第205話 悪魔召喚?

 息が出来ない。そう思っていたけど、普通に呼吸が出来た。さっきまで身体を掴んでいたような感覚は、少しだけ緩んだ。何とかその場で姿勢を変えるくらいの事は出来る。移動が出来ないから、逃げる事は出来ないけど。まぁ、そもそもこれだけ液体で満たされていたら、あの扉が開くとは思えないけど。

 視界も保てているので、液体の中に黒い炎が残っているのも分かる。何で消えないのかという疑問は、ひとまず置いておく。そんな事を気にしていても意味がないと思ったからだ。

 ここからは、何が起きても受け身でいるしかない。そう思っていた私の耳に、何かが聞こえてきた。


『○△✕※●△□◇』

『●△□※✕』

『△●○×△△』

『✕✕●●◇※』


 何を言っているのか、全く聞き取る事が出来ない。声の主すらも私には見えない。何となく気配で分かるくらいだ。


『○△●○△※※※』

『△△●○※』

『※※※※※』

『●○●○※』

『※●○』

『※※』


 全く分からない。でも、敵意はないと思うし、モンスター扱いでもないはず。【索敵】が反応しないのが、証拠になる。

 何が起こっているのか分からず、ただただ黒い液体の中で漂っている感じだ。そんな中で、急に黄色い目が沢山現れた。目は、私をジッと見ているだけで何も動かない。一分くらい私を見てから、目が消えていった。

 イベントの終わりかなって思ったら、液体が急に鼻の方から入ってきた。突然の事に驚いて口を開いたら、そこからも液体が入り込んでくる。【暴食】と【暴飲】のおかげなのか、黒い液体の性質なのか分からないけど、苦しさはない。でも、無理矢理飲まされているから、不快感が凄い。

 部屋いっぱいにあった黒い液体が全部私の中に入った。


「おえっ……」


 身体が自由になって、台の上に落ちる。

 こんな事が起こっても、冥界の炎は、まだ燃えていた。イベントは、まだ続いているらしい。冥界の炎は、少しずつ小さくなっていって、元の大きさに戻ると、私に向かって飛んできた。アイテムに戻ったと思って手を伸ばしたら、冥界の炎は、するりと手を抜けて胸に入り込んだ。炎上するかと思ったけど、何も起こらない。そう思っていると、目の前にウィンドウが現れた。


『条件を達成したため、【悪魔】が収得可能になりました』


「おぉ……」


 ある程度予想は出来ていたけど、実際に収得可能になると驚いてしまう。


「あの目が悪魔? 話していたのは……私が悪魔に相応しいかどうか? いや、それはどうなんだろう? ここで起こった事は、悪魔召喚のはず。ううん。違う。そうとは限らない。映画とか漫画とかでも、悪魔を召喚しようとして、本当は憑依だったとか悪魔化だったとか、別のものだったっていうのがあった気がするし」


 確定した情報がない以上、ここで行われていた事が、本当は何だったのかは分からない。


「取り敢えず、【悪魔】は収得しよう」


 取らないという選択肢はなかった。いつか取れる日が来たら、積極的に取ろうと思っていたし。


────────────────────────


ハク:【武芸千般Lv17】【双刀Lv23】【双剣Lv94】【刀Lv12】【吸血牙Lv33】【武闘術Lv62】【始祖の吸血鬼Lv30】【血液武装Lv80】【影装術Lv24】【大地操作Lv25】【水氷操作Lv30】【眷属(大蝙蝠)Lv32】【空力Lv40】【天眼Lv31】【索敵Lv25】

控え:【三叉槍Lv2】【氷爪Lv8】【棘拳Lv3】【闘気Lv2】【魔法才能Lv52】【水魔法才能Lv23】【支援魔法才能Lv45】【増血促進Lv33】【血液収納Lv13】【血液感知Lv42】【炎装術Lv12】【水氷装術Lv20】【操風Lv28】【雷装術Lv18】【防影Lv30】【HP強化Lv98】【MP強化Lv72】【神腕Lv38】【物理防御強化Lv75】【魔法防御強化Lv55】【神脚Lv85】【器用さ強化Lv79】【運強化Lv94】【身体能力強化Lv55】【視覚強化Lv88】【遠見Lv18】【聴覚強化Lv100】【遠耳Lv15】【嗅覚強化Lv15】【犬嗅覚Lv23】【味覚強化Lv18】【食感強化Lv18】【触覚強化Lv14】【温感強化Lv14】【顎強化Lv57】【執行者Lv99】【堅牢Lv16】【棘鎧Lv3】【神速Lv40】【雷足Lv21】【三次元機動Lv3】【予測Lv23】【毒耐性Lv51】【麻痺耐性Lv31】【呪い耐性Lv1】【沈黙耐性Lv4】【暗闇耐性Lv1】【怒り耐性Lv8】【眠り耐性Lv1】【混乱耐性Lv51】【気絶耐性Lv5】【鋭牙Lv26】【犬牙Lv16】【射出Lv3】【突撃Lv32】【水鉄砲Lv10】【吸水Lv2】【氷息吹Lv6】【竜王血Lv40】【竜鱗Lv20】【毒牙Lv21】【毒生成Lv20】【腐食Lv21】【暴食Lv63】【暴飲Lv38】【血狂いLv2】【狂気Lv22】【蓄積Lv43】【圧縮Lv4】【超音波Lv36】【怨念Lv49】【夜霧化Lv21】【魔気Lv40】【悪魔Lv1】【悪魔翼Lv1】【聖人Lv42】【聖血Lv48】【第六感Lv50】【竜騎Lv1】【農作Lv40】【畜産Lv1】【木こりLv1】【調教Lv56】【統率Lv13】【霊峰霊視Lv21】【言語学Lv65】【古代言語学Lv17】【現代言語学Lv10】

