はそのまま避ける事が出来た。
そう思っていたら、フレ姉がまたその場で回転する。
「【乾坤一擲】」
「うわっ!?」
回転の勢いを乗せた槍が凄い勢いで飛んで来た。上体を反らして、ほぼブリッジと同じような体勢だった。上体を起こすと同時に、フレ姉の硬直時間が終わった。【電光石火】で突っ込んでくる事は予想出来たので、影を地面から突き出して妨害する。
影にフレ姉が刺さるけど、フレ姉は全く気にせず、いつの間にか入れ替えていた薙刀を振り下ろしてきた。その一撃を白百合で弾いて、黒百合をフレ姉に突き刺そうとする。それを読んでいたかのように、フレ姉は黒百合の腹を拳で弾いてきた。
通常の攻撃だけだと私に勝ち目はなさそうなので、搦め手を使いまくる。【魅了の魔眼】【暗闇の魔眼】を使う。
暗闇状態にはなったけど、魅了状態にはならなかった。耐性があってなりにくい感じかな。でも、暗闇になっているのなら、いくらでもやりようがある。フレ姉の背後に移動して黒百合を突き立てようとする。対して、フレ姉は石突きを突き出してきた。
「見えてるの!?」
「まぁ、別の視界を使えばな」
「あっ……忘れてた」
最低でも【天眼通】は持っているので、暗闇状態でも別の視点から見れば把握出来る。一人称ではなく三人称で自分の身体を思い通りに動かす事が出来るだけのセンスがあればの話なのだけど、フレ姉は色々な意味でイカれているので、平然とやってのける。
しかも、石突きを使われて気付いたけど、フレ姉は薙刀の刃で斬撃、槍の穂先で刺突、それぞれの石突きで打撃の攻撃を使う事が出来る。私とは違った面で様々な攻撃方法があるという事だ。
フレ姉の薙刀による攻撃を捌きながら、【熾天使翼】を広げる。
「飛ばせると思うか?」
「飛ぶ事が目的じゃないかもね!」
【熾天使翼】に【炎翼】を重ねて、羽を燃え上がらせる。そして、【竜王息吹】でフレ姉を焼く。
「【魔刃】」
フレ姉は、私の【竜王息吹】を斬り裂いた。フレ姉の薙刀の刃に半透明な膜が付いていた。あれが、フレ姉が発動した【魔刃】ってスキルか技だと思う。
「何それ?」
「ん? 対魔法用のスキルってところだな。効果の範囲が広ぇから、ハクの炎でも斬り裂けたな」
「確証があったわけじゃないの?」
「ああ。火を吐くプレイヤーなんていねぇからな」
フレ姉は、こういうところの大胆というか強心臓過ぎると思う。負けたら終わりなのに。
【竜王息吹】だと通用しないので、【支配(火)】で【神炎】を出して【暴風武装】で起こす風に乗せて、激しく炎上させる。
それすらも斬り裂くフレ姉だけど、こっちには【無限火】があるので、どんどんと火を出しつつ、【蒼天】と【天聖】を【属性結合】で合わせてチャージする。フレ姉は【電光石火】を持っているので、避けられる可能性も高いけど、一発逆転となると、これしか思い付かない。反転物質は論外だし。
私の口が光っている事に気付いたのか、フレ姉が背後に【電光石火】で移動してきた。【心眼開放】でスローモーションにしているので、背後に現れてから攻撃するまでの間に、防御を間に合わせる事が出来た。
薙刀の振り下ろしを受け止めて、反撃に繋げようと思ったら、フレ姉の薙刀が折れた。その事にフレ姉は一切動揺しておらず、そのまま黒百合と白百合の間合いの内側に入ってきた。そして、私の胸倉を掴むと、思いっきり地面に叩きつけられた。その衝撃で黒百合と白百合を手放してしまう。投げ技をされた経験が少なすぎて、ちょっと驚いてしまい、握力が緩んだというのもある。師匠か師範に投げて貰っていれば、結果は変わっていたかもしれない。まぁ、武器を使っての稽古しかないから、あり得ないのだけど。
私に馬乗りになって、いつの間にか握っていた槍で突き刺してくる。【夜霧の執行者】で回避出来たので、そのまま夜霧になって拘束から逃れた場所で元に戻る。
「ちっ……厄介なスキルだな」
「私からしたら、フレ姉の対応力の方が厄介だけどね……」
夜霧以外にも影に入る事でも拘束から抜けられるので、私に拘束技は通用しない。
最低限のチャージを済ませて、【電光石火】で背後に回り混合熱線を放つ。それを、フレ姉は別の薙刀で斬り裂いた。さっきの【魔刃】を発動しているようにで、刃に透明な膜が付いている。最低限のチャージとはいえ、まさかいとも簡単に斬られるとは思わなかった。
私の熱線を防いだフレ姉の薙刀が砕け散る。さすがに、犠牲なしで防ぐ事は出来ないみたいだ。
「ハクと戦うと武器の消耗が激しいな」
「武器は大切にしなくちゃ。私、使い捨てにする事なんてほぼないよ」
そう言いながら黒百合と白百合を握る。
「……さっき落としてなかったか?」
「ん? ふふん」
得意げな顔で下を指さす。
「血か」
フレ姉も気付かぬ内に、さっき投げつけられた場所と現在地を血で繋いでおいた。その血を経由して黒百合と白百合を回収しておいたのだ。
ここからは、フレ姉の武器が尽きるか、私の【夜霧の執行者】が尽きて、攻撃を受けてしまうかの勝負になると思う。てか、私の属性攻撃に平然と対処してくるフレ姉に、私は勝てるのだろうか。そこも問題かな。
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