第273話 ちょっとした因縁
翌日。若干眠いけど、何とか起きてきた私は早めのお昼を食べてログインした。
ただ城下町に転移する前に、マシロのスキルを確認しておく。マシロが何が出来るのかは知っておかないといけないからだ。
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マシロ:【魔導】【光明魔法才能】【神聖魔法才能】【付加呪加才能】【支配(光)】【無限光】【光精霊】【精霊体】【集束拡散】
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光と闇の精霊は、他の精霊と違って付加と呪加が使えるみたい。特徴から考えて、光が付加で、闇が呪加って感じかな。
「今日は、南の屋敷を調べたいんだよね……誰を連れて行こうかな」
正直なところ、連れていきたいのは、メアとマシロだ。二人の力を改めて知りたい。ただ、マシロに関しては、城下町で出すのは止めておきたいという気持ちがある。あの街には、マシロにとって嫌な思い出しかないだろうから。
「昨日と同じにしておくかな」
皆に一通り挨拶して、家畜の世話をしてから城下町に転移する。マシロにも挨拶したけど、昨日と同じで硬い感じだ。今までが懐き度MAX揃いだったので、ちょっと新鮮だけど、良い気分ではない。早くマシロの心に掛けられている雁字搦めの鎖を解いてあげたい。
そう思っていたのだけど、目の前に邪魔がいた。それは、第四回イベントで戦った闘技場のPvP一位だった。
「何か用?」
転移した直後から、こっちを睨んできているので声を掛ける。いつもなら逃げの一択なのだけど、探索をするのに邪魔になると思ったので、先に片付けておきたいと考えた。
「もう一度勝負しろ」
「一度負けてるじゃん」
「あれは二対一だったからだ。あれから、俺も鍛えた。一対一なら負けねえ」
「知ったこっちゃない。受ける理由もない。最強に興味も無い」
「逃げるのか?」
「煽れば勝負に乗ると思ってるなら当てが外れたね。それでムキになるほど子供じゃないから。あなたも、その最強厨なところ直せば。色々と見えてくる事があるかもよ」
ここまで言えば、関わりたいとは思わないだろう。少なくとも私は思わない。だけど、相手は、まだ食い下がってきた。
「なら、俺の全てのアイテムを賭けよう」
そんな馬鹿みたいな提案をしてきた。何を持っているかも分からないのに、魅力的に映るとでも思っているのかな。
「賭け釣り合う形じゃないといけないんでしょ? 私が、そっちのアイテム全部に釣り合うアイテムを持っていると思う?」
「普通の賭け試合ならな。だが、これは俺が勝手に言っている事だ。賭けたものは、試合後に譲渡する」
つまり賭け試合のシステムを使わずに勝負をして、私が勝ったらアイテムを全部くれるという事らしい。
「あなたに利がないと思うんだけど」
「お前を倒せる事が利だ」
最強厨過ぎる。最強を目指すのは良いけど、人を巻き込まないで欲しい。
「分かった。勝負を引き受ける代わりに、これ以降私に関わらないで。面倒くさい」
「……分かった。ファーストタウンの闘技場で待つ」
そう言って転移していった。本当は、このまま飛んで逃げても良かったけど、これからも絡まれたらうざくて仕方ない。だから、今後関わりを持たないという条件を追加した。仮に私が勝っても、条件を呑んだ事を引き合いに出せば、二度と勝負を受けなくて済む。こっちが自分で負けるという方法もあるけど、それは相手が絶対に納得しない事なのでやめておく。
もう目立たないようにとかは良い。第一に考えるべきは、面倒くさい事をどれだけ素早く終わらせる事が出来るかだ。そして、一度戦うという事が、それに該当する。
「はぁ……めんど……てか、あの人名前なんだっけ?」
さっきの会話の中で、ずっと考えていたけど、とうとう思い出せなかった。まぁ、正直々でも良いし、PvPする時に分かると思うので、気にせずにファーストタウンに転移する。そのまま闘技場の方に移動する。
闘技場に入ると、既に相手が待っていた。
「ここで闘技場のメニューを操作出来る。今回は、こっちから申請する」
「分かった」
説明を訊きつつ、周囲を見回すと観客席に人がいた。割と多い。宣伝したってわけではないと思う。PvPが好きな人が多いみたいなので、対戦相手のチェックを込めて観戦する人がいるって感じかな。
そんな事を考えていると、相手から申請が届いた。そこには、アーサーという名前が書かれている。確かに、そんな名前だった。勝利条件は、HP全損。まぁ、正面からちゃんと戦うなら、そうなるのは当然だ。
取り敢えず、YESを押す。すると、観戦席と戦場を分断するように透明な壁が張られた。
「観客席を守る結界だ。これで心置きなく戦えるだろう」
「そうなんだ」
確かに、魔法を使う人がいたら、流れ弾が観客席に当たる可能性がある。多分、街中判定だからダメージはないだろうけど、安心感という意味では壁があった方が良いのだと思う。
そして、目の前で十からカウントダウンが始まった。アーサーは、武器と盾を構えていた。