SP:745


────────────────────────


 【悪魔】を収得したら、【悪魔翼】というスキルも収得出来るようになった。こっちも取っておく。


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【悪魔】:悪魔の序列に加わる。闇に属する力を大きく強化する。闇属性に対して、大きな耐性を得る。全ステータスを大きく上昇させる。控えでも効果を発揮する。


【悪魔翼】:魔力によって出来た悪魔の羽を生やす事が出来る。羽の展開時のみMPを消費して飛ぶ事が出来る。控えでも効果を発揮する


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 序列に加わるという部分がよく分からないけど、闇に属する力を大きく強化するというのは、何となく分かる。ただ、一つだけ気になる事がある。闇に属するという部分で、【始祖の吸血鬼】も影響してくるかどうかという事。闇の因子が闇に属する力に数えられると考えれば、【始祖の吸血鬼】も範囲内に入る。


「これは、後で検証していこう。取り敢えず、【魔気】は消えていないから、これの進化ではない。【悪魔】は別枠なんだ。という事は、【天使】も別枠のはず。守護天使の羽根……恐らく、ここと同じような施設で使えば、【天使】が手に入る。同時に手に入れて平気なのかって点だけが心配だけど」


 取り敢えず、【悪魔】を収得してから時間が経っているけど、身体に大きな変化はない。一つ変わった点は、さっきまでの肩に重りが乗っかるような嫌な感じがなくなった事だ。


「【悪魔】で闇の因子が濃くなったかな。まぁ、デメリットがないのならいいや」


 HPが減るという事もないので、神殿の探索を再開する。まずは、一番奥の扉から調べる。奥にあったのは、少し広めの部屋。左右に扉があり、奥には机と本棚が置かれていた。でも、本棚に本はなく、机の上にも物はなかった。

 でも、【霊峰霊視】により、青い靄は見えた。それを固めると、一枚の紙になった。


『悪魔召喚は、人を生贄に捧げる事によって作り出す事が出来る冥界の炎を使用する事で成し遂げられる。しかし、生贄の数は判明していない。一説には、生贄の数によって、喚び出す事の出来る悪魔の階位が決まると言う。だが、これまで千単位で生贄を捧げているというのに、一向に冥界の炎が完成する様子はない。我々が生存している間に、完成するかも分からない。仕方ない。術士無しでも、儀式は続くようにしよう。生贄となる者の選別もしなくて良いだろう。ここの住人達とここに訪れる者が生贄だ。逐次生贄を寄越し、悪魔を召喚する。全ては、邪神の再来の為に』


 悪魔召喚の目的が分かった。それに、色々と繋がった事もある。恐らく、本当の目的は財宝などではない。ここに犯罪者を送り、生贄にする事が目的だったのだ。ファーストタウンを治めていた人も、この人達の仲間だったのだろう。


「でも、邪神は出てこなかった。冥界の炎を使った悪魔の召喚が、キーになっているわけじゃない? まぁ、出てこない方が有り難いから良いけど、私が邪神ってオチはないよね」


 あの儀式で【悪魔】を手に入れた事で、私が邪神になるルートが出来たとかだったら、あまり笑い事ではない。下手したら、ラスボスになるようなものだし。


「本来は、ここを調べた後で、さっきの映像を見るんだったのかな。まぁ、いいや。他の通路を調べてから、上に戻る方法を探そっと」


 探索をしていない箇所は、左右の通路だけだった。通路は、最初の玄関と奥の部屋を繋ぐもの。通路の途中には、部屋に入るための扉が付いていた。それ以外は、何もなかった。【霊峰霊視】にも、何も反応しない。

 取り敢えず、『隠された闇と財宝』は、これで完全にクリアしたとみて良いだろう。


「あっ! ペン!」


 クエストクリアで喜ぼうとしたところで、自分が見つけたものを思い出した。それは、地下道で見つけたペンだ。そこに彫られている文字を読んでいなかった。


「えっと……『邪聖教司祭』?」


 文字を読んだのと同時に、ウィンドウが出て来る。


『ストーリークエスト『邪聖教の謎』を開始します』


 『隠された闇と財宝』関係ではなく、別のクエストが始まった。


「えぇ~……」


 ようやくクリア出来たのにという気持ちを抱きながら、ウィンドウを閉じて、ペンを仕舞った私は、神殿を出た。

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