第261話 腐った血
マッピングを終えたけど、まだ時間はあるので、城下町の探索を進める事にする。因みに、この街の中央に街間の転移が出来るポータルがあった。そこに登録したら、ここは忘れ去られた街という名前になっていた。
「それじゃあ、ありがとう、エレク。【送還・エレク】」
全体的な探索を終えたので、門まで戻ってから、エレクにはギルドエリアへ帰って貰った。ここからは、モンスターと戦いつつ家を一軒一軒調べて行く。どこかしらに、【心眼開放】で見つけられるものがあるかもしれないからだ。
ただ、この城下町には家がありすぎるので、いつもしている街探索よりも遙かに結構時間が掛かりそうだ。
「はぁ……頑張ろう」
探索した範囲が分かりやすいように、門がある東側から隈無く調べて行く。一軒一軒虱潰しに調べるので、本当に時間が掛かる。しかも、今にも崩れそうで怖い。まぁ、いざ崩れても、【影武装】の防影があるし、【夜霧の執行者】で夜霧にもなれるから、普通に探索の継続とかは出来るけど。
「生活していた時のものは、全然残ってないなぁ。煤みたいなのが付いているから、多分火事になったのかな。そうなると、書類関係は【心眼開放】で見つけられるものしかなさそう」
これなら一軒一軒の調べる時間は少なくなるかなお思っているところに、背後からモンスターが寄ってきた。速度は遅いから、普通に振り返る。のそのそと歩いてくるのは、ヴィリジャーゾンビという血色の悪い肌をした人達だった。男性女性どちらもいる。
「う~ん、結構柔らかい相手だけど、数が多いんだよね」
【念動】と【大地武装】と【超圧縮】と【射出】を合わせて、周囲の瓦礫を飛ばしていく。ヴィリジャーゾンビ達は、瓦礫に身体を打たれて、どんどんとノックバックしていく。そこに近づいて、月影に纏わせた血液の刃を鞭のようにしならせて、ヴィリジャーゾンビの脚を斬り落とす。地面に倒れたヴィリジャーゾンビ達を土と血液で縛り付ける。
そのまま血を垂れ流しにしつつ、ヴィリジャーゾンビに噛み付いて血を飲む。
「うぉえっ……!!」
直後に吐いた。血が不味いというレベルじゃない。これまで以上に身体の中に入れてはいけないものという感じが凄い。身体が拒絶しているのがよく分かる。
「これまで毒でも下水に浸かっていたスライムでも飲んでいたっていうのに、これで負けていられない!!」
心を奮い立たせて、ヴィリジャーゾンビ達から血を吸っていく。何度も吐きながら、ヴィリジャーゾンビから血を吸っていく。そうして、頑張ってちゃんと血を飲んでヴィリジャーゾンビ達を倒していく。
「うぷっ……」
レインの水を飲んで、吐き気を飲み込む。
「ふぅ……初めて、本気で飲みたくないって思っちゃった。今なら、アク姉の料理も美味しく食べられそう」
胸を擦りながら、手に入れたスキルを確認する。手に入れたのは、【感染】というスキルだった。他には、持っているスキルや統合されているスキルだったので、経験値になった。
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【感染】:攻撃した相手を猛毒状態にして、一定時間後に自身の配下とする事が出来る。
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何か凄いスキルだけど、これをヴィリジャーゾンビ達が持っているとなると、私達プレイヤーも同じような事になる可能性がある。そうなったらどんな感じなのだろう。
「まぁ、これは置いておこう。そして、ヴィリジャーゾンビは、もう倒そう。多分、全部スキル持っていると思うし。てか、そう思いたい」
ここら辺を割り切って、ヴィリジャーゾンビは倒す事に決める。
