第272話 光の精霊
球全体に罅が広がると、球がポロポロと崩れ始めた。そして、中から白い長髪の女の子が出て来た。目を瞑っているので、まだ寝ている様子だった。でも、すぐに眉を寄せ始めて、勢いよく目を開いた。白く透き通るような眼だ。
そして、私の事を見てから、メアを見た。
『あなたね。いきなり悪夢を見せるってどういうつもりなのかしら!?』
『だ~って、全然起きないんだもん♪ 滅茶苦茶軽い悪夢だから良いでしょ♪』
『大きな化物に丸呑みにされるのが軽いって言うのかしら!?』
『軽い軽い。だって、あまり美味しくなかったもん』
『これだから、闇の精霊は!』
いきなりメアと喧嘩したかと思うと、メアに背を向けて、私の方を振り返った。
『助けて下さりありがとうございます』
そう言って私に頭を下げた。私が助けたと思っているらしい。でも、実際は違う。
「ううん。あなたを助けたのは、メアだよ」
メアの方を指さすと、光の精霊は顔を強張らせた。そして、メアの方を振り向く。
『あ、ありがとう。礼を言うわ』
『ふふん!』
お礼を言われたメアはドヤ顔をしていた。
「ちゃんとお礼を言えて偉いね」
『そんな事はないです。してくれた事に感謝するのは当たり前ですから』
メアとは相性が悪いかと思ったけど、それだけで結構素直な子みたいだ。
『改めまして、私は光の精霊ルーメン。私をあなたに仕えさせてくれませんか?』
「いいよ」
即答すると、きょとんとした表情で返された。
『え、えっと……では、名前を頂きたいのですが』
ここでウィンドウが出て来た。いつも通りテイム可能という確認なので、YESを押して、名前を入力する。
「光……神聖……神秘……しっくり来ないな……白……ホワイト……いや、英語に拘る必要はないか。マシロ。綺麗な白い髪だから。お揃いだね」
真っ白の髪に目が行くので、マシロ。私の髪とお揃いで、私の名前と同じ。何となく、この名前を付けたいという風に思った。
『マシロ……ありがとうございます』
「うん。後、私にもメアに話しているみたいに話してみない? 何かエアリーと違って硬いんだよね」
『あっ……えっと……』
私も仲良くなりたいと思って言った事だけど、マシロの様子が変だった。なんだか、親に叱られた子供みたいな反応だ。でも、表情は恐怖を貼り付けたような感じがする。
「マシロ、言いたくないなら言わなくて良いからね。何があったの?」
『あ……』
「分かった。言いたくなったら言って。大丈夫。私もメアもエアリーも他の皆もマシロの味方だからね」
マシロの頭を撫でて安心させる。私は、かー姉からされると安心するから、多分安心すると思う。
『は、はい……』
取り敢えず、しばらくこの話題は出さないようにしよう。恐らく、マシロは人を恐れている。十中八九、あの黒いやつが関係している。いや、厳密には黒いやつに関わった人が関係しているかな。どっちみち、許せないやつが出来た。例え、既に死んでいる人であってもだ。
そんな事があっても、こうして話してくれているのは、私が恩人の一人だからなのかな。同じ精霊のメアになら素を出せるのなら、しばらくはこのままで良い。ギルドエリアには、レイン、ソイル、ライ、スノウ、エレクもいるし。
「もっと、普通に触れ合える子も増えれば良いんだけど……」
『姉々! この下行く!? 真っ暗でヤバそう!!』
「あ~、また明日ね。さすがに、寝ないとヤバい」
『むぅ! まぁ、仕方ないかぁ』
ちょっとむくれるメアの頭を撫でてあげていると、エアリーが降りてきた。
『お姉様、大丈夫ですか?』
「うん。ありがとう、エアリー。あっ、この子は、マシロ。仲良くしてあげて」
『はい。よろしくお願いします』
『よろしく』
エアリーにも普通に話せている。この感じなら、精霊同士のコミュニケーションが、少しずつマシロの心を癒してくれるかな。
全く……運営も胸糞悪い設定を作るな。マシロのためにも、この問題は解決しないと。まぁ、時間が解決するようなものだと思うから、自分からは何も出来ないけど。
問題と言えば、師匠の問題もあった。それに他にもやりたい事は沢山ある。
「まぁ、取り敢えず、メアとマシロの住む場所を決めないとか。一旦、ギルドエリアに戻るよ」
ここで探索を切り上げて、皆でギルドエリアに戻る。ギルドエリアに戻ってくると、先に帰していたメアとマシロが、レイン達に挨拶をしていた。
「まずは、二人の好みを……」
どういう環境を用意するか考えていると、脚に変な感覚がした。何か毛の塊が身体を擦りつけているような。そう思って脚を見てみると、黒い猫が身体を擦りつけていた。
「猫?」
猫を飼った覚えはないので、かなりびっくりした。
「ラッキー!? どこぉ!?」
アク姉の声が聞こえてくる。ラッキーって何だろう。何かを探しているみたいだけど、もしかして……
「ラッキー?」
『ニャア』
「ラッキー」
『ニャア』
うん。完璧この子だ。私は黒猫のラッキーを抱き上げて、アク姉の方に向かう。
「アク姉、この子?」
「ああ、いたぁ! ありがとう、ハクちゃん。ちょっと目を離した隙に、どこか行っちゃうんだもん」
私からアク姉の腕の中に移ったラッキーは、そのまま寝始めた。滅茶苦茶自由な子だ。メアみたい。
「この子、どうしたの?」
「クエストの報酬。パーティーで一匹みたいで、何故か私がテイム出来ちゃった。幸運猫のラッキー。よろしくね……って、完全に寝ちゃった」
「へぇ~、良かったね。じゃあ、私も紹介するね。メア、マシロ」
