第346話 氷河エリアのボス

 氷河エリアのボスエリアに転移する。ボスエリアも大きな氷の上だった。そして、その中央に竜が蜷局を巻いていた。名前は氷河の水氷竜。羽の代わりにヒレを持っている。泳ぎが得意そうだ。そうなると、水の中に入れない事を最優先に考えた方が良さそうだ。

 竜狩刀を出しつつ、【電光石火】で突っ込み、その背中に竜狩刀を突き立てる。【慣性制御】のおかげで、急停止の時に隙が生まれなくなったので、即座に背中に張り付けた。

 竜狩刀を突き立てて、血と影で身体を縛り付ける。この姿勢が一番背中に張り付きやすい。竜狩刀を突き立てているから、そこを支点にしつつ、身体が離れないように血と影が完全にくっつけてくれる。もはや竜相手の定石だ。

 そのまま吸血をしていると、身体をくねらせた水氷竜が氷を割って水の中に入っていった。呼吸が出来なくなるし、一気に身体が冷えるけど、特に問題はない。そのまま吸血しつつ竜狩刀を経由した血で水氷竜の身体を内側からズタズタにしていく。そうして、再び自ら氷の上に出て行った瞬間に水氷竜のHPがなくなった。

 【水氷息吹】というスキルを手に入れた。どんどん口から吐けるものが増えていく。全部統合されて、何でも吐けるようになれば嬉しいのだけど、それにはまだ足りない息吹が多いと思うので、積極的に竜を狩りたいところではある。

 すぐに移動出来るように次の氷点下エリアに足を踏み入れる。すると、一気に気温が下がった。肌を突き刺す寒さに思わず服の上から肌を擦ってしまう。ダメージにはなっていないから、スキルが働いている事は分かるけど、それでも寒いという感覚は抜けないらしい。


「うぅ……さっむ……帰ろ……」


 これは、【適応】と【断熱体】を持っていないプレイヤーは、攻略に苦労すると思う。まぁ、大抵のプレイヤーは持っていないだろうけど。同情しつつ、氷河エリアを離れて、刀刃の隠れ里に転移する。昨日の亡国の侍との戦いで、もう少しプレイヤースキルの方を磨きたいと思ったので、その相手にちょうど良い師匠のところに来たという感じだ。

 転移すると、ちょうど師匠が家から出て来るところだった。


「師匠、こんにちは」

「こんにちは。あなた、【竜紋】を手に入れた?」

「へ? ああ、はい。亡国の侍と戦ったので。ご存知なんですか?」

「知っていると言えば知っているけど、私が産まれる前に滅んでいたはずだから、詳しくはないわね。師匠からそういうものがあるって聞いただけ。確か、竜殺しの一族に伝わるものだったかしらね」

「でも、私には竜狩刀があるので、あまり意味ないかなって。竜狩刀には、既に竜への特効がついている訳ですし」

「そうね。多分、【竜紋】よりも、竜狩刀の方が効果は高いと思う。でも、もしかしたら、竜狩刀の力を引き出すのに使えるかもしれないわね」

「そうなんですか?」


 私は、竜狩刀の全てを引き出せているわけじゃない。それのきっかけになるかもしれないとなれば、【竜紋】も重要なスキルになる。


「竜狩刀と【竜紋】って、効果は重複しますよね?」

「すると思うけど……目に見えて変わるとは限らないと思うわ」


 確かに、水氷竜との戦いで【竜紋】の力を実感はしなかった。竜狩刀との重複は、そこまで大きな効果にはならないというより、私の戦い方がそこまで実感できるような戦い方じゃないからかな。まぁ、吸血は基本だし、変えるつもりはないから、実感できる日は遠いかもしれない。


「なるほど。取り敢えず、育ててみます」

「頑張って。稽古はする?」

「はい。双剣でやりたいです」

「良いわよ。それじゃあ、死なないようにね」


 いきなり黒狐の師匠との稽古が始まる。亡国の侍とは比べものにならない速さと力強さで、こっちが捌くのに必死になった。何とか生き残る事は出来たけど、【夜霧の執行者】は使い切る事になった。防御の修行にはなったけど、攻撃の修行は出来なかった。それだけ、私が弱いという証拠だ。師匠が相手だから仕方ないのかもしれないけど。

