第274話 最低最悪の屋敷
城下町に来た私は、すぐにエアリーを召喚する。
『思ったよりも遅かったですね』
「ん? ああ、ちょっと因縁っぽいので絡まれてね。まぁ、もう関わりを持たないって約束させたから、大丈夫」
『そうでしたか。次の時は、喚んで頂ければ、細切れにしますよ』
「あはは……大丈夫、大丈夫。そういう問題は、こっちで片付けるから。エアリー達を巻き込みたくないからね。マシロの件もあるし」
『なるほど』
マシロの例を出したから、エアリーもすんなりと納得した。マシロが人嫌いという点を考えると、精霊をプレイヤーと関わらせたくないという私の考えにも繋がるからだ。
「さてと、馬鹿に割いた時間の分も急いで探索を進めて南の屋敷まで行こう」
『はい』
エアリーにモンスターを倒して貰いながら、また廃屋を調べて行く。今回は、全然靄を見つけられなかった。キメラのぬいぐるみもなかった。吸血姫の絵もだ。
「う~ん……この差は何なんだろう?」
『燃えたというだけでは?』
「……それもそうだね」
私としては、そういう信仰がなかった家もあったのではって考えたけど、正直エアリーの言うとおりな気がする。北の屋敷から分かった事は、この街が思っていたよりも吸血鬼が表立って生きていたという事だ。だから、ちゃんと吸血鬼を信仰している人達が集まっていると考えていた。
あそこまで人の協力者がいたのも、それなりに慕われていたからだと思いたい。強制されているって感じはしなかったし。仕事だからみたいな感じだった。
「さてと、それじゃあ、本命の南の屋敷に移ろうか。【召喚・スノウ】【召喚・ライ】」
前にも喚んだ二人を喚び出す。
「それじゃあ、またお願いね」
『ガァ!!』
『……』こくり
二人に防衛を頼んで、エアリーと一緒に南の屋敷の中に入る。事前にゾンビを倒しておいてくれたみたいで、中はすっきりとしていた。
「そういえば、下水道の下も残ってるんだっけ……あれは夜で良いか」
屋敷に入った事で、下水道の事を思い出したけど、時間的に夜になる。なので、今は屋敷に集中する。
『こちらは、向こうの屋敷よりも荒れていますね』
「そうなの?」
先に風で構造を確認してくれているエアリーの言葉だから、確かなもののはず。
「ここの構造を教えて」
『こちらも北の屋敷とほぼ同型の屋敷となっています。ただ間取りが多少違いますね』
「完全に同じってわけじゃないんだ。どこが違うの?」
『四階と屋根裏です』
「じゃあ、そこまでは同じような屋敷って感じか。ちゃちゃっと調べて行こう」
『はい』
一階は、向こうと同じく厨房、保管庫、食堂、更衣室の四部屋だった。一つ違うところがあるとしたら、窓がある事と食堂にあの気味の悪い絵がない事だ。
「う~ん……ここは吸血鬼の家じゃないのかな。治めていたのは、城主である吸血鬼だとして、街の管理は人と吸血鬼両方でやっていた感じかな。対外的には、人が表に出ていた感じかな」
『判断するには、情報が少ないかと』
エアリーの言うとおり、まだ情報は少ない。窓がない事と絵がない事だけでは、絶対に人という風に判断は出来ない。もう少し人っぽい情報が欲しい。
「まぁ、そうだね。二階に上がろうか」
『はい』
二階も同じくメイドさんの部屋という感じだった。メイド服があったから、こっちは間違いない。ただ、エアリーの言う通り、結構荒れている。タンスが倒れていて、ベッドもボロボロになっている部屋が多い。
「う~ん……何で?」
『金目のものを探すために荒らしたという雰囲気ですね』
「向こうが荒らされなかったっていうのが、吸血鬼に関係しているって考えたら、こっちが人の持ち物だったって可能性が高くなるね」
『そうですね』
人と吸血鬼の共存。それが、この街の特徴だったのかな。そう考えていられたのは、この二階までだった。
三階の書斎兼執務室に来た私は、大量の資料が残っている事に歓喜した。
「やった!! 手掛かりだ!」
防御は考えなくて良いので、言語系スキルを装備する。そして、手に取った資料を見て固まった。
『精霊を使った悪魔の生成』
