第269話 地下で行われていた事

 頭痛と歪みが終わると、周囲が様変わりしていた。人がいるけど、全員覆面と白衣みたいな服を着ている。その服は、全体的に血で濡れていた。


『次を持って来い』

『はっ!』


 そうして連れて来られたのは、眠っている男性だった。多分、眠らされている。それが台に置かれると、沢山の人が群がっていった。


「あぁ……ここで直接見えないようにしてるのか」


 でも、私には抜け道がある。【浮遊】を使って、浮き上がって見ようとする。


「痛っ!?」


 浮き上がった勢いで、謎の透明な天井に頭をぶつけた。さすがに、ここら辺の規制はしているらしい。そこを細かく見せちゃったら、十八禁になっちゃう可能性があるからかな。あまり血が飛び散る描写もないし。


「私、血液を使う戦い方だから、あまり気にしないんだけどなぁ。まぁ、苦手って人はいるだろうし、仕方ないか」


 事が終わるのを待っていると、部品に分けられたであろう人が袋に詰められて、どこかに持っていかれた。そして、台の上にはさっきの血瓶が置かれている。


『血液の量は足りているか?』

『どうだろうな。旦那様なら大丈夫だろうが、城主様は健啖家だ。後、二、三人搾らないといけないかもな』

『はぁ……最近は慣れてきたが、やっぱり精神的に来るな……』

『仕方ないだろう。そのおかげで守って貰えているんだ。それに、搾られるのは犯罪者だけだ。そこまで気にする必要はない。気楽にやれ』

『ああ……』


 人を解体して肩を落としていた人を、同じく解体していた人が励ましていた。やっている事が事だから、良い場面だなとか思えないけど。

 そんな中別の方向でも会話が発生した。


『そういえば、下のやつの餌は?』

『さっき解体したので足りるだろ。その前に牛一頭食べさせているからな』

『そうか。あいつの世話係は大変だな』

『だな。解体係で助かるよ。給料も良いしな』


 その会話を最後に、また頭痛の視界の歪みが発生した。そうして、私の意識は元の時間へと帰ってきた。


『お姉様!』


 戻ってきた私は床に寝ていた。エアリーが、肩を揺らして心配そうな顔をしている。そんなエアリーの頭を撫でてあげる。


「大丈夫。また過去の映像を見てただけだよ。まさか、倒れるとは思わなかったけど。本当に、血瓶系は、不用意に飲まないようにしないとね」

『それはお願いします。こっちの心臓も保ちません』

「ごめんね」


 精霊って心臓があるのかなとか思ったけど、今訊く事では無いので置いておく。


「でも、おかげで情報は手に入れた。ここは、本当に吸血鬼が治めていたみたい。この屋敷と城の主が吸血鬼だったみたい。犯罪者の身体を解体して出て来た血を飲んでいたらしいよ。そして、肉の方はこの下に送られるみたい。何かの餌だって」

『餌? では、生物がいるという事でしょうか?』

「多分ね。エアリーは、感知出来ない?」


 エアリーが風を使って探っている間に、地下一階を調べて行く。【心眼開放】で見つけられるものはないけど、よく見てみたら壁にのこぎりとかが掛かっていた。錆び付いていて、かつての切れ味はもっていないと思う。


『お姉様。念入りに調べましたが、生き物のような形をしたものは感知出来ません。広い空間に鉄格子のようなものがあるだけです』

「でも、かつてはいたっていう事は確実っぽいね」

『そうですね』


 取り敢えず、地下一階を一通り調べる。刃物が散らばっていたり、壁に乾いた血液がこびり付いているくらいで、特に新しい情報はなかった。

 なので、地下二階に下りる階段の前まで来た。そこに立った瞬間、地下一階への下り階段よりも遙かに重い嫌な感じがする。


「……よし! 行こうか」

『はい』


 エアリーと一緒に地下二階へと下りていく。地下二階に下りる階段には、乾いた血がそこら中にこびりついている。これだけでも十分に恐怖を感じさせられる。

 そのまま下っていくと、地下二階に着いた。こっちも広い空間になっているけど、上とは違い、鉄格子の存在があった。鉄格子で囲われている場所は、部屋の三分の一の広さだった。