私の方は何も構えない。そのままカウントダウンが進む。そして、ゼロになったのと同時に、地面を蹴って空を飛ぶ。空を大きく使えないから、【大悪魔翼】だけで空高く飛ぶ。そして、【蒼天】のチャージを始めた。
空を飛んだ私を見ても、アーサーは動じていなかった。イベントでも見せていたからかな。でも、私の口が青く光り始めたのには顔を強張らせていた。
そして、次の瞬間には苦い顔をしていた。その理由は、私がどんどんと高く飛んでいたからだ。相手が【空歩】や【浮遊】を持っていたとしても、【飛翔】の効果でMPを消費しない私の元までは追いつけない。
恐らく、こっちの狙いはバレバレだ。口を青く光らせて、そのまま上空で待機。そんな状態を見せられれば、何かの技のチャージ中という事は誰が見ても分かるから。そして、空を飛んでいる事が時間稼ぎという事も。【飛翔】の存在を知らないアーサーは、時間で降りてくる事になると考えるはず。羽がMP消費って事は、多分掲示板とかでバレている可能性が高いから。私以外にも持っている人がいるしね。
だから、そういう考えが出来ないように追い詰める。その方法は、私が一番信頼している方法。血液だ。
上空からどんどんと血を流していく。普通だったら、急に血が降ってきたというホラー展開になると思う。でも、アーサーは、私が血液を使う事を知っている。だから、これも攻撃の一つだと考えるだろう。そうして、相手の意識を多く割く。【第六感】持ちは、多方面からの連続攻撃が苛つく。だから、地面に垂れていった血液を剣の形にして、どんどんとアーサーを攻撃する。
この攻撃に攻撃力は期待出来ない。でも、攻撃には変わりないので【第六感】は反応し続ける。アーサーは、鬱陶しそうに剣と盾で弾いていた。
「【大地武装】が反応しない……距離がありすぎるか。安全面を優先しすぎかな」
【支配(血)】は、ほぼ距離無制限で操れる。ただ、視界の外で操るのは、結構難しい。特に距離が開くと、難易度が上がってくる。自分の血液なら、大分慣れているから、結構正確に操れるけど。
【大地武装】が反応しない場所で【大地武装】を使おうとした事がないので、新しい事を知る事が出来た。そこには感謝しよう。
そのままどんどん血を降らせて、【蒼天】のチャージを進める。既に、チャージの熱でダメージを受けるところまで来た。だけど、チャージは止めない。【蒼天】のレベルが上がったからか、前に最大溜めをした時よりも長くチャージ出来ている。その分、削れるHPも増えているけど。
熱が上がらなくなったタイミングで下に降りていく。アーサーは、血の剣に対処しつつ、私を警戒している。【第六感】を頼りに、視線は私を見ている感じだ。さすがに、ここで一位になるだけはある。
これだと【蒼天】も直撃させられないかもしれない。だから、【浮遊】と【電光石火】でアーサーの背後に移動する。この際に私が移動する場所にも血液の剣を配置しておく。その血液の硬質化を解いておけば、攻撃判定を残したまま、私が移動してもぶつからないようになる。液体が攻撃になる事は、【水氷武装】やレインの攻撃を見て知っている。
そして、アーサーが振り返る前に【蒼天】を放った。身体全体以上の太さをした【蒼天】が放たれた。アーサーの身体が飲まれて、観客席への被害を防ぐ透明な壁にぶつかり、壁に罅が入っていた。これは予想外だったけど、取り敢えず大丈夫だろうと考えて、【蒼天】を最後まで吐く。
私のHPも【貯蔵】分が消し飛んだ。だから、アーサーもHPが消し飛んだかと思ったのだけど、アーサーは一ドットくらいを残して生き残っていた。
「【守護者の生存】というスキルだ。倒れる前に一度だけ耐えられる。次は、こっちのば……」
呑気に説明をし始めたアーサーに、血液の剣と【大地武装】で作った石の剣を向かわせる。それらに紛れ込んで、背後を取り噛み付く。そのまま鎧の上から血を吸って倒した。
アーサーの敗因は、【蒼天】を普通の技と同じだと考えた事。技後硬直があると思い油断した結果、また【第六感】を使った混乱を受けて、私の噛み付きを防げなかった。【蒼天】がアーサーの予想外だったから勝てたって感じかな。
アーサーは、ポリゴンにならず、その場で膝を突く。そして、闘技場内の空中に私が勝利したというメッセージが出た。これは、私の目の前にもウィンドウで出て来る。同時に、【聖剣】というスキルを手に入れていた。アーサーから獲得したらしい。これらは、取り敢えず置いておく。
「これで満足?」
身体が消えていないという事は、意識はそこにあるはず。なので、そう声を掛けた。
「ああ……お前との差は分かった。約束通り、今後はお前に関わらない。それと、これが俺の全アイテムだ」
アーサーからアイテムが送られてきた。本当に大量にある。それを全て受け取る。これは約束だったからね。
「ん。確かに。それじゃ」
必要以上に関わりたくないので、そのまま闘技場を出ていく。これで、アーサーとの因縁も終わりだ。正直、因縁があったのか分からないけど。この調子で、誰かに絡まれるのは面倒なので、全力疾走で転移出来る広場まで走って城下町へと向かった。
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