第353話 イベント終了と楽しみな誘い

 フレ姉との戦いは、思ったよりも長く続いた。フレ姉の武器の貯蔵が想像よりも多かったというのが大きい。血液を纏わせた黒百合と白百合だけでなく、足にも血を纏わせて、蹴りに斬撃も混ぜて、攻撃の回数を無理矢理増やしたけど、フレ姉は、苦も無く対応してきた。軽い水蒸気爆発や氷結させたり、影や血での翻弄も試みたのだけど、後ろにも目が付いているかのような動きをしてくる。実際、色々な場所に視界を置く事が出来るから間違ってはいないのだけど。

 何度か【蒼天】を挟んだり、【天聖】による波状攻撃も混ぜてみたのだけど、身体に掠るくらいで、直撃させられなかった。その大きな理由は、【魔刃】の効果が薙刀の柄まで及ぶためだった。薙刀全体を使って器用に防いでくるので、【天聖】の波状攻撃も対応してくるし、【神炎】で包もうとしても抜け出されてしまう。

 唯一私が有利な点は、【蒼天】の一撃でフレ姉の武器の耐久値を削り切る事が出来る点だったけど、二回目以降は、放出のタイミングで【電光石火】を合わせてきたので、当てる事が困難になった。

 さらに、黒百合と白百合を様々な武器にして攻撃してみたりもしたけど、その全てにも対応してくる。フレ姉の対応の早さには舌を巻く。


「もう! フレ姉しぶとい!!」

「こっちも似たような意見だな。いつの間にここまで強くなったんだ?」

「フレ姉よりも強い練習相手がいるからね」

「ほう……それは私も興味があるな」

「フレ姉が会えるとは限らないけど」

「隠れ里か。それは確かにな」


 この会話の間も攻防は続いていた。【熾天使翼】を使って地面に足を着けずに戦う戦法をしてみたけど、フレ姉は武器と体捌きだけで対処してしまう。フレ姉の見た事ないスキルも混ぜていても、通用するのは一瞬。すぐに最適の方法で防御されるので、速さだけでなく力でも圧倒しないといけない。それこそ、ソルさんみたいなセンスや師匠みたいな戦闘能力が必要になると思う。

 そのままどのくらい経ったか。フレ姉との戦いをしている最中に、目の前にウィンドウが現れた。そこには、『Time‘s Up』と書かれていた。


「あ? 時間切れか」

「もう……フレ姉のせいだよ」

「まぁ、いいじゃねぇか。楽しかっただろ」

「それは、まぁ……」


 フレ姉の言う通り、楽しかったと言えば楽しかった。なので、これには頷くしかなかった。時間切れの決着なので、キル数での優勝と順位付けが行われる。尚、生きているプレイヤーだけが対象となる。


「私は……五位か」

「私は、七位。それよりも下はないから、残ったのは七人って事かな?」

「みてぇだな。ゲルダやアクアのやつがいないとなると、負けたみてぇだな。」

「一位は……ソルさんか」

「二位との差は二人か。今回は大分詰めた奴がいるみてぇだな」

「それか、ソルさんが誰かに苦戦したかだね。フレ姉と戦わなかったら、もう少し伸ばせたのになぁ」

「運がなかったな」


 フレ姉はにやにやとしながら頭を撫でてくる。直後に、イベントが終わりファーストタウンに転移する。


「ふぅ……入賞賞品は選択式ランダムアイテムボックスか。アカリにあげよっと」


 ギルドエリアに帰ろうとすると、襟首を掴まれた。


「うげっ……」

「近くに転移していて良かったわね」

「そうだな」

「フレ姉、苦しい」


 襟首を掴まれているせいで、若干首が絞まっていた。それに気付いたフレ姉が手を放してくれる。


「おっと、ごめんな。ハクとアカリに話があってな。イベント前に伝えておくのを忘れてたんだ」

「じゃあ、アカリを呼ぶね」

「いや、私達をギルドエリアに招待してくれ。そっちの方が良い話だからな」

「そんな事出来るの?」

「ああ、アップデートで招待すれば、ギルドメンバー以外にも一時的に入る事が出来るようになる。ギルドマスターはハクだから、ハクが許可を出せばいけるはずだ」


 ゲルダさんからやり方を教わりながら、二人をギルドエリアに招待する。そして、三人でギルドエリアに転移した。ギルドエリアに着くと、空から飛んできたニクスが肩に留まって、頭を下げてきた。多分、ただの挨拶かな。ニクスの頭を撫でてあげると、世界樹の方に飛んでいった。


「あれもテイムモンスターか?」

「うん。フェニックスのニクス」


 フェニックスの名前が出た瞬間に、フレ姉とゲルダさんが若干呆れたような目をしていた気がする。まぁ、フェニックスをテイムしているって知ればそういう反応になるよね。


『お姉様』

「エアリー。どうかしたの?」

『いえ、知らない方がいらっしゃったので』

「ああ、大丈夫。私の姉だから」

『そうでしたか。では』


 風で感知していたエアリーは、フレ姉とゲルダさんを感じ取り、ギルドメンバーじゃない事から安全かどうか確認しに来たみたい。大丈夫だと分かったので、そのまま飛んでいった。


「誰と会話してたんだ?」

「ん? ああ、そうか。精霊だから、フレ姉とゲルダさんには見えないんだね。風精霊のエアリーだよ」

「精霊……そういや、そんな事言ってたな」

「うん。今は、八人の精霊がいるよ」

「相変わらず、このゲーム内だと規格外ね。精霊をテイムしたプレイヤーは、多分ハクだけよ」

「まぁ、色々と運が良かったりしましたからね」


 そんな話をしながら、アカリの作業部屋に行こうとしたら、実験室の方で爆発が起きた。


「あっちか」


 皆で走って実験室の方に向かうと、アカリが仰向けで倒れていた。そんなアカリを見下ろす。


「何してるの?」

「新しい薬草とかが出来たから、色々と実験してたら失敗しちゃった。あれ? フレイさんとゲルダさん? なんでここに……」

「何か話があるみたい。私とアカリの二人にね」

「じゃあ、屋敷の方に移動しましょう」


 アカリを起こして、皆で屋敷の共有部屋に移動する。実験室の消火は、レインとヒョウカでやってくれた。共有部屋には、三人掛けソファが二つ用意されていて、フレ姉とゲルダさん、私とアカリで座る。


「それで何の話なの?」

「ああ。お前らクリスマスに予定は入れてるか? 二十三から二十七だ」

「ううん。まだ一ヶ月先だし。一応バイトを入れる予定はないけど」


 光とのデートがあるかもしれないから、取り敢えずバイトを入れるつもりはなかった。その前に詰め込む可能性はあるけど。


「なら、ちょうど良いな。学校は、そのくらいから休みになるだろう?」

「うん。ちょうど二十三日から休みになるよ」

「よし。タイミングは良いな。この前懸賞で旅行券を貰ってな。せっかくだから、一緒に旅行に行かないか?」

「え? でも、良いの?」


 二人も付き合って初めてのクリスマスだろうから、二人で過ごしたいのではと思った。


「人数的に余裕があるのよ。水波達も誘ったのだけど、あの子達は愛巴の家の別荘で過ごすらしくてね。二人は、どうかしら?」


 愛巴とは、トモエさんの現実での名前だ。愛巴さんの家は、お金持ちなので別荘をいくつも持っているらしい。今、みず姉達が住んでいるのも、その一つだし。そして、クリスマスには別の場所にある別荘で過ごすらしい。


「旅行に行けるのは嬉しいけど、本当に私達も一緒で良いの?」

「ああ、結構良い旅行券でな。私達二人だけだと、若干持て余すんだ」

「私達、二人とも贅沢はしないから、皆で行く方が楽しいだろうってね」

「光はどうする?」

「確かに、一緒に旅行に行けるのは楽しそうかな」

「じゃあ、一緒に行く」

「決まりだな。そこまで遠くに行くつもりはねぇからな。当日はレンタカーに乗って移動という感じだな。大体の候補は決めてある。後で、メールで送っておく。どこが良いか話し合っておいてくれ」

「うん」

「はい」


 イベントが終わり、かー姉と翼さんと一緒にクリスマスに旅行に行く約束もした。ちょっとした楽しみが出来たので、それに備えて色々と準備もしないと。

 それまでは、アカリが修復してくれている機械人形の様子を見たり、まだ探索していない場所を探索して過ごす感じになるかな。何にせよ楽しみな事は多い。

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