第351話 いつも通りの滑り出し

 開始の合図と共に、【雷脚】を発動しつつ走る。【韋駄天走】もあって、かなりの速度で走る事が出来る。そして近くに【万能探知】で熱源を見つけた。人型の熱源なので、プレイヤーである事は間違いない。

 人斬りを取り出して、血を吸わせる。正面に杖を持った男性プレイヤーが歩いていた。向こうもこっちに気付いたようで、私に向かって杖を向けてくる。


「【極光穿孔】!」


 太い光線が私に向かってくる。出が早く魔法の速度も速い光明魔法を使ったのだと思う。それを無視して突っ込む。【極光穿孔】が直撃した事もあって、相手がにやりと笑う。でも、次の瞬間に驚愕の表情になった。

 なぜなら、魔法の直撃を受けて無傷な私が背後に移動していたからだ。【極光穿孔】の直撃を受けた直後に、【電光石火】と【慣性制御】で背後に回っていた。そして、その首を人斬りで刎ねる。人斬りの効果によって、一撃で倒せる。


「ふぅ……【熾天使】の効果がよく分かるなぁ」


 【熾天使】の完全な耐性によって、光明魔法を完全に無効化出来た。実際に受けた事はなかったので、これで改めて【熾天使】の壊れ度がよく分かった。

 そのまま【雷脚】で走り続けて、遭遇するプレイヤーを倒し続ける。【電光石火】と【慣性制御】の組み合わせに、人斬りの【致命斬首】が加わって、簡単に敵を倒せる。一人だから、自由に動き回れるので、危険を顧みずに行動できる。一番面倒くさいのが首元を守っているタンクだったけど、そっちは影を使って身体を鎧の内側から縛り、鎧の隙間に人斬りを突き刺して内側から血液で攻撃して倒した。人斬りを経由すれば、血液に人に対する特効を付与出来るので、【致命斬首】の一撃必殺程の強さにはならなくても、一気に大ダメージを与えて倒す事が出来る。

 やっぱりプレイヤー相手なら人斬りは最強の武器になる。これでも封印されている状態だというのだから、完全に使いこなせるようになったらどうなってしまうのか。

 人斬りの有り難みを感じていると、次のプレイヤーと遭遇した。そのプレイヤーは、片手剣を持った白い布製防具を着た男性プレイヤーだった。

 これまでと同じように、【電光石火】と【慣性制御】からの【致命斬首】で倒そうとすると、首に命中する前に避けられてしまった。恐らく【第六感】持ちだ。【未来視】の苦痛を乗り越えた人だけが収得出来るものだ。厄介な事この上ない。

 白い男は、私に向かって攻撃しようとしてくるけど、地面の影に潜る事で避ける。そして、背後にある影から出て来て、背後から攻撃する。それも、白い男に避けられる。【第六感】だけじゃなくて、プレイヤースキルも高いみたい。

 一旦距離を取った私は、人斬りから黒百合と白百合に入れ替える。一撃必殺を狙える程甘い相手じゃないと判断したからだ。正直、刀よりもこっちの方が使い慣れているから戦いやすい。

 相手は無駄話をするタイプじゃないみたいで、無言で突っ込んできた。恐らく無策ではないだろうけど、相手が【第六感】持ちなら、こっちもやりようがある。【完全支配(血)】【支配(影)】【支配(火)】【支配(水)】【大地武装】【天聖】で血、影、火、水、岩、光の剣を作り出す。数がかなり多くなるので、単調な動きしかさせられないけど、その単調な動きでも百を超える攻撃を受けるとなれば、頭がパンクするはず。

 白い男は、この多重攻撃を裁いていた。剣で打ち消しつつ身軽に避けていく。本当にフレ姉並みに凄いプレイヤースキルを持っている。被弾の数が異常に少ない。まぁ、本命は私の攻撃なのだけど。

 攻撃の隙間を通って、低い姿勢のまま足を攻撃する。複数の攻撃に紛れた一撃を、白い男は避けきれなかった。


「ちっ……!」


 膝から下を欠損状態になった事で、白い男が舌打ちする。動きが悪くなった白い男に影を伸ばして腰から下を拘束する。完全に避ける事も出来なくなった白い男に全ての攻撃が殺到する。身体を滅多刺しにされた白い男は、そのまま倒れる。


