第267話 北の屋敷二階三階四階
二階に上がった私が真っ先に見えたのは、窓が並んだ廊下だった。一階にはないものだ。
「そういえば……そもそも一階って窓あった?」
『いえ、どこにもありませんでした。窓は、二階からです』
「そういえば、外から見た時も無かったか……な?」
しっかりと見ていたわけじゃないから、はっきりとした事は言えないけど、少なくとも内側から見た時には一階に窓はなかった。エアリーの証言もあるので、これは間違いない。
「二階の間取りを教えてくれる?」
『部屋の数は全部で六つ。東側に地下へと下る階段が隠してあり、西側には三階へと上がる階段があります。部屋の大きさは全て均等です』
「それじゃあ、東側から調べて、次は三階に上がる事にしよう」
そうして東の端っこに行きながら、廊下を調べて行く。廊下には無駄な調度品はなく、広く感じる。ただ床のカーペットとかはボロボロになっていて、元々あったであろう綺麗さはなくなっていた。
「こっちの廊下は、特になし。扉が四つあるけど、一番奥が地下への階段に続いているって事で合ってる?」
『はい。鍵が付いていますが、普通に壊れると思います』
「そうなんだ。まぁ、あっちは後だから、手前の部屋から調べよう」
扉を開けて中に入ると、誰かの私室みたいな場所に出た。エアリーが同じ広さの部屋って言っていたから、この屋敷の主とかの私室ではないと思う。どちらかというと、客室って言う方が正しいのかな。それか、ここで働いていたメイドさんか執事の部屋って感じかな。
机と椅子が一脚ずつ、ベッドが一台、タンスが一棹のシンプルな部屋だ。一応、この部屋には窓が付いている。机には小さな鑑が付いているので、ちょっとしたドレッサーみたいにも見える。
タンスと机、ベッドの下を調べていく。
「う~ん、タンスの中にある服くらいか。こっちは、下にあったメイド服と同じだ。やっぱり、メイドさんの部屋か……同じ大きさってところから、他の部屋も同じメイドさんの部屋っぽいね」
『そうですね』
エアリーがそう言った直後、窓から入ってくる光が瞬いた。ライが戦闘をしている事がよく分かる。早く終わらせてあげないと、ライとスノウが大変なので、私も頑張らないといけない。
「ちゃっちゃと隈無く調べちゃおう」
『はい』
私達は次々に部屋を調べて行く。中身は、本当に変わらないメイドさんの部屋だった。違いは、服があるかどうかの本当に些細な点くらいだ。
「二階には何もなし。少しくらい情報があると思ったんだけどなぁ。寧ろ情報が無いことが情報だったり?」
『?』
私の考えにエアリーは首を傾げていた。私の言っている事がよく分からないみたいだ。まぁ、私も言っていて何を言っているのだろうって思ったから、エアリーの言いたいことは分かる。
「ほ、ほら、あれだよ。ここに情報がないから、そもそもここに暮らしていた人は、この屋敷に関する情報をあまり持っていなかったとか」
『屋敷の管理をしているであろうメイド達がですか?』
「うっ……」
確かに、持ち主は別にいても、屋敷の掃除など管理を主にしているのは、メイド達だった可能性が高い。こんな屋敷に住む人が、管理を自分でやるとは思えないというのが大きい。漫画とかアニメとかで見る貴族的な人って、屋敷に住んでいても掃除とかはしていなさそうだったし。
「じゃあ、ただ情報が無かっただけか。まぁ、切り替えて、三階に行こうか」
『はい』
次に上がった三階は、扉が三つだけあった。廊下は南側にあるから、二階とは互い違いになっている。
「ここは、三つなんだ」
『扉の数だけで、中は繋がっているので、一部屋になっています』
「ふ~ん、どんな部屋だろう」
廊下を調べるのは後にして、早速中に入る。三階の部屋は書斎と執務室が合わさったような部屋だった。部屋の半分は本棚が沢山置かれていて、もう半分にはなんか豪華な机と椅子、ローテーブルとソファが置かれている。豪華な机の方の上には、靄がある。
「本棚方は……何もなし。ここら辺の本は持ち出したのかな?」
『そのようですね。本棚の裏にも、何もありません』
「じゃあ、本棚エリアは素通りで良いかな」
そう言いつつも、チラチラと本棚と本棚の間を確認しておく。もしかしたら、靄が隠れている可能性があるからね。本棚の場所には何もなかったので、机の靄を固める。すると、一枚の紙が出て来た。また絵かと思ったら、これには文字が書かれていた。スキルに言語系スキルを加えて読む。
「う~ん……ん?」
書かれているのは、明細書みたいなものだった。買ったものは血液と人らしい。
「奴隷?」
人が売り買いされていると聞いて、真っ先に思い付いたのがそれだった。漫画とかなら、よくある事だし、ゲームでもあり得そうと思ったからだ。
ただ、人に関してはそう考えられても、もう片方の血液が異質過ぎる。
「私なら分かるんだけどなぁ……私なら?」
『お姉様と同じ吸血鬼が住んでいたのかもしれませんね』
「吸血鬼が住んでいたか……なら、吸血鬼崇拝は、街の主へのものって事?」
『あり得ない話ではないかと』
「う~ん……仮に吸血鬼が治めていたとして、ゾンビ騒動は?」
『それは別の問題ではないでしょうか? 吸血鬼が治めていたとしても、ゾンビ騒動は起こる可能性があったかと』
「あ~、まぁ、そうだよね」
この会話をしている間に、机などの中も調べていたけど、何かしらの情報になるものはなかった。
「吸血鬼か……そういえば、さっき更衣室で銀の杭を見つけたっけ。もしかして、人類の反抗? いや、それがゾンビ騒動に繋がるとは思えない。そもそも襲われているのは人だし」
これ以上考えても仕方ない事なので、意識を切り替えて外の廊下を調べる。外の廊下には何もなかったので、そのまま上がってきた階段とは反対側にある上り階段で四階に向かう。四階は、階段周辺が開けていて、奥の西側に扉が一つあるだけだった。そして、この階には一切窓が存在しなかった。一階と同じだ。
取り敢えず、開けている場所を調べてみるけど、特に何も無い。なので、そのまま奥の部屋を調べる。
「ここは……寝室かな」
見た感じ大きなベッドが一台と大きなタンスが一棹あるだけのシンプルな寝室だ。本当に寝るだけの場所らしい。タンスの中には、男物の服が入っているので、ここを使っていたのが男性という事だけは分かった。
「ベッドに変わりなし。他には何も無いかな?」
『風で感知出来る範囲では、何もありません』
「私も影で探ってるけど、何も出てこない。何もなしって判断して良さそうだね。そういえば、屋根裏はどうやって行くの? もう階段は無さそうだけど」
四階には、上るための階段はなかった。扉も寝室のものだけだし、天井にも怪しい場所は見当たらない。
『こちらです』
エアリーがそう言いながら、開けている場所の天井に向かって手を翳すと、天井の一部が落ちて梯子が現れた。継ぎ目も全く見えなかったから、全然気付かなかった。エアリーの風が通るなら、私の影も通れるはずなので、影を天井まで伸ばしていれば気付いたものだ。今度から、天井にも影を回す事にする。
「ありがとう」
エアリーにお礼を言って、屋根裏へと上がっていく。
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