次々に家の探索をしていると、ヴィリジャーゾンビは、群れを成して襲い掛かってくる。それを【竜王息吹】で燃やし尽くす。もう見るだけで、あの腐臭と腐った味みたいなのを思い出してしまうので、距離を取って倒す事に集中する。だから、【プリセット】を使って、スキルをブレス重視に変える。【大地武装】と【影武装】だけは残しておいて、最近見つけた石の剣を飛ばす戦法や影による防御と近接戦を出来るようにしておく。
「何か、ブレス吐きながら街を歩いていると、私が襲いに来たみたいな感じなりそう。そういえば、この城下町エリアは、あまりプレイヤーを見掛けないかも。エレクに乗ってる時も見なかったし。攻略に来る人達が少ないのかな?」
他のエリアと比べて、プレイヤーの数がかなり少ない。私が上位のエリアに進む事が出来たって考えるのが普通なのかな。それとも、ここに来たいと思えない程の何かがあるのかな。
「てか、邪魔!!」
群がってくるヴィリジャーゾンビ達をブレスで蹴散らす。さっきから、ヴィリジャーゾンビが沢山出て来る。さっき、エレクと一緒に走っていた時よりも遙かに数が多い。【索敵】の範囲に数え切れない程の反応がある。
「向こうの感知範囲が広すぎるのかな。エレクに乗っている時は、速く移動していたから、ここまで群がってくる事はなかったって感じかな。もしかして、これが原因?」
どんどん群がってくるヴィリジャーゾンビを蹴散らしながら探索するので、全然進める事が出来ない。
「【召喚・エアリー】」
『どうしましたか?』
「ちょっと探索に集中出来ないから、私に向かってくるヴィリジャーゾンビだけ倒してくれる?」
『分かりました。お任せ下さい』
エアリーが、微笑みながら頭を下げた直後、近づいてきていたヴィリジャーゾンビ達が細切れになっていった。それだけではなく、離れた位置にいるヴィリジャーゾンビ達の反応も消えていった。しっかりとエアリーが倒してくれている証拠だ。
『……お姉様、剣を持っているモンスターは、攻撃対象でしょうか?』
「ん? 剣は持ってないはずだから、それは違うかも。近くに来たら、拘束をお願い」
『はい。分かりました』
エアリーに頼んで探索を進めていると、私の近くにモンスターがやってくる。そのモンスターは、さっきまでのヴィリジャーゾンビと似た顔色をしていた。でも、大きく違う事が一点ある。それは、片手剣と小さな盾を持ち、そして鎧を着ている事だった。全部ボロボロで錆び付いている。ラストナイトと似たような状態だ。でも、ラストナイトよりも、脆そうな鎧だった。名前は、ナイトゾンビと言うらしい。
『こちらです』
「ありがとう。ふぅ……よし!」
気は進まないけど、新しいモンスターだから、ちゃんと血を吸わないといけない。ヴィリジャーゾンビのスキルから考えると、私の持っているスキルばかりだと思うけど、それでも検証はしないといけない。
ナイトゾンビに噛み付いて、血を飲む。再び猛烈な吐き気に襲われるけど、何とか我慢に我慢を重ねて飲み続ける。多分、傍から見たら、ゾンビのように顔色を悪くしながら、ゾンビに噛み付いている女性って感じになるのかな。何となく見られたくはない状況だ。こういう時は、さっさと吸う事に限る。
死にかける程我慢して倒した結果、手に入れたスキルは、【感染】だった。
「おぅ……マジか……」
我慢した結果が持っているスキルだったので、かなり落ち込む。でも、まだ全部持っているとは限らないので、検証は何度か重ねておかないといけない。
「エアリー、悪いんだけど、しばらくナイトゾンビは拘束で」
『はい。分かりました。でも、大丈夫ですか?』
「大丈夫……ではないけど、こればかりは我慢だね。レインの水を飲んでるし、果物で口直しするから」
『ご無理はなさらないで下さいね』
「うん。心配してくれてありがとう」
エアリーの頭を撫でてあげてから、探索を再開する。
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