第268話 いざ地下室へ

 埃っぽいだろうと思っていたのだけど、そんな事は全然無かった。綺麗に片付いているのだけど、それが尚更怪しい感じがする。


「特に何もない?」

『そうですね。家具などもありません。ですが、少し凹んでいる場所が複数あります』

「凹んでる? 床の事?」

『はい』


 こればかりは、私の影でも分からない。どこからに入り込むならまだしも、ほんの少しの凹みを感知出来る程繊細な感覚を持つ影じゃないから。


「教えて」

『こちらです』


 エアリーに案内して貰って、凹んでいるという場所を調べる。手で触ってどんな形で凹んでいるのか確かめる。


「何だろう? 長方形か……棚かな?」

『ここに日が差していれば、日焼けなどもあったでしょうが』


 エアリーの言葉からも分かる通り、ここには窓が無い。なので、日焼けとは無縁の場所になっている。だから、手掛かりは、この僅かな凹みだけだ。


「【心眼開放】でも何も見えない。屋根裏は、重要な場所じゃなかったって感じかな」

『それは分かりませんが、この凹みの大きさは、全てほぼ同じです』

「えっ?」


 もう一度凹みを触って確認してみる。すると、エアリーの言う通り、どの凹みも同じような大きさをしていた。恐らくは、全て同じものが置かれていたのだと思う。


「全部で六つ。一体何だったんだろう?」


 情報が少なすぎて、まだ予測も出来ない。この大きさなら、大きめの棚という線が大きいとは思うけど。


「う~ん……あっ、棺桶?」


 吸血鬼と言えば、棺桶で睡眠をとるというのが定番になっている。吸血鬼に関連しそうな情報が出て来ているところから、そこが思い付いた。まぁ、私は普通にベッドが良いけど。


「あっ、いや、下にベッドがあったか」


 私自身がベッドの方が良いと思ったところから、この屋敷にもベッドがある事を思い出した。そうなると、睡眠目的の棺桶という線は薄くなる。


『もし仮に吸血鬼という事を隠していたという可能性は如何でしょう?』

「あぁ……う~ん……それはないかも? 吸血鬼っぽい絵と血液と人の購入から考えて、吸血鬼という情報は出回っていたと思う。住人も同じ絵を持っていたしね」

『では、棺桶という線はないという事でしょうか』

「そこは分からないかな。棺桶の本来の利用方法で使っていたのかもしれないし」

『趣味が悪いですね』

「だね」


 もう一度屋根裏全体を確認してから、屋根裏を後にする。次に調べるのは、地下室だ。正直、ここが一番の本命だと思っている。


「てか、結局鍵を見つける事は出来なかったなぁ」

『壊しますか?』


 いつでも出来ると言わんばかりに、エアリーがそう言う。まぁ、エアリーなら簡単に出来るとは思う。


「いや、影で開けてみるよ」

『分かりました』


 なるべくなら穏便に進めたいので、出来る限りのことはする。地下室への扉の前まで来たので、影を操って、鍵穴に突っ込む。


「……こんな感じかな」


 適当にガチャガチャとやると、鍵は開かなかった。なので、内側から鍵のつまみを掴もうとしたら、摘まみが無かった。


「はぁ? どうなってんの?」


 せっかく格好よくピッキングしようとしたのに、全部空振りだ。なので、直接塞いでいるボルトを無理矢理押し込んで鍵を開ける。


『さすがです』

「でしょ」


 ドヤ顔をするけど、多分、エアリーからしたら破壊した方が早いのにってなっていると思う。もうちょっとスムーズに出来るようにしたいな。ピッキングのスキルがあったら取ってみようかな。

 ちゃんと開いているから、今はそこまで気にしないで中に入る。


「……何か嫌な感じ」

『そうですか?』

「うん。ピリピリする感じ。エアリーも警戒は解かないで」

『はい』


 エアリーが全部倒してくれたはずだけど、何故だか気持ち悪い。身体中を虫が這い回っているかのような感覚だ。

 警戒しながら階段を下っていく。折り返しになっているので、二階分しっかりと降りていった。地下室は、壁が石で出来ていて冷たい印象を受ける。それに、全体に仕切りの壁も無く大きく広い部屋になっていた。さらに地下に降りる階段は、今降りてきた階段の対角線上にある。


「ん? 血液?」


 地下室の床に立った瞬間、嗅ぎ慣れた臭いが鼻を襲ってきた。血を飲み過ぎて、血液の臭いに敏感になっているのかもしれない。臭いの元を追っていくと、大きな台のところまで来た。その台は、地下一階の中央にあった。


「これ木製かな。血が染みこんでる。それに、この傷……」

『刃物によるものですね。それも、のこぎりのような刃かと思います』

「血が染みこんでいて、刃物での傷。しかものこぎり。人の解体?」

『動物の可能性もあり得ます。お姉様は、血の種類は嗅ぎ取れないのですか?』

「えっ……別に、血液ソムリエじゃないからなぁ。さすがに、人か動物かの違いとかは分からないかも」


 念のため、台に鼻を近づけて、臭いを嗅いでみる。普段のような血液の臭いがするだけで、どの種類かは分からない。


「ソムリエを目指すか……」

『こういう場でしか役に立たないと思いますが……』

「……やめるか」


 馬鹿みたいな話はそこまでにして、台に付いている引き出しを開ける。すると、そこに血瓶が入っていた。


「おっ、血だ。古の血瓶か」


 せっかくの血瓶なので、早速飲んでみる。


『あ……』

「うぷっ……」


 血瓶だからって、何も考えずに飲んだけど、思いっきり腐っていた。ゾンビから飲んだものと同じ臭いと味だ。思いっきり吐きそうになる。それを堪えて、血を飲み干す。

 多分、エアリーが声を出していたのは、腐っているという事に気付いたからだと思う。名前から考えたら、普通に想定出来る事ではあるし。私が何も考えていなかったのが悪い。


「最悪……痛っ!!」

『お姉様!』


 急に頭痛が襲ってきた。エアリーが声を掛けてくれている事は分かるけど、最初の私を呼ぶ声以外は聞こえない。さすがに、年代物の血液を飲むのはやり過ぎたかも。血瓶=飲み物という認識でいたから仕方ないけど。

 頭痛に耐えていると、目の前がぐにゃりと歪んでいくのが分かった。もしかしたら、これで過去の映像が見えるようになるのかな。何にしても、頭痛と視界の歪みが治るまでは分からない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る