第345話 氷河エリアの水の中

 翌日。早めにログインした私の元に、レインが駆け寄ってくる。


『お姉さん! 大丈夫だったの?』

「うん。大丈夫だよ。心配掛けてごめんね」


 レインの頭を撫でてあげてから、ギルドエリアでの日課を終わらせてからヒョウカを探した。


「どこにいるんだろう?」


 周囲を見回していると、見た事のない建物がある事に気付いた。その家の中に入ってみると、外よりも格段に冷えている事が分かる。それだけで、ここにヒョウカがいる事が分かった。


「ヒョウカ?」

『ハ、ハク様』


 ヒョウカは、私に駆け寄って来てくれる。というか、お姫様なのに私の事を様付けで呼んでいた。いや、お姫様だからこそなのかな。


「アカリからのお仕事?」

『は、はい。温度を下げる事で、薬品や素材が変化するかの実験だそうです』

「なるほどね。低い温度なら、ヒョウカが保持し続ける事が出来るもんね。ご苦労様」


 ヒョウカの頭を撫でてあげると嬉しそうに目を細めた。ヒョウカの身体は、レインとは違った冷たさがあって、ちょっと気持ち良い。


「ヒョウカは、お姫様だけあって、綺麗なドレスだね……って、ちょっと変わった?」

『あ、は、はい。アカリ様が仕立ててくださいました』

「へぇ~、ドレスも冷たいって事は、氷系の素材で出来てるのかな?」

『はい。良い試作が出来たとおっしゃっていました』

「そうなんだ」


 現実の私の服に活かすつもりかな。ヒョウカの服は涼しげで良い気がするけど、現実出来たら絶対に浮く。家でのコスプレで終わると思う。


「何かやりたい事が出来たら言ってね」

『は、はい。今はここで頑張ります!』


 何だろう。お姫様が初めて大役を担ったみたいな初々しい可愛らしさがある。やっている事は、そこまで大きな事じゃないけど、ヒョウカにとっては違う感じかな。

ヒョウカの頬をモチモチさせていると、レインがやってきた。


「レイン? どうしたの?」

『ヒョウカと遊びに来たの』

「そうなんだ。仲良くしてくれるのは、私も嬉しいな。それじゃあ、またね」


 二人の頭を撫でてあげてから、ギルドエリアを後にして氷河エリアにやってきた。本当は、レインを呼びたいけどせっかくヒョウカと仲良くやっているのに邪魔はしたくないので、一人で探索する事にする。蝙蝠を出してマッピング範囲は広げつつ、走って探索をしていると、昨日吸血し損ねた氷熊を発見した。氷熊は、フロストワルラスを襲っていた。弱肉強食の世界だなぁと思いつつ、血液で弓を作りだす。そして、血液を圧縮した矢を氷熊に向けて放つ。氷熊に刺さった瞬間に圧縮していた矢を解放し、広がった血液でフロストワルラスと一緒に拘束する。

 麻痺状態にもなるので、そのまま吸血で倒していく。そこからフロストワルラス、氷熊、フロストゴーレムとの戦闘があり、全部吸血して倒した。私の血液での拘束も精霊の皆の拘束同様に強力だと再認識した。この吸血で獲ったスキルは、【氷結爪】と【狂戦士化】だけだった。【氷結爪】は、【氷爪】の進化で、【狂戦士化】は、【狂化】と【血狂い】を統合したスキルだった。そのため、元になったスキルは消えた。


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【氷結爪】:氷の爪を作りだし、斬り裂いた相手を氷結状態にさせる。


【狂戦士化】:五分間、武器と肉体以外を使用する攻撃が出来なくなる代わりに、攻撃力が一・五倍になる。発動中はHPが大きく減少し続ける。


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 攻撃力が上がるのは魅力的なスキルだ。隙に繋がる技をあまり使わないようにしている私にとっては良いスキルだと思う。ただ、吸血や武装系のスキルも使えないというデメリットは大きい。私は、多種多様な武装を使って戦うスタイルだから、そういう意味では相性は良くない。まぁ、武器スキルのレベル上げには良さそうだ。その武器を用意する必要はあるけど。

 【雷脚】も使った走りによる探索は思ったよりも早く進んだ。もしかしたら、【韋駄天走】のおかげもあるかな。いつもよりも速くなっていたような感じがするし。問題は、レイン程の精度で氷を調べられない事。何となく地面がある事は、【大地武装】の効果もあって分かる気がする。その何となくの感覚頼りになってしまうので、氷からも調べたかったのだけどね。


「あれ? ん?」


 とある場所で急に何となくの感覚が途切れた気がした。立ち止まって、氷を触り確かめる。


「ん~……分からん!! さすがに、レインとヒョウカの邪魔はしたくないし、最終手段を取るしかないね」


 【浮遊】を使いつつ、氷に手を触れて【神炎】を使う。【神炎】の熱で氷が溶けていき、私が一人通れるくらいの穴が出来る。その穴を覗くと、下の方に水が見えた。氷がなくなる事で、その水もしっかりと感じ取れる。


「よっと」


 多分大丈夫だろうと思って、ゴーグルを着けて飛び込む。かなり深いみたいで下の方が暗いし、底が見えない。何か情報はないかなと思ったら、水の中で何かが光った。そっちの方に潜っていったら、その事を後悔する事になった。

 光の正体は水の中にいる巨大な亀だったからだ。しかも、尻尾の方にもいくつも顔がある。いや、あれは尻尾じゃなくて蛇だ。尻尾から蛇が生えている。

 亀はジッと私を見た後、首を横に振ってからどこかに泳いでいった。その泳ぎによって水流が生まれて、私も流されそうになる。それを止めるために、【支配(水)】で私の周囲の水の動きを止めた。亀は、そのまま消えていく。

 そのまま水の中にいるのは怖いと思ったので、即座に穴から外に出る。


「ふぅ……こっわ……」


 恐らく、あれは玄武。私があの東洋竜……ほぼ間違いなく青龍から守護者として任命されたように、あれから任命される事もあり得るという事だと思う。玄武が首を横に振ったのは、既に私が東方の守護者だったからかな。

 取り敢えず、戦闘にならなくて良かった。


「水の中は、レインがいる時にしよ」


 また玄武と遭遇しないとも限らないし、レインに水の中を確認して貰いつつ進むのが安全だと判断した。なので、まずは地上部分のマッピングを完璧に終わらせる。結局氷河エリアでも街はなく、モンスターの数が多いということしか分からなかった。その中で氷姫とも遭遇したけど、向こうから積極的に襲ってくる事はなかった。攻撃されたら反撃するというモンスターなのだと思う。拘束が攻撃扱いにならなくて良かった。

 ここら辺のモンスターは、【神炎】で簡単に倒せるので、苦労する事はなかった。ボスエリアも見つけたので、せっかくだからボス戦も一人でやってみようかな。

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