第262話 怨嗟の血瓶

 街の探索を続けて、何度も吐きながらモンスターの血を飲んでいく。ナイトゾンビからは、既に持っているスキルしか手に入らなかったので、こちらもエアリーの攻撃対象にした。

 そんな中で、ドロップアイテムの確認ウィンドウを見てみると、一つおかしなドロップがあった。基本的には、腐った肉や腐った血、錆び付いた剣などを落としているのだけど、その中で金塊という文字があった。

 アイテムとして取り出すと、本当に金の塊だった。


「おぉ……何とも思わない自分にびっくりした……」


 普通なら大喜びだろうけど、クエストで得た私の金ストックは、まだまだ豊富なので、そこまで魅力的に映らなかった。半分くらいは、換金してギルドエリアの運営費にプールしているけど、武具の修理をする回数が減ったからか、お金はかなり余っていた。


「前までの私からは、想像も付かない変化だろうなぁ」


 お金に困っていた頃からは、大きな変化だった。万年金欠の私から、もう卒業していた。今や、大金持ちの私だ。まぁ、使うものがないから、滅茶苦茶余っているのだけど。


「エアリー、金塊を持ってるゾンビに心当たりある?」

『いえ……風での判断になってしまい申し訳ないのですが、ゾンビ達の所持品に金塊らしき形はありませんでした。服や鎧も形に大きな変化はありません』

「なるほど……それじゃあ、普通のゾンビと区別の付かない形をしたゾンビがいるって感じかな。取り敢えずは、そのまま倒しちゃっていいや。今は、探索を優先したいから」

『分かりました』


 エアリーにモンスターとの戦いを任せて、探索に集中する。すると、一軒のボロボロになった廃屋で、ようやく靄を発見した。すぐに、【心眼開放】で靄を固める。出来たのは、何かしらを模したぬいぐるみだった。


「私の目からだと、キメラのぬいぐるみにしか見えないけど……エアリー、これどう見える?」

『……キメラでしょうか?』

「やっぱり、そう見える?」


 エアリーにもキメラに見えているから、多分キメラで確定だと思う。


「何でキメラ?」

『物好きな方ですね。流行ったのでしょうか?』

「まぁ、こういうキモカワ系が流行った事は結構あるし、そうなんじゃないかな。私も流行り廃りに疎いところあるから、付いて行けない時あるし」

『そうなのですか?』

「うん。あまりこういうのに興味はないしね」


 流行に敏いのは、アカリとかアメスさんだ。アカリは、私に服を着せたいから、ファッション雑誌とかのチェックに余念がないし、アメスさんは服が好きだからだ。

 このぬいぐるみの名前は、ぬいぐるみなので、何のぬいぐるみなのか分からない。クエストも始まらないので、一体何のためにあるのかも分からない。

 取り敢えず、ぬいぐるみは仕舞っておいて、探索を続けていく。すると、南東の広場に着いた。広場の大きさは、小さな公園くらいの感じだ。その中央に靄がある。さらに、靄の下には、マンホールのようなものもあった。


「えっ、下もあるの!?」

『そのようですね。風を下に送る事が出来ます』


 マンホールがある事に驚いていると、そのマンホールの蓋が上空に飛んでいった。


「えっ?」


 そこから、ムキムキのゾンビとヴィリジャーゾンビとナイトゾンビ、そして、弓を持ったゾンビが出て来た。ムキムキのゾンビは、マッスルゾンビという名前で、弓を持っているゾンビはアーチャーゾンビという名前だ。


「マッスルゾンビとアーチャーゾンビは残して、他は倒して」

『はい。【暴嵐刃円】』


 エアリーが竜巻を出して、ゾンビ達を巻き上げながら、斬り刻んでいった。竜巻の中に大量の風の刃が仕込まれているみたい。エアリーは、風を操れるので、上手くマッスルゾンビとアーチャーゾンビを避けて倒していた。かなり器用だ。