これだけでマシロに関する事が、ここから始まった事が分かった。
『闇を超高濃度になるまで溜め続ける。すると、闇の中に意思が宿る。我々は、これを悪魔と呼んだ。これまでの実験で生み出した悪魔は、こちらを認識する事しか出来ず、我々の言う事を理解しなかった。意思があっても知能はない。そのような状態だった。
我々は悪魔の知能を上げる方法として、より高濃度の闇を集めるという方法に行き着いた。だが、闇は拡散するという特徴を持つ。人力で、高濃度の闇を集めるのは難易度が高い。
なので、闇を集めるための生物を作り出す。条件は、魔力を消費して闇を集め続けるというもの。この条件での生物の生成は、前回の実験でクリアしている。だが、自身で生み出せる魔力で集められる闇の量は限られており、魔力を使い切れば闇は霧散する。悪魔を形成するための量を集められなかった。そこから、魔力量を上げるために試行錯誤がされたが、上記の問題を解決する事は出来なかった。
そこで視点を変えて、魔力を外部から取り入れる方向に考えを改めた。そこで対象となったのが、精霊だった。無限に等しい魔力を持つ精霊から魔力を吸収すれば、常に闇を集め続ける事が出来る。精霊に寄生させるという形を取るつもりだが、精霊が防御に集中すれば、寄生は上手くいかない。だが、その防御の上から魔力を吸収しつづけられるようにすれば、寄生出来るだろう。
また闇の力に耐えられるように、核とする精霊は光の精霊とする。闇の精霊にすれば、闇を支配されて、反旗を翻された場合に確実に抑えきれない。またその他の精霊では、闇に耐えられず消滅する可能性がある。これらの事から、光の精霊を核とする。
精霊が、我々の指示に完璧に従うとは限らない。これは、どの精霊でも同じ事が言える。そこで、精霊の心を壊す事とする。精霊が人と同じ精神構造や心している事は判明している。そこから、人と同じく心を壊す事が出来ると考えた。これには、人と同じく拷問が適していると考えられる。精霊を拷問するのは、中々厳しいと思われるが、計画の成就のためには実行するしかない。計画の成就を祈る』
確実にマシロの事だ。それも、マシロが人に心を開かない理由までまるっと判明した。正直、このままこの屋敷をぶっ壊したい気分になったけど、まだ全部を調べ終えていないので、深呼吸をして落ち着かせる。
そこからエアリーも手伝って貰って、全ての資料に目を通す。大体は、研究のメモみたいな感じで書かれている事は少なかった。紙の無駄遣いに思えたけど、そこは気にしないでおく。
書かれている事の重要そうな部分をピックアップしていくと、『錬金生物』『合成生物』『悪魔』『分解』『復元』『魔法陣』『ゾンビ』『餌』ってところかな。『錬金生物』『合成生物』『悪魔』は、寄生生物に関する資料に出て来た。寄生生物をどう作るかで、『錬金生物』と
『合成生物』が上がったからだ。ここら辺は、作り方の資料も手に入れたので、アカリに見てもらう事にした。アカリも作っているから、色々詳しいだろうし。
『分解』『復元』『魔法陣』『ゾンビ』『餌』は、下水道の魔法陣に関するものだ。何でゾンビの無限湧きなんて状態になっているのだろうと思っていたけど、ここら辺が関係していた。
まず倒れた『ゾンビ』を『分解』する。それを『魔法陣』で『復元』する。これらを悪魔に対する『餌』にして、悪魔をあの下水道に居付かせる。悪魔が、あそこから動かなかった理由は、ゾンビという餌を定期的に補給出来るかららしい。
「ふ~ん……餌……正直餌が必要とは思えなかったけど」
『そこは、ここの方々の勘違いではないでしょうか?』
「かな」
答え合わせをしてくれる人はいないので、ここら辺は考察するしかない。エアリーの言う通り、ここに書いてある事が全て真実とは限らない。図書館にある本ですら、様々な意見が載っている。どれが正しくて間違っているのか、自分達で考えなければいけないので、ちょっと楽しい。
まぁ、正直、今の気分ではその楽しさもないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます