第263話 マンホールの中に眠るモノ
クエストの開始を確認したところで、ゾンビ達の殲滅に移る。血の蓋を外して、エアリーに風を送って倒して貰う。
『お姉様。ゾンビ達の数が減りません。どこかから押し寄せてくるようです』
「やっぱり無限湧きかぁ……取り敢えず、そのまま倒し続けて」
『分かりました』
私は、マンホールの中に飛び込む。十秒近く落ちたくらいで床に着く。途中で【浮遊】を使って軟着陸
予想外な事に、嫌な臭いは一切しない。ファーストタウンの地下道と同じように、スライムがいる訳でも無いのに、これは本当に予想外だった。
『臭いは、私が吹き飛ばしています。ですが、完全に消す事は出来ません』
「そうなんだ。ありがとう、エアリー」
臭いがない理由は、エアリーが風で臭いが来ないようにしてくれているからだった。でも、完全に消す事は出来ないらしいので、嫌な臭いが襲ってくる可能性はある。
「【召喚・レイン】」
『うわっ、凄いところ……』
「ごめんね。ここに水があるか調べて貰える?」
『う~ん……あるよ。下水みたい。濁ってて嫌な水。ついでに、掃除していい?』
「良いけど……出来るの?」
『うん』
レインは、【無限水】で水を出して、下水のトンネルを洗い始めた。レインが汚れを落とした水を奥に押しやって、こちらに向かってくるゾンビ達を押し流す。そうして、濡れた壁をエアリーが風で乾燥させる。温風を出せるわけじゃないから、即乾燥とはいかないけど、水気を飛ばすのはお手の物だった。私のやることがない。
優雅に下水道を散歩していくと、大きな施設みたいな場所に出た。中央に向かって円錐状の下り坂になっているのを見ると、流れ込んでくる下水が集まる場所みたい。私達が来た場所と同じようなトンネルが四つある。多分、それぞれの四隅にマンホールがある感じかな。
私達がいるトンネルの出口の左右に梯子が掛けられていた。梯子の先には通路みたいなものがあって、トンネルとトンネルの間くらいの場所に中央へと向かう橋が架けられている。その中央には、円形の台が天井から吊り下げられていた。
「不安定な足場だね」
『あの円状の場所から、ゾンビが生まれています』
そう言われてよく見てみると、ダメージエフェクトみたいなのが飛んでいるのが見えた。【白翼】を使って、円形の台が見える場所まで飛ぶ。
「本当だ」
台の中央には、魔法陣のようなものがあり、そこからゾンビが生まれていた。生まれる度に、エアリーが斬り刻むから、そこでリスキルみたいになっている。
「二人とも、あれ破壊出来る?」
『いえ、無理だと思います。先程から、私の風で傷一つ付けられませんので』
エアリーがそう言った直後、レインが圧縮した水で魔法陣を削ろうとする。モンスターを容易く貫くウォータージェットなのだけど、魔法陣を刻んでいる台は、一切削れなかった。それが腹立たしかったのか、台を吊っている鎖の方に攻撃対象が移ったけど、それも切れなかった。
私も双血剣や血、影で削れないか頑張ったけど、全く削れない。破壊不能オブジェクトみたいだ。
『強力な力で守られてるみたい。多分、ライとソイルでも壊せないかも』
「だね。スノウとエレクも物理的に削る感じじゃないから、無理そうだね。ゾンビの出現を止める事は出来ないか……エアリー、この下ってどうなってる?」
『……風は通っています。モンスターの影はないですが、かなり奥まで続いています。約百メートル程です』
真ん中の穴は、百メートルも下に続いているらしい。ある程度見たら、上の探索に戻ろうと思っていたけど、このまま一番下まで向かってみる事にする。
「どうしようかな……【召喚・ライ】」
下の様子がどうなっているか分からないので、念のため戦力としてライを喚ぶ。この環境なら、ソイルよりもライの方が適していると思ったからだ。
「皆は、敵を倒して」
『うん』
『はい』
『……』こくり
皆にモンスターへの対応を任せる事で、私自身は【心眼開放】の靄を見逃さないように出来る。大量にモンスターが湧くような場所では、この分担が重要だった。
「それじゃあ、行くよ」
羽を消して、自由落下に入る。【重力操作】で壁に重力を持っていっても良いと思ったけど、MPを消費するので、普通に落下する方が良いと判断した。皆で一緒に下水道の奥へと落ちていく。上のゾンビはエアリーが倒してくれているので、レインとライは、下から来るかもしれないモンスターに備えて貰っている。
少し落ちていると、急に【索敵】と【心眼開放】が反応した。さらに、ものすごく嫌な予感が爪先から這い上がってくる。
「防御!」
私が声を出すのと同時に、レインが私達の前に氷の壁を作り出す。その氷の壁に地下奥から出て来た黒い何かが突き刺さる。それに対して、即座にライが稲妻を放つ。ライの攻撃で一瞬怯んだところを、レインが集めてきた水で追撃する。質量による攻撃で押し流すつもりだ。
でも、その水を黒い何かが飲み込んだ。その瞬間、今までの比にならない程の嫌な予感がした。
「っ!? 【送還・レイン】【送還・ライ】【送還・エアリー】」
皆を一気に帰らせたのと同時に私の空を飛ぼうと【大悪魔翼】を出した。その直後、右脚を何かが掴んだ。瞬間、HPが三割削れ、右脚が消えた。
「!?」
驚愕も束の間、【飛翔】で飛ぶのではなく、【重力操作】で頭上に重力を発生させる。上に引き寄せられていき、黒い何かから遠ざかるのと同時に、上からゾンビが降ってきた。あそこにはゾンビの無限湧き魔法陣がある。さっきまでエアリーが倒し続けてくれたけど、今は誰も倒していない。そこから溢れ出したゾンビが、私を感知して落ちてきたのだ。
「邪魔!」
双血剣を取り出し、血液を纏わせてゾンビ達を斬り裂いていく。元々柔らかいのもあって、ゾンビからの攻撃は受けずに移動を続けられた。そして、私から離れた場所を落ちているゾンビ達は、下から伸びてくる黒い何かに飲まれていった。即座にHPがなくなっている事から、あれに完全に取り込まれたら即死する可能性が高いと分かる。
「何あれ……?」
魔法陣も通り過ぎて、天井に着地した私は、逆に頭上になった黒い何かがいる穴を見る。黒い何かは、ゾンビを取り込みながら、私の方に伸びてきていた。
「ここにいない方が良いかな」
右脚がないので、【大悪魔翼】で飛びながら元のトンネルに入り、マンホールから出て行く。そして、念のため空高く飛ぶ。部位再生薬を飲みつつ、しばらく様子を見る。五分から七分くらい待ったところで、何も変化がない事を確認し、一息つく。
「ふぅ~……そういえば、あの攻撃……【夜霧の執行者】が反応しなかった。三割削れたくらいだし、致命ダメージ判定を受けなかった? 全身を飲まれていたら、致命ダメージ判定になりそうだけど、そのまま四回全部消費させられて、即死かな。それに、モンスターの名前も出なかった。そもそもの話、あれはモンスターだったのかな? どちらにせよ、あれはクエストに関係してそうだなぁ……でも、どうしようもなし、まずは街の探索を終わらせよう」
どんどんと探索を進めたいところだけど、そろそろ夜ご飯なので、一旦ここでログアウトする。続きは夜だ。
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