 私は、さっきゾンビ達にもやったしならせた刃で、脚を斬り落とす。筋肉が増えていようとも、所詮はゾンビなので、簡単に脚が斬れた。地面に倒れたところで、地面を操作して身体を地面に縛り付ける。そこに、血液もプラスしてから、マッスルゾンビとアーチャーゾンビの吸血を始める。何度も吐きながら、しっかりと血を飲んでゾンビ達を倒していく。

 マッスルゾンビとアーチャーゾンビを含んだゾンビ軍団は、マンホールからどんどんと出て来る。十体ずつ倒して、獲れたスキルが元々持っているスキルなどだけだった事が分かったところで、エアリーに殲滅をお願いする。エアリーは、竜巻をマンホールの上に移動させて、中から出て来るゾンビ達を次々に細切れにしていった。

 その間に、私は広場の探索をする。一応、マンホール以外に、怪しい点はなかった。

 エアリーがマンホールの上に竜巻を移動させてから、二分近くが経っても、エアリーは竜巻を消さなかった。それどころか、もう一度魔法をかけ直した。その理由は、今も湧き続けているゾンビ達にある。私の【索敵】でも、マンホールを上ってきているゾンビ達が途切れてない事が分かる。


「う~ん……無限湧き? だとしたら、色々と面倒くさいな。エアリー、私が蓋する。一度奥に押し込んで」

『分かりました』


 エアリーが、風を上から叩きつけて、ゾンビ達をマンホールの中に押し込んだ。そこに、血を流し込んで、マンホールの蓋代わりにする。さらに、血を流し込んで、マンホールの内側にミキサーみたいな刃を作って、上ってくるゾンビ達をミンチにする。

 その間に、マンホールの上にあった靄を固める。靄を固めて出来たのは、血瓶だった。


「『怨嗟の血瓶』? さっきのぬいぐるみからは、想像も出来ないくらいには、物騒な名前」


 血瓶を拾った私は、迷わずに中身を飲む。さっきまでの腐った血に比べたら、綺麗な水なのではと思うくらいには飲みやすい。

 ただ、これで終わりではなかった。いきなり、周囲の光景が変わった。


「エアリー?」


 さっきまで近くにいたエアリーの姿はないし、足元にあった血液で作ったマンホールの蓋が、最初からあった金属製の蓋に戻っている。さらに、一番の違いは、周囲の建物が壊れていないという事だった。


「過去の映像……【悪魔】を手に入れる時に行った神殿でも見たやつかな」


 遠くから悲鳴が聞こえる。それは、一回だけじゃない。何度も何度も聞こえてきた。加えて、怒声のようなものも聞こえていた。


「ゾンビ化した理由が分かるのかな?」


 悲鳴が聞こえる方へと行こうとすると、広場の終わり辺りで、透明な壁が出来ていて、先に進む事が出来なかった。


「ここから先は見えない。【心眼開放】で視点を増やしても現場までは補完出来ないか。空はどうだろう?」


 【白翼】を生やして、空を飛ぶ。空へは制限を設けていないようで、普通に空に上がる事が出来た。そこで見えたのは、誰かが人々を襲っている光景。ちょっと遠いので、はっきりとは分からないけど、ゾンビのような動きをしているように見える。


「もうゾンビが襲ってる。始まりじゃなくて、中間ら辺の光景かな?」


 今見えている光景を考察していると、目の前が真っ白に染まり、元の光景が戻ってきた。


『お姉様!! 大丈夫ですか!?』


 エアリーの焦ったような声が聞こえる。


「あ、うん。大丈夫。私は、どんな感じだった?」

『心ここにあらずという感じでした』

「羽は生やしてた?」

『いえ、微動だにしなかったので、何かあったのかと心配になりました』

「何か過去の映像を見せられてた。心配掛けてごめんね」


 エアリーの頭を撫でて、安心させる。正直、私も何が起こったのか分からないけど、一つだけ分かった事がある。それは、目の前に出ているウィンドウにあった。


『ストーリークエスト『忘れ去られた街の真実』を開始します』


 この映像を見る事がクエストの開始フラグという事だ。

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