第264話 黒いモノの考察

 夜にログインした私は、一旦ギルドエリアに戻った。すると、すぐにレイン、エアリー、ライがやって来た。


『お姉さん! 大丈夫だったの!?』

『こちらは無事です。一体何があったのですか?』

『……』じー


 レインは心配だったという感じだった。エアリーは自分達の無事を伝えつつ何があったのか把握しようとしている。ライもレインと同じように心配そうな目でジッと見てきていた。


「ごめんね。いきなり送還しちゃって。私は、何とか逃げ切れたから大丈夫。あの黒いのが何か分からないけど、触れた瞬間から取り込まれちゃうみたい。私も右脚を持っていかれたし、ゾンビ達も即死してた。だから、皆と一緒に下水道の探索は出来ないかな。それで、一応確認しておきたいんだけど、皆は何か気付いた事ある?」


 精霊という目線から、何か分かった事がないのか確認する。もしかしたら、そういう何かがあるかもしれないからね。


『分からない。嫌なものって感じはしたよ』

『風による感知が上手く出来なかった事から、風はすり抜けていたと考えられます。ライの雷が通用していたので、もう少し魔力を込めていれば干渉出来た可能性はあります』

『……』ふりふり


 レインとライは、あまり分析出来ていなかったみたいだけど、エアリーの方は色々と分析してくれていた。ここら辺は、性格が出て来ている感じがする。


「風は取り込まれたわけじゃなくて、すり抜けた……取り込まれるものは、有機物とか? あれ? そもそも有機物って何だっけ?」

「有機物は、炭素を中心にしている物質だね」

「ん? アク姉?」


 まだ授業でやっていないところなので、どういうものだったか悩んでいたら、いつの間にかやって来たアク姉が教えてくれた。そして、当たり前のように後ろから抱きしめられる。


「何で有機物? 関係するスキルでも手に入れたの?」

「ううん。城下町エリアの下水道の話」

「下水道? ああ、あのモンスターみたいなのか。あれって、ダメージを与えられないんだよね。私達も急いで逃げたけど、えげつない罠だよね」

「えっ、アク姉、落ちたの? 飛べないじゃん」


 私は【重力操作】や翼系スキルがあるから、空を飛んで逃げる事が出来るけど、アク姉達は、そういうスキルを持っていない。だから、あの穴に落ちたらひとたまりもないはず。


「いや、せっかく無限湧きだから、レベル上げしようって話になって、あの下水道でレベル上げしてたんだよね。態々鼻栓して、アカリちゃんから消臭剤も貰ってね。そうしたら、下から上がってきたの。あれには驚いた……」


 あれは、私達があの場所に来た時から上に上がってきていたって感じかな。アク姉もモンスターみたいなのって言っているから、そこから疑っているみたい。ただ一つだけ疑問点がる。それは、【索敵】があの黒いものに反応したかもしれないという事。正直、本当に黒いものに【索敵】が働いていたかは分からない。でも、下に反応があったのは間違いなかった。


「【索敵】に反応した?」

「したした。でも、反応が小さいんだよね」

「そういえば……穴を塞ぐような大きさだから、反応的にはもっと大きくないとおかしいのか」

「あるいは、それがコアとかだったりしてね」


 確かに、コアだけ反応していたという可能性はなくはない。


「そういえば、あれは、どこまで追ってきたの?」

「トンネルに入ってきたけど、マンホールから地上に上がる梯子には近づいてこなかったかな。そこの手前までが移動範囲みたいだね。ゲームとして考えれば、あの黒いのを突破して下に行ったら、何かしらあると思うんだけどねぇ……アカリちゃんが作った薬を適当に投げ入れたり、魔法を撃ち続けたりしたけど、動きを遅くする程度なんだよね」