呼び掛けると、二人がやって来た。二人を見て、アク姉の表情が笑顔で固まった。多分、また精霊を仲間にしているって思ったのだと思う。こんな高頻度で精霊を仲間にする人なんて、このゲームで私だけだろうし。
「こっちの子は、闇の精霊のメア。こっちの子は、光の精霊のマシロ。この人は、私の姉の一人でアクアだよ」
『よっろしくぅ!』
『よろしくお願いします』
メアは、いつも通り元気一杯に挨拶していた。マシロの方は、私にしているような硬い挨拶だった。やっぱり私以外の人でも駄目みたいだ。
「ラッキーの住む場所は、アク姉の屋敷?」
「う~ん……基本はかな。一応、アカリちゃんに許可を取ったから、ギルドエリアの中を自由にさせるつもり」
「そうなんだ。まぁ、皆もいるから、安全と言えば安全か」
「そういう事。それじゃあ、私は、もう寝るね。ハクちゃんも、そろそろ学校が始まるんだから、夜更かしも程々にね」
「ん~」
ここでアク姉とは別れる。アク姉が屋敷に戻っていったのと同時に、私はメアとマシロに向き合う。
「さて、二人の住む場所だけど、何か要望の環境とかはある?」
『負の感情いっぱい!』
『明度的にも雰囲気的にも、明るい場所が良いです』
「……え~っと、取り敢えず、メアの要望は無理だとして」
『えぇ~!?』
悲しそうな顔をするけど、ギルドエリア内で負の感情がいっぱいな場所なんて存在しないと思うから無理だ。強いて言えば、アカリの実験室かな。失敗したアカリの絶叫は負の感情に近いかもしれないし。まぁ、あそこは危険だから、普通に別の場所にしてもらおう。
「マシロの要望だと、皆が集まってる屋敷周辺かな。何か明るくするものはあるかな……」
ギルドエリアのメニューを確認してみる。マシロが気に入ってくれそうな灯りは見つけたけど、メアの方が問題だった。
「う~ん……」
『暗い場所でも良いよ? 真っ黒が良い!』
「黒い真っ暗な場所か……遮光室みたいなのがあるけど、これで良いのかな……てか、何のためにあるんだろう……映画館?」
「いや、光で勝手に分解するものの保管だけど」
「うわっ!? アカリ!?」
メアの住む場所を探していたら、後ろからアカリが補足してくれた。ただ、本当にいきなりだったので驚いた。
「ハクちゃんが夜更かしなんて珍しいね。新しい精霊の子達と関係あるの?」
「ああ、うん。二人の住む場所を探してたところ。白い髪をしている方がマシロで、紫の髪をしている方がメアだよ。私の幼馴染みのアカリだよ」
『よっろしくぅ!』
『よろしくお願いします』
「よろしくね」
アク姉と似たような挨拶を交わしている間に、二人の住む環境を決める。
「う~ん……これなら小屋を建てて二分割にした方が良いかな?」
「かもね。どこに建てたいの?」
「出来れば、畑の前かな。皆が集まりやすいし」
「集まりやすい……精霊の集会場みたいな感じ?」
「あ~……似た感じかな」
「なるほどねぇ……うん。じゃあ、中央に集会場を作って、二人の小屋は、別に建てようか。集会場の近くなら良いでしょ?」
「あ、うん。ありがとう」
こういう時、すぐに行動に移してくれるから助かる。ただ、普通に私でも出来る事なのだけどとは思っちゃうけど。
アカリは、テキパキと小屋を建てる。そして、その傍に壁のない建物が出来た。一応屋根は作られている。広さは、小屋の二倍ぐらいかな。真ん中に円形のローテーブルが置かれていて、他は特に何もない。
「取り敢えず、走り回れるようにしておいたよ。それに、どこからでも入れるように壁は無くしておいたから」
「ありがとう。メア、マシロ、自分達の部屋を確認してみて」
『は~い♪』
『はい』
私も二人の部屋を見てみる。まずは、メアの方だ。
「暗っ!?」
『やっほ~い!! 真っ暗サイコ~♪』
メアは大喜びだったけど、本当に暗すぎる。どこに何があるのか何となくしか把握出来ない。まぁ、メアが住みやすいなら良いか。
次にマシロの部屋に来ると、メアの部屋と正反対に滅茶苦茶明るかった。
「おぉ……住みやすそう?」
『はい。落ち着きます』
「なら、良かった。皆と会いたくなったら、集会場の方に来てね」
『はい。ありがとうございます』
マシロを安心させたいところだったけど、私が不用意に触れるのは、ちょっと危ないかもしれない。なので、頭は撫でずに手を振って応える。
取り敢えず、二人の部屋の確認も終えたので、外に出る。すると、集会場でスノウが大の字になって寝ていた。
「……まぁ、誰が使っても良いか」
「スノウちゃんも気に入ってくれたみたい」
「みたいだね。ありがとうね、アカリ」
「ううん。ところで、時間大丈夫?」
「う~ん……まぁ、このくらいなら平気。明日、若干眠いくらいかな」
「無理しないようにね」
「分かってるよ。アカリは?」
「私も今日は寝るかな」
「そう? おやすみ」
「おやすみ」
先にログアウトしていったアカリを見送って、私もログアウト……する前に、ギルドチャットに情報を書き込んでおく。それは、マシロの事だ。人が苦手という事は知っておいて貰わないといけない。多分、アク姉は気付いたかもしれないけど。こういう部分には、結構敏感だし。
書き込んでおけば、皆、不必要にマシロに関わる事はなくなる。そういう事が出来る人達だという事は、私もよく知っている。
「これで良し。私も寝よ」
ここでログアウトして寝た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます