第206話 されど黄金は地下に眠る

 神殿を出た私は、【悪魔翼】を使ってみる。背中に意識を向けて、羽が出るように考えると、蝙蝠のような皮膜の張った羽が出て来た。ただ、少し透けているので、魔力で出来ているという事は分かる。


「これで飛べるようになった……のかな?」


 どうやって飛べば良いのか分からない。だから、羽ばたいても何も変わらないから、今度は飛ぶ事を意識する。すると、身体が浮き始め、空に飛び出す。


「うわっ……! ちょっと難しいな」


 飛び方は、どの方向に飛ぶかを意識する事だった。だから、宙返りを意識すると、しっかりと宙返りをする。MPの消費は、結構激しい。減少速度から考えると、MPが最大の場合でも、二分くらいしか飛ぶ事は出来ない。ただ、他のプレイヤーが空を飛べない事を考えると、二分でも十分だと思う。


「えっと……どこにあるのかな?」


 このまま飛べば、入ってきた入口から飛び出す事は出来ると思うけど、他のプレイヤーも抜け出せる場所が絶対にあるはず。入口から正反対側が怪しいので、そちらに飛んでいった。


「ん? 分かりにくいけど、穴がある。この穴が出口?」


 取り敢えず、穴の中を入っていく。すると、地面に魔法陣が描かれた部屋に出た。これが、外に出る道と捉えて良さそうだ。


「上に戻る方法は分かった。後は、黄金を見つけよう」


 地下に眠るという事から、この都市の付近にあると考えられる。未だに、『されど黄金は地下に眠る』は、クリアされていない。この事から、コインが黄金となる訳では無いと判断した。

 もう一度街の方に戻って、空を飛ぶ。高いところから怪しい場所を探すけど、特に何も見たらない。限界ギリギリまで上から見下ろして、一度地面に戻る。

 【悪魔翼】のクールタイムは、一分半程なので、それまで飛ぶ事は出来ない。


「さすがに、分かりやすくなってるわけないか。家にはなかった。神殿も怪しい部分は全部探した。後は、街の周辺にある岩壁かな。それか……」


 私の視線は上に向く。そこには、この地下を照らす黄色い結晶がある。見ようによっては、あれも黄金に見えなくもない。最後は、あそこを調べるとして、今は他の可能性を潰す。壁に手を触れながら走る。スキルの【触覚強化】と【温感強化】で、何か小さな違和感を探し出す。一周走ったけど、特に何もなかった。

 そして、空を飛び、天井の結晶を見に行った。近くに来たら、より明るさを実感する。


「黄金……ではないか。何か宝箱みたいなのはないのかな」


 結晶の周囲を飛んで、それらしきものがないか探したけど、こちらでも何もなかった。


「どこにも何もない……神殿にまだ隠された場所があるとか? いや、もう一箇所あった」


 無意識に候補から外していた。ただ安全に降りられるだけの場所と考えていたからだ。


「あの水……そういえば、かなり深かった。落ちた時も底には着いてなかったし。問題は、私の息が続くか……【水氷操作】か【操風】で空気の道を作る……いや、血を飲めば、窒息ダメージは、無視出来る。熱帯で、実証済みだし」


 上から落ちてくるプレイヤーが、空気の通り道に引っ掛かって、落ちてこられても困るしね。普通に潜って移動する事にした。幸い【武芸千般】には、【潜水】も内包されている。少しはマシになるはず。

 空を飛んで、水の元までやって来た。


「ふぅ……すぅー……」


 思いっきり息を吸ってから、水の中に飛び込む。スキルのおかげで、視界は保てている。そのままどんどんと水の中を潜っていく。私が落ちた時に沈んだ位置よりも、さらに深くまで進んできた。

 まだ息は保つ。苦しさは全然ない。岩が多いから、端の方に沈んだら危なかった。水圧で身体がやられるという事もないので、このまま沈み続ける。底まで着くと、横に穴が空いていて、どこかに繋がっているようだった。

 そのまま横穴を進んでいく。横穴の先に水面が見えてくる。


「ぷはっ……」


 抜けた先は、小さな部屋だった。かなり狭いし黄金すらないので、ハズレかと思っていると、壁の一部に青い靄が掛かっている事に気付いた。


「まぁ、大丈夫だよね」


 これまでの事を考えると、何が起こるか分からないから、慎重になった方が良いかと思ったけど、手掛かりなんてないので、このまま進む事にした。

 靄を固めようとすると、何かが現れるのではなく、壁が消え去った。


「おぉ……隠し部屋かな? モンスターはいなさそうだし、このまま進もう」


 壁に空いた穴の中を進んでいく。穴の向こうには、光が見えているので、通路は短い。すぐに通路を抜ける事が出来た。


「うわぁ……」


 抜けた先の光景に、それしか言葉が出なかった。そこにあったのは、積み重なった黄金の数々。視界を埋め尽くされているので、奥にあるものなんて全く見えない。

 唖然としていると、目の前にウィンドウが現れた。


『ストーリークエスト『されど黄金は地下に眠る』をクリアしました』


 クエストクリアの表示が出たので、これが眠っていた黄金だという事が確定した。

 ウィンドウを消した直後、地面に視線がいった。そこには、一枚の紙が落ちていた。古そうな紙で崩れるかもしれないので、慎重に持ち上げる。


『我の財宝を、ここに隠す。我は、砂漠最後の王。あらゆる死者の主なり』


 絶妙に意味分からない事が書いてあった。


「砂漠の王なのか、死者の主なのか分からないんだけど……まぁ、いいや。これが、眠りについていた黄金。確かに、いつものコインも異常なまでにあるし」


 色々なところで見つけたコインが、ここにも大量にあった。しかも、多分数万単位である気がする。


「……回収に時間が掛かりそう。はぁ……頑張るか」


 急いで財宝を回収していく。まとめて入れる機能があれば良いのだけど、それもないので、ちまちまと回収していった。その中で、急に何かの棺があった。黄金に埋もれていて、全く分からなかった。


「これが、死者の主って事に関係するのかな?」


 何となく蓋を開けようとしたけど、全く動かなかった。無理矢理では開きそうにないかな。


「仕方ない。これも回収しておいて、ギルドエリアでどうにかしよう」


 棺の方は、後に回して回収を進める。その中で、三つくらい棺を見つけた。そのどれも蓋を開ける事が出来なかったので、回収だけしておいた。

 一時間程掛けて、部屋内の黄金の回収を済ませる事が出来た。


「ふぅ……何か変わったものはないかな?」


 黄金の回収を終えて、広くなった部屋の中で何かがないかと探して回る。一応、回収をした時にも確認はしておいたけど、改めて見て回る。


「何も無し。怪しいのは、棺だけだったかな。アカリがいる時に開けて貰おう」


 アカリが一番器用なので、棺を開ける事も出来るだろうと判断し、同じルートで戻る。そして、先程見つけた魔法陣に乗る。すると、砂漠のど真ん中に転移した。


「ふぅ……濃い二日間だった……」


 割と本当に大変だった。ここで、【雷足】の恩恵をよく理解する事が出来た。あの速度がなかったら、明日まで掛かっていただろうし。まぁ、予定よりも長くログインしているけど。


「んんっ……よし! 寝よ」


 砂漠のど真ん中でログアウトして、今日は眠りについた。二つのクエストをクリアしたけど、まだ謎が残っていたり、新しいクエストが始まったりと、また色々とやることが増えた。

 まぁ、やる事が沢山あるのは良いことだしね。また明日から頑張って行こう。

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