「やっぱり、【第六感】持ちは面倒くさいなぁ……もしかして、【未来視】から【第六感】に繋がる事が情報として出回っているのかな。怠いなぁ」


 【第六感】持ちには、物量で攻めるのが定石だ。それか、【第六感】で感じ取った瞬間に攻撃が届いているという速さを手に入れるくらいだけど、移動速度ならともかく攻撃速度という面で言えば、まだそこまでの域にない。まぁ、倒せたから良いけど。

 【雷脚】を発動して駆け出す。まだイベントは続いているからね。その後、何度か【第六感】持ちとの戦いや【未来視】との戦いがあったけど、その両方とも同じ戦い方で倒す事が出来た。【未来視】に関しては、使う瞬間に相手の顔が歪むから分かりやすい。その瞬間に、【電光石火】を連続で使って、私の位置が分からないようにしたら、簡単に倒せる。

 そうして戦い続けていると、見覚えのある子を見つけた。知り合いというわけではなく、この前のイベントで遭遇した吸血鬼の女の子だった。見たところダメージを常に負っている感じはしないので、耐性は付いているみたいだ。


「あっ……」


 向こうもこっちに気付いたみたい。人斬りを構えて、一気に蹴りと着けようとしたけど、その前に手を前に出してきた。


「ちょ、ちょっと、待って下さい!」

「へ? えっと……何?」


 多分、【吸血鬼】の事かな。若干面倒くさいと思ったけど、ここで無視するのも悪いかなとも思ってしまう。前回のイベントで私の血を大量に飲ませたっていうのもあるし。


「あ、あの……【吸血鬼】から先って進化しないものなんですか!?」

「へ? どうして?」

「えっと……もうレベルが50を越えたのに、進化出来ないので……えっと……【吸血鬼】を使っているんですよね?」

「う~ん……まぁね。でも、それを答えて貰えると思う?」

「あ、えっと……」


 女の子はもじもじとし始める。私から答えて貰えない可能性は考えていなかったらしい。どうしようかと悩んでいるみたいだ。


「はぁ……誰にも言わないって約束出来る?」

「あ、はい!!」


 この子ならしつこく訊いてくる事はないと思うけど、頑張って育てているみたいなので、少しだけ手助けしてあげる事にした。


「昼の時間帯に【吸血鬼】を使用して、二千体以上のモンスターを倒す。【吸血鬼】のみで、五百体のモンスターを倒す。昼の時間帯に【吸血鬼】でボスモンスター十体のトドメを刺すの三つが条件」


 【吸血鬼】から【真祖】になる時の進化条件を教えてあげた。


「多分、ボスモンスターを倒せてないんじゃない?」

「多分、そうです……えっと、ありがとうございます! っ!?」


 お礼を言って頭を下げた女の子の頭に風穴が空いた。直前に、何かが破裂するような音が聞こえていた。普通だったら、ただの戦闘音だと思うところだけど、女の子が目の前で倒された事から、恐らく違うと考えられる。


「破裂……銃声!?」


 銃声が聞こえた方を見てみると、拳銃を構えているプレイヤーがいた。私がこのゲーム内で見た事のある銃は、雨男が持っているものだけなので、プレイヤーが使っているのは初めて見る。

 五〇メートル程離れた場所から女の子に当てていたけど、実際に狙い撃ったのか、偶々当たったのか分からないけど、一撃で倒せる威力があるのはヤバい気がする。私の【致命斬首】と似たような効果があるのかもしれない。

 女の子を倒したプレイヤーが、銃を乱射しながら、こっちに迫ってくる。でも、銃弾は私から逸れた場所に命中している。やっぱり、最初の女の子を撃ち込んだ銃弾は、偶々当たっただけだったみたい。

 リロードで生まれた隙を突いて、黒百合を思いっきり投げつけた。風を切りながら飛んでいった黒百合が、肩に命中した。反応しきれなかったみたい。蹌踉めいた銃持ちに向かって【電光石火】で突っ込み、人斬りで斬り倒す。


「とうとう【銃】も出て来たかぁ。私も血で作れればなぁ……後で、ラングさんに構造を訊いたら出来るかな……いや、やっぱり銃弾が問題かな。これは、今度考えるとして、これからは銃にも警戒しないとなぁ」


 【心眼開放】に内包されている第六感で対処出来るか分からないので、私の直感が働いてくれる事を祈りながら、再び荒れ地に駆け出した。

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