 アク姉達の魔法などでも足止めくらいは出来たらしい。精霊という条件がなくなったので、私でも同じように足止めが出来そうという事は分かった。


「こっちもライの雷撃とかで怯んでた。でも、ダメージは無かった。でも、レインの水は駄目だった。飲み込まれていったから。後、エアリーの風もすり抜けたよ」

「水と風……こっちの魔法は通じたから、魔力の大小かな。レインちゃん、水には、どのくらい魔力を通してた?」

『周囲から集める方が楽だから、あまり魔力は籠もってないよ』

「なら、魔力での攻撃が一番効くのかもね。【蒼天】は?」

「えっ!? さすがに、あの狭い場所で撃つ程馬鹿じゃないんだけど。下手したら、崩落もあり得るし」


 外で地面に撃つならまだしも、あの狭い下水道で【蒼天】を撃つのは危険な気がする。通路が埋まる程の幅で【蒼天】を撃てば、あの黒いのをどうにか出来る可能性はあるかもしれないけど、それは下水道の崩落を引き起こす可能性も出て来る事になる。

 無意識にそこら辺を考えていたから、【蒼天】を使おうという考え自体を持っていなかった。


「あ~……まぁ、このゲームなら一時的に崩落するとかはあり得るか。でも、やってみたら好転するかもよ」


 アク姉の方は、【蒼天】使用派だった。でも、そこまで意外じゃない。使えるものを有効活用するという考えがアク姉は強いから。


「えぇ~……まぁ、やるだけ得ではあるけど……」

「そもそもあそこのエリアって、収穫が少ない代わりに、モンスターの数が他のエリアよりも遙かに多くて人気ないんだよね」

「やっぱり対応出来なくなってくるから?」


 ゾンビの動く速度は遅くても、その数は、下手なゾンビゲームよりも遙かに多い。群がってくるゾンビに対応していけば、段々と手が回らなくなってくる。雪兎と似たようなものだ。


「ん~、まぁ、それもあるけど、単純に面倒くさいからかな。同じような理由で雪原エリアの雪兎も嫌厭されてるし」

「レベル上げに良いと思うけどなぁ」


 雪兎の時に強く感じたけど、リンクモンスターや大量出現のモンスターは、スキルのレベル上げに打って付けだ。ソロという条件付きだけど、特に近接戦用のスキルのレベル上げに使える。


「対応が出来ればね。背後からの攻撃とか色々と警戒するものが多くなるから、普通は嫌がるものだしね」

「ふ~ん、まぁ、アク姉みたいな魔法職からしたら、嫌な相手になるのか」

「サツキも嫌がってたしね。大振りで倒せるけど、絶え間なく襲い掛かられると、攻撃が間に合わなくなるからってさ」


 サツキさんは大剣を使っているけど、大振りでまとめて倒せるという利点はあるけど、その分攻撃速度と手数が少なくなる。攻撃直後の隙に集まってこられると、攻撃の間合いの内側に入られる事になってしまう。ここを考えれば、サツキさんが嫌がる理由も頷ける。


「あ~、なるほどね。私は双剣か短剣、短刀が基本で攻撃の手数が多いからね。そういうスキル持ちなら良いけど、それ以外だと嫌だってなる感じだね」

「そういう事。私達のパーティーは、カティがサツキの隙を埋められるし、メイティの魔法で防御も出来る。最後に私とアメスで他の隙を埋めれば戦えるから、良いレベル上げになるけどね」

「魔法スキルは、レベルも上がりにくいし、無限湧きは助かるよね」

「まぁね。あっ、もう時間だから行くね。メイティ達に怒られちゃう」

「うん。またね」

「またね」


 アク姉は、私の頭を撫でてからログアウトした。ちょうどログインしてきたと思っていたけど、今までログインしたままだったらしい。


「さてと、いい話も聞けたところで、私も城下町の探索に戻ろっと。エアリー、また手伝ってね」

『はい。お姉様』


 エアリーと一緒に廃城下町エリアの探索に戻る。昼程時間を取れないけど、探索は丁寧に進めていくつもりだ。【心眼開放】で見つけられるものが、クエストのキーになる可能性が高いからだ。

 何か見つかれば良いけど。

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