「でかい……ただ、何もいないね」

『はい。改めて、確認してみましたが、モンスターの影はありません。何もいないかと』

「だね」


 何もいないなら一安心と言いたいところだけど、嫌な感じが消えていない。身体中を突き刺すような感じだ。その正体が分からない限り、本当の意味で安心は出来ない。鉄格子の中を調べる前に、その周りを調べて行く。近くの机の上には書類が散らばっていた。


「……研究記録? いや、観察記録か」


 冊子になっておらず、全部バラバラだし、日付も書かれていないので、正確な順番は分からない。それに、いくつかの書類は血が染みこんでいて、読める箇所がない。


『大分成長してきた。だが、それに応じて、食欲も高まっているらしく、日に日に食料の量が増えている。これでは、この街に卸される食料がなくなってしまう。何か別の方法を考えなければならないだろう』


『今日、職員の一人が食べられた。これまで襲われた事はなかったが、まさか身内で被害が出るとは。だが、この事件のおかげで、一つ思い付いた事がある。城主様と旦那様に許可を頂かなくてはならない。すぐに行動しよう』


『生まれたばかりのため、身体が安定しない。その生まれ故なのか、また失敗なのか判断はまだ出来ない。今後の成長から判断していこう。まだ子供だ。しっかりと育てなければ』


『犯罪者の刑罰の一つ死刑制度を利用して、その肉を与える許可が下りた。城主様方の食事用に血を搾り取ってから、肉を与えるという方式だ。そのための職員も集める。人を解体する事が出来るのは、ごく僅かだろうが、何とか集めるしかない。そうしなければ、いずれ我々が食料になってしまう。それだけは避けなければ』


『成長に伴い、身体が安定してきた。ただ、知能も上がってきているためか、頭同士での喧嘩が始まる。どうにかして止めたいが、それをしようとした職員が二人犠牲になった。しばらく放っておけば大人しくなるので、それを待つしかないだろう。下手に睡眠剤を導入して、耐性を持たれる事は避けなければならない。我々が身を守る方法が消えるからだ』


『どうやら近くの街で死体を動かす研究が進んでいるらしい。これを使えば、安全に食事をさせる事が出来るのでは? そう考えて、すぐに旦那様に報告する。これには、旦那様もすんなりと頷いてくれた。これで食料の問題は解決する。死体など、そこら辺に埋まっているのだから。今更倫理を説くようなやつはいない。そうだ。今更、倫理なんて気にしていられない。生き抜くためには、そんなもの必要ない』


『食べさせる犯罪者が減り、日に日に職員の犠牲が多くなっていく。空腹時の暴走は、どうしようもない。睡眠剤の導入が決まるのは、かなり早かった。しかし、すぐに効き目が悪くなった。僅か二回投与で、耐性が出来始めているらしい。明日は我が身か』


 読めるのは、この程度だった。この情報を整理して考えると、一つの可能性が出て来る。


「もしかして、育てていたのって、キメラ?」


 複数の頭という点に加えて、街中でキメラのぬいぐるみを手に入れていた事から、すぐに連想出来た。ただ確定情報ではない。あくまで、私の思いつきだ。でも、これまでの情報から繋げたら、キメラという答えに至る。


『キメラも信仰の対象だったという事でしょうか?』

「それはどうだろうね。態々地下で育てていたって点からしたら、隠さないといけないものだったって感じがするし。もしかしたら、あのぬいぐるみは、キメラを受け入れさせるための下地作りだったのかもしれないよ」


 キメラという存在を受け入れさせて、キメラを門番とかにしようとしていたのかもしれない。そのための研究だったと言われれば納得出来る部分もある。でも、普通に人を食べさせているところが引っ掛かる。

 吸血鬼は、本当に街の人達を守ろうという考えがあったのだろうか。

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