第207話 黄金の棺の中身

 翌日。また早めにログインして、ギルドエリアの中に来ていた。ログインした時に、アカリを呼んでおいたので、そのうち来ると思う。砂漠からの移動時間もあったから、そこまで待つことはなかった。


「おはよう、ハクちゃん」

「おはよう。アカリに見て欲しいものがあるんだけど」

「何々?」


 わくわくしているアカリの前に、四つの棺を置いた。四つ目を置いた時には、アカリの表情も強張っていた。


「何これ?」

「見ての通り棺。クエストで手に入れたやつ。換金出来そうなものもいっぱい手に入ったけど、異質なものは、これくらいかな」

「えぇ~……これどうするの?」

「開けて」


 出来る限り可愛らしい所作をしながら、アカリに頼む。絶対アカリも気が進まないだろうから、この媚びで何とか開けて貰えないかな。


「う~ん……出来るか分からないよ?」

「最悪、フレ姉に力ずくで開けて貰う」

「まぁ、それが丸いかもね」


 アカリはそう言いながら、棺の蓋に手を掛けて、動かないかどうかを確認していた。


「本当だ。普通には開きそうにないね。それじゃあ」


 そう言ってアカリが取り出したのは、ノミと木槌だった。生産系の何かで使うのかな。


「ここら辺かな」


 棺の蓋と本体の継ぎ目らしき場所にノミを当てて、木槌で叩き始める。それで本当に開くのか心配だったけど、何度か打ち付けていると、ノミの先端が入っていった。


「おぉ……」

「よっ……ほっ……」


 地道に開けようとしてくれているけど、蓋は少しずつしか動かない。そこに何をしているのか気になったのかレインがやってきた。


『お姉さん、アカリさん、おはよう。何してるの?』

「おはよう、レイン。この棺を開けて貰おうと思ってね。アカリに頑張って貰っているところ」

「おはよう、レインちゃん。一応、隙間は出来たんだけど、全然動かないんだよね……そうだ! レインちゃんの水なら、この隙間から動かせないかな?」

『やってみる』


 アカリの開けた隙間に、レインが水を入れていく。


『いけそう』


 レインがそう言ったので、私とアカリは少し離れる。どういう風に開くか分からないし、レインが思いっきりやれるようにしてあげた方が良いと思ったからだ。多分、アカリもそう。


『よいしょ!』


 棺の蓋が、少し浮いた。隙間に氷柱が出来ているので、それで開けた事が分かる。


「今思ったけど、これって全部金?」

「そうなんじゃない?」

「そりゃ重いよ……」


 確かに、金で出来ているって事は、それなりの重さになっているはず。蓋が開かないのも頷ける。レインは、少しずつ蓋を開いてくれる。それを見て、アカリが他の棺にも無理矢理隙間を作っていく。レインなら開けられるって分かったからだね。

 その中で、レインも蓋を開けた。重々しい音と共に蓋が地面に落ちる。


『開いたよ』

「ありがとう、レイン」


 レインにお礼を言いながら、棺の中を見る。中身はミイラと全てが金で出来ていた短杖が一本あるだけだった。まずは、短杖を取る。


「えっと、砂漠王家の杖だって」


────────────────────


砂漠王家の杖:全てが金で出来た短杖。かつて、あらゆる場所から金を調達した王が作り出したもの。特別な何かがあるわけではない。


────────────────────


「何かありがちなものだね。ミイラの方は?」

「えっ……これも調べるの?」

「何か隠されているかもよ?」


 そう言われると調べないといけない気がしてくる。ミイラを持ち上げて、棺から取り出す。取り敢えず、棺の内側から調べる。


「特に変わったところはなし。ミイラの方は……包帯が摘まめないようになってるから、調べられないかな」

「包帯に変わった点は?」

「う~ん、変な模様が描かれているくらい?」

「模様?」


 棺に隙間を作っていたアカリが、私の方に来てミイラを覗く。


「本当だ。不思議な模様だね。防腐作用とかがあるのかな?」

「あぁ、それもあるのか。でも、これが置いてあった場所に『我の財宝を、ここに隠す。我は、砂漠最後の王。あらゆる死者の主なり』って書いてあったんだよね。何か関係ありそうじゃない?」

「へぇ~、死者の主……そういえば、【死霊術】ってスキルなかったっけ?」

「あるね。本に書いてあるだけだったけど。関係していると思う?」


 これにアカリは頷いて答えた。確かに、【死霊術】が関係していそうとは思った。でも、これを見つけてもスキルが手に入る事はなかったので、もう関係ないかなとも思っていた。


「これを解読出来たら、貰えるとか?」

「どうだろうね。私は、四つ全部の中身を見たら分かるって考えたけど」

「まぁ、それもそうか。なら、じゃんじゃん中身を見ていこう」


 レインが開けてくれる棺の中身を次々に見ていく。中身は、大盾、片手剣、天秤の三つとミイラだった。天秤などは、全部金で出来ている。

 全部最初に砂漠王家のって文字が付いている。天秤はアイテム扱いらしい。次にミイラの方を調べてみたけど、同じ模様の包帯をしているだけだった。


「何もなし?」

「その天秤は?」


────────────────────


砂漠王家の天秤:砂漠に伝わる神話に出て来る天秤を模したもの。神話では、罪人の罪を量るものとして使われていたが、現実には飾りとしてか使われていない。全てが金で出来ている。


────────────────────


「う~ん……【死霊術】には関係して無さそう」

「でしょ? ただフレーバー用かな?」

『お姉さん!』


 レインの声と共に【索敵】にモンスターの反応がする。ギルドエリア内ではあり得ない事のはずだ。モンスターは、さっき棺から取り出したミイラ達だ。私とアカリが武器を取り出す必要はなかった。

 レインが水で斬り裂き、スノウが凍り付かせ、エレクが稲妻で貫いた。


「ありがとう、皆」

『ガァ!!』

『うん!』

『ヒヒーン!』


 皆のおかげで、私とアカリは何もせずに済んだし、全員無事だった。


「何で急に動き出したんだろう?」

「四体揃ったからかな。それか取り出してから時間が経ったからかな? っと、ドロップが手に入った」


 ミイラ達がポリゴンに変わって、ドロップアイテムが私の元に来る。


「傀儡の包帯だって。全部で四つ手に入った……のと、【死霊術】の条件をクリアした。これが必要だったみたい」

「へぇ~、私にも頂戴」

「ん。はい」


 アカリに傀儡の包帯を渡す。


「あっ、私も解放された。条件は、この傀儡の包帯を手に入れる事だったみたいだね。クエストクリアしないといけないっていうのが、一番難しい条件だよね」

「見つけるところがね。でも、【霊視】を持っている事も条件になるだろうから、収得は本当に難しいだろうね」


 条件は傀儡の包帯だけど、手に入れるまでが難しそう。オアシスでコインを見つけないといけないし、そこからあの地下都市にもいかないといけない。さらに、あの水路を潜っていく事を考えると、収得の難易度は高いだろうと思う。


「それにしても、この【死霊術】って、結構使い勝手が難しいスキルみたいだね」


 アカリにそう言われて、【死霊術】の説明を見る。


────────────────────


【死霊術】:最後に倒したモンスターを傀儡として喚び出す事が出来る。喚び出したモンスターは、自動で敵に向かって攻撃する。


────────────────────


「確かに、最後に倒したモンスターを覚えてないと使いにくいかもね。私も取るかどうかは微妙かな」

「ハクちゃんは、スキルの数が多いもんね」

「まぁね。【始祖の吸血鬼】になって、スキルも手に入りやすくなったから、色々と大変だよ。アカリも生産系スキルが多くなってレベル上げ大変でしょ?」

「そこそこね。まぁ、この話はこれくらいにして、これはどうする?」


 アカリが空になった棺を見る。


「う~ん……せっかくの金だし使う?」

「良いの? 意外と金の数が少ないから、私としては有り難いけど」

「良いよ。異常な量があるし、全部換金するのは、生産職がいるのに勿体ないでしょ」

「じゃあ、有り難く使わせて貰うね。」


 アカリが使う分の金を共有ストレージに入れておく事にする。多分、アカリでも使い切れないくらいの量があると思うし、全然大丈夫なはず。


「それじゃあ、私は砂漠の攻略に行ってくるね」

「うん。いってらっしゃい」


 アカリのおかげで、棺の中身を暴く事が出来て、【死霊術】の条件をクリアする事が出来た。これは、今度アク姉達に共有するとして、今は砂漠の攻略を進める事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る