第347話 水中の地下室

 一時間強の水中探索を終えて、入ってきた穴から出ようとしたら、既に氷で塞がっていた。さすがに、一時間も経ったら穴は塞がれてしまうらしい。

 【神炎】を使って一気に穴を開ける。水の中でも熱を出せるというだけで、本当に強力な炎なのだと分かる。


「ふぅ……思ったよりも長く行動できたなぁ」

『まだ余裕ありそう』

「実際余裕はあったしね。これに戦闘が加わったら、もっと行動できる時間は減るだろうけどね。さてと、さっき手に入れた本は何かな」


 中身を読んでみると、それは何かのレシピや機械の設計図のようなものだった。


「……アカリへのプレゼントかな。さっ! 次に行こうか」


 私には関係のない本だったので、アカリにプレゼントする事にする。そのまま別の場所にもある家の探索を移った。潜って探索していると、また地下室を発見する。基本的にこの地下室に何かがあるという感じみたい。また力任せに開けて、中に入ると、同じように靄があった。それを固めて血の中に入れる。今回も本だった。

 ただ、今回の探索場所では、地下室の数が三つもあったので、そこの探索もしっかりとしておく。残り二ヶ所からも本が出て来た。それらは全て、何かしらのレシピに繋がるものだった。私にはよく分からないけど。

 そして、レインが見つけた最後の場所に向かう。そこには大きな家の跡が一つあるだけだった。でも、地下室への入口が見つからない。


『瓦礫の下に埋もれているみたい。瓦礫を退かしても大丈夫?』


 レインがそう訊くので、OKサインを出す。私でも取り除く事は出来ると思うけど、レインの方が確実そうなので、レインに頼む事にした。レインは、水を操って瓦礫を上から順番に退かしてくれる。そうして、出て来た地下室への扉もレインが開けてくれる。内側から水を操ってくれたらしい。力任せで開けるよりも、そっちの方が楽だったかもしれない。

 水の中でレインを撫でてあげてから、地下室の中に入っていく。今回の地下室は壊れた家の部分と同じように広い。これまでは貯蔵庫や保管庫、倉庫的な感じだったけど、この地下室は研究所という風に見えた。その理由は、実験器具がそこら中に転がっているからだ。

 その中には、靄が三ヶ所くらいある。本棚の近くにあった靄からはこれまで通り本が出て来たけど、何かの釜らしきものの傍にあった靄からは、別のものが出て来た。

 すぐに収納したからちゃんとは見ていないけど、人型のロボットみたいな感じがした。人形にも見えるかな。これもアカリに見せないと分からないから、一旦ギルドエリアに帰る。アカリは、作業部屋にいるみたいなので、屋敷の作業部屋に向かう。

 レインは、ヒョウカがいる小屋に向かっていった。属性が近いからか、仲良くやっているらしい。その内、マシロとメアみたいになるのかな。

 そんなマシロとメアは、今日も今日とで追いかけっこをしている。どうやら、トモエさんが作った団子をマシロの分もメアが食べてしまったらしい。悪戯というよりもうっかりみたいなものだろうから、いつもみたいな悪戯っ子の笑顔ではなく、必死で謝っていた。

 私の家だと、みず姉がかー姉のおやつを食べてしまう事があったけど、基本的にかー姉が呆れるか、脳天に拳骨かチョップを振り下ろしてから許すので、あまり見ない光景だった。


「マシロ。今度トモエさんに頼んでおいてあげるから、メアを許してあげな。わざとやったわけじゃないみたいだし」

『……ふぅ、分かったわ。姉様に感謝しなさい』

『姉々ありがとう!』

「はいはい。今度から気を付けなよ」

『うん♪』


 二人の頭を撫でてあげてから、ようやくアカリの作業部屋に着いた。扉を開けて、アカリが迎えてくれる前に本題に入る。そっちの方がサプライズ感が出るし。


「アカリ、プレゼント」

「えっ!? こっちでも!?」


 驚いているアカリに血液の中から本と人形を出して押し付ける。その中でアカリは人形をジッと見始める。


「あれ? これって……」

「何か知ってるの?」

「うん。機械人形みたいなのがあるって、本で読んだんだ。実物を見たのは初めてだけど」


 アカリは何か沢山レンズが付いている変な眼鏡を掛けて、機械人形を調べ始める。


「パーツが所々無いし、肝心の動力もない。残っている部分は修理すればどうにかなるけど、こっちは一から作らないとだね。女性型みたいだから、それに合わせたパーツじゃないといけないかな」

「女性型なの?」

「うん。体格とかからそれは分かるよ。こっちの本に書いてあるかな……うん。これだね。うん……うん……なるほどね。複数の生産系スキルが必要みたい。全部持ってて良かった」


 全部の生産系スキルを持っているアカリは、本に書かれているものを全て作る事が出来るらしい。一つに特化していたら、誰かと協力しないといけなかった。そうなると、この情報を共有しないといけなかったり、色々と面倒くさくなる可能性があった。その点で言えば、アカリには感謝しておかないといけない。


「へぇ~……何か手伝える事ある?」

「う~ん……ううん。大丈夫。素材は足りてるし、何ならここに書かれているものよりも強く出来ると思う」

「そうなの?」

「うん。ハクちゃんが身体から出してくれたり、ソイルちゃんが採掘してくれたので鉱石系は足りてるし、モンスターの素材もハクちゃんやアクアさん達が集めてくれたもので足りてるから」


 手伝う以前に素材関係は全て揃っているみたい。生産となれば、私達にはどうしようもないので、後はアカリに任せるしかない。


「せっかくだから、ハクちゃん好みの子に仕上げるね」

「それだと光っぽい子になるけど」

「……自分を作るのはちょっと……自然に出来上がるような子に仕上げるね!」

「うん。私には似せないでね」

「……で、出来るかな……?」


 自然に出来上がるようなと言っていたけど、結局は作るのはアカリなので、自然と私に近い顔になる可能性はある。アカリが好きな顔は私になるだろうから。


「出来たら、ご褒美あげる」

「頑張る!」


 餌をぶら下げたら、アカリがやる気になった。どんなご褒美かは一言も言っていないから、アカリが望むものかどうかも分からないのに。まぁ、アカリが良いなら良いか。


「それじゃあ、何か必要になったら言ってね」

「うん。私としても楽しそうだから、頑張る!」

「ありがとう」


 私から持ってきたものだけど、アカリもやる気になってくれて良かった。この機械人形がどうなるのかは分からないけど、何かの役に立つと良いな。

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