 その後は、天上界に転移して、セラフさんによる属性稽古も受けた。属性による攻撃の精密な操作が重要になってくるので、私の戦い方的にも良い修行になる。まぁ、セラフさんからまだまだと言われてしまったけど。

 その日は、スキルのレベル上げをして終えた。

 翌週は、祝日が挟まっていたけど、その日はバイトが午前から午後まで入っていたので、あまりゲームは出来なかった。そして、土曜日には光とのデートで手芸店巡りをした。私の服になるわけだし、光も直接私を見て選びたかったみたい。出来上がりが楽しみだ。多分、普段使い出来ない服になると思うけど。それに、このデートでようやく光にプレゼントを贈る事が出来た。大して高くはないけど、光に似合いそうなネックレスをプレゼントした。給料の大半が消えたけど、そこは気にしない。元々光のために使うという名目でバイトをしていたしね。

 ちょっと申し訳なさそうにしていたけど、光なんて、お小遣いのほとんどを私の服のために使った事もあったし、お返しとしては足りないくらいだと思っている。

 そして、日曜日は、氷河エリアの探索を進めた。マッピングを終えたけど、まだ玄武がいた水の中を調べられていなかったので、レインを連れてそのポイントを訪れていた。


「どう?」

『水の中にモンスターはいないよ。その亀さんって、すっごく大きいんだよね?』

「うん。本当に大きい。小さな島くらいはあったんじゃないかな」

『そんなに大きいなら、すぐに分かると思うけど……』

「じゃあ、本当にどっか行っちゃったって事かな。ここら辺を回遊しているのかと思ったけど、それも無さそうだね。それじゃあ、水の中を調べてみよう。何かある?」


 私がそう訊くと、レインが集中し始める。レインの調査が終わるまでは、静かに待つ。


『壊れた家がいっぱいあるくらい』

「壊れた家? その中にお城みたいなのはない?」

『お城……そういうのはなさげ』

「そっか。まぁ、氷姫はいっぱいいるし、さすがにお城があるとかではないんだ。取り敢えず、中を調べてみよう」

『うん』


 本当はエアリーを召喚したいところだけど、氷に穴を開けてもそこからしか空気を持って来る事が出来ないので、探索範囲が限られてしまう。それなら、モンスターもいない事だし泳いで探索する方が良いと判断した。もしもの時は下からでも氷に穴を開けられるだろうし。

 【神炎】で穴を開けて、レインと一緒に泳いでいく。かなり深くまで潜っていくと、レインの言う通り、壊れた家みたいな建物が並んでいた。本当に辛うじて家だと分かるくらいなので、屋根も壁の一部もない。おかげで、探索は楽に進む。三十分くらい潜ったまま探索をしていると、家の一つに地下室の入口を見つけた。

 レインに手振りで下に行けるか訊くと、


『空間はあるよ』


 と答えた。なので、入口の取っ手に手を掛けて開く。力任せに開けたけど、何とかなってよかった。そのまま中に入ると、中に青い靄があった。それが本だった時の事を考えると、水の中で固めて良いものか迷ってしまう。かといって、水を退かしても空気を生まれるわけじゃなく、何もない空間が出来るだけだ。

 そこで一つ思い付いたのが、私の血を広げておくという事だ。血液の中に収納してしまえば、濡れる事はない。取り出す時にも血は付かないだろうから、これが一番安全に収納出来る方法だと思う。青い靄の周辺にある水を取り除いて、血で埋める。そして、靄を固めると同時に血の中に収納した。出て来たのは、本当に本だったので、ちゃんと仕舞えて良かった。

 そのままもう三十分程探索を続けたけど、この辺りには何もない事がわかった。さっきの地下室が唯一の成果ってところかな。

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