第260話 廃城下町エリア
畑の方では、レインが水撒きをしていた。ソイルも離れた場所の土を耕して、肥料と混ぜていた。そして、畑の中には見覚えのない作物が沢山育っている。
「おぉ……相変わらず、色とりどりだね。私が耕した頃から倍近く広がってるし」
『アカリさんが、自由に広げて良いって言ったら、ソイルが張り切っちゃった』
「なるほどね」
畑を広げる事で、アカリや私達に不利益はない。寧ろ、アカリにとっては、利益しかないだろう。新しい素材で、新しい生産が出来るようになるからだ。そのおかげで、アク姉達の冒険も楽になっているって聞くし、アカリも楽しそうだし、良い事ずくめだ。
「私もアカリの作った薬貰っていこうかな。そろそろ耐性スキルのレベル上げもしたいし。そういえば、何もしないで血を出せるようになったから、もう【出血耐性】も付けて良いのか。【魅了耐性】も取っておこうかな。どんな状態になるのか気になってたけど、一向にならないし」
ここで、二つの耐性も収得しておく。そこまで大きな恩恵があるわけじゃないけど、ないよりマシだ。ちょっとどんな状態になるのか気になるから、もう少し先でも良いかなとも思ったけど。
畑の様子を見終えたので、スノウ達の厩舎に向かう。
「スノウ、エレク」
呼び掛けると、二人ともすぐに駆け寄ってきた。厳密には、スノウは飛んで来たって方が正しいけど。
頭を擦りつけてくる二人を撫でてあげる。
「今日は、エレクに活躍して貰う予定だから、よろしくね」
『ブルルッ』
エレクは鼻息荒くして意気込んでいた。今日は、廃城下町エリアを進むつもりなので、エレクに乗って探索するつもりだった。見た感じ、エレクでも通れそうな道も多かったからだ。
二人の様子を見終えた私は、発電所の方に向かう。雷が降り注ぐ地帯だけど、そこまで音は聞こえない。ここら辺は、ゲーム内の配慮で落雷のエリアに入るまでは、その音が聞こえないようになっているみたい。そうじゃないと、ずっと落雷の音がうるさいって状態になるからね。
「ラ~イ!」
ここにいるはずのライに呼び掛けると、落雷が止んだ。ライが雲の中で雷を止めているのだと思う。
発電所の方からライが飛んで来た。
「ライ、調子はどう?」
『……』こくり
「ここうるさくない?」
『……』ふりふり
「そっか。まぁ、ライなら雷を止められるしね」
『……』こくり
相変わらず無口な子だけど、ちゃんとこっちに伝わるように意思表示してくれるから、会話に困った事はない。そんなライの頭を撫でてあげてから、発電所を離れる。
後は、エアリーの様子だけなのだけど、エアリーは、ギルドエリアの中を自由に動き回っているから、住んでいる特定の場所が存在しない。だから、様子を見られるかどうかは、その日のエアリーの動きによる。
「今日は無理そうかな」
『何かありましたか?』
諦めかけていたところに、後ろからエアリーが降りてきた。
「ううん。何もないよ。エアリーに会えるかなってだけだったから」
『呼んで頂ければ、すぐに参りましたのに』
「あまりこっちの都合で拘束するのは駄目でしょ。少なくとも、私はそう思うから。エアリーの顔を見られて良かった」
エアリーの頭を撫でてあげると、ちょっと照れていた。
「それじゃあ、私は行くね」
『はい。いってらっしゃいませ』
ギルドエリアから転移して、バレータウンに来た私は、空を飛んで山脈を越える。途中でレッサーワイバーンに襲われるけど、隠密双刀と【竜王息吹】で蹴散らしていった。
「ふぅ……やっぱり数が多いのは面倒くさいね」
ボスエリアの前に来た私は、ラストナイトに挑まず、そのまま廃城下町エリアに転移する。
「やっぱり、ここは結構広いなぁ。起伏がないから、そういう風に見えるだけで、荒れ地エリアも同じくらいには広かったのかな。まぁ、建物がある分、調べる場所は、こっちの方が多そうだけど」
念のため、周囲を見回す。やっぱり、このエリア内には城下町しかなさそうだ。
「【召喚・エレク】」
さっきエレクに話した通り、エレクを召喚する。
『ヒヒーン!』
エレクが嘶く。首を撫でてから、背中に乗る。
「それじゃあ、行こう」
エレクを城下町へと走らす。城下町は、高い壁に囲われていて、入口は一箇所しか見当たらない。大きな門が、その入口みたいだけど、門自体が壊れているので、いつでも入れる。
「う~ん……中を探索する前に、城下町の周りを見てみようか」
城下町を囲う壁沿いを走っていく。門は壊れているけど、壁は崩れていない。モンスターいるくらいだし、突然襲われても大丈夫なように、壁は特別製になっているのかもしれない。
そのまま走っていくと、また別の壁が正面に見えてきた。その壁は、城下町を囲う壁よりも高い。そのまま、その壁に沿って走っていく。すると、今度は森が現れた。
「森か……そこまで深くなさそうだけど、一応入ってみようか」
『ブルルッ』
エレクに森に入ってもらうと、少し違和感を覚えた。何だか進めているようで進めていない感じがしたからだ。
「ここがエリア限界か。マップでも、ここまでになってるし、森の中は探索しないでも大丈夫かな。エレク、最初の門に戻って、反対側に行ってくれる?」
エレクは頷いてから、入口となる門に向かい、反対側へと駆けていく。そのまま反対側の探索もしたけど、特に何もなかった。一つ分かったのは、左右対称になっている事くらいだ。壁も壊れている場所はなかった。森を調べなくても良いと判断して、門の方に戻る。
「さてと、後は門から中に入るだけだ。城下町の中には、モンスターがいるから、気を付けて行こうか」
『ブルルッ』
ここで【眷属創造】を使って蝙蝠を五匹出す。吸血蝙蝠の牙を使って強化した大蝙蝠も二匹出す。
「犬は……良いか。取り敢えず、マッピングを優先しよう。よし、良いよ」
『ヒヒーン!』
エレクが嘶いて、城下町を走り出す。廃城下町エリアという名前もあり、廃屋が多い。完全に崩れているものもあるから、自然と滅んだというよりも何かに滅ぼされたような感じがする。
「戦争でもしたのかな。モンスターもゾンビみたいなのが多いし」
ここまで何度もモンスターと遭遇しているけど、エレクの速度に追いつけないので、全て振り切っている。その際、【心眼開放】で周囲の動きを遅くして、モンスターの姿を確認していた。
【心眼開放】の力だけど、これは【未来視】程ではないけど頭痛がする。【第六感】に慣れていたせいで、最初は顔を顰めていたけど、今はそんなでもない。【双天眼】で鍛えられた認識能力のおかげもあるのかな。
「割と小道が多い。さすがに、小道にエレクは狭すぎるか。高台から見た時は、大通りにしか目がいかなかったからなぁ。こればかりは仕方ない」
大通りをエレクに走って貰い、周囲の様子を確認しながら、細かいところを蝙蝠達に埋めて貰う。そうして、一時間程で城下町の九割くらいのマッピングを終えた。マッピング出来ていない部分は、小道の奥だったりする場所なので、今度自分で調べに向かう事にする。
このマッピングで、城下町の構造が大体分かった。北と南に大きな建物があって、四隅には小さな広場がある。西には橋に繋がった広場があって、その広場の奥に門が見えた。そして、その橋の前がボスエリアへの転移場所だった。ボス戦は、その広場の可能性が高い。
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