第204話 底に建てられた神殿
夜にログインした私は、すり鉢状の街の底に建てられた大きな建物の前に来ていた。大きな円形の建物で、太い柱とかがあって、神殿的のような印象を受ける。
「何か、変な感じ。何だろう? さっきまでは何も感じなかったのになぁ」
何だか、肩や身体に重りを乗せられているような感覚だ。ここまでの探索では感じなかったものだ。ただ、割と馴染みのある気もする。
「何かに似ている気が……あっ、昼間の感覚か」
馴染みがある理由が、【吸血】の時から【真祖】の時まで味わっていた昼間の倦怠感に似ている事に気が付いた。【始祖の吸血鬼】になってから、無縁になっていて、気付くのが遅れた。
「ステータスダウンの何かがあるのか……あの失敗の紙……何か良くないものが溜まってるとかなのかな? 闇の因子を持ってるし、そこまで深刻にならないとかないかな……」
良くないものが溜まっているのであれば、それは闇に近いものと考えられる。そうしたら、闇の因子を持っている私には、そこまで大きな影響はないはず。そう信じて、建物の中に入る。
「綺麗だなぁ……そういえば、この建物だけ壊れてなかったかも。頑丈に作られた……いや、そもそも壊れないような何かをされているとか? そっちだったら、面白いかも」
神殿の中は、綺麗な装飾で彩られていて、本当に綺麗だった。ただ、他の建物と違って、一切傷がない。保護されているという風に考えた方が納得出来るような状態だ。寧ろそっちの方が面白いと思う。
最初にあったのは、玄関みたいな場所で、目の前と横二箇所の計三箇所に扉があった。
「横の二箇所は、通路に繋がってるとかかな。円形の形だから、一周出来るようにされているかもだし。となると、一番怪しいのは、やっぱり目の前の扉だよね。何か手掛かりがありますように」
祈りながら扉を開けると、円形の部屋に出た。下に向かって作られた段差が四段くらいあって、それが円形状になっている。その中央には二十メートルくらいの円形の台がある。それ以外にも、全てのものが円形になっている。
「何だろう……何かに気付いてない気がする……あっ、全部が対称的になってるんだ。左右前後上下が全部対称的……」
左右前後にも、同じような段差と円形の台がある。そして、上下にはないけど、他の方向には同じ扉があった。普通に考えれば、どこからでも入れるようにしたとかって考えるけど、それは違う気がする。
「そういえば、ここには灯りがない。スキルの効果で見えるだけで、本来は真っ暗なんだ。どこかに、燭台……それもない。暗闇の中で、一体何を……」
警戒しながら、中央の台に向かって歩いていく。すると、急に周囲からいつもの青い靄が中央に集まっていくのが見えた。こんな状況は初めてだ。靄は、台の中央に集まって一つの靄になった。
「…………」
このまま進んでも大丈夫かと不安になる。でも、ここで行かないと何も進まない。覚悟を決めて、台に上がる。ジッと見て、固めようとしたけど、靄は私に向かって飛んできた。
「!?」
反射的に両手で顔の正面を守るけど、身体が靄に包まれてしまった。【防影】は発動しないから、攻撃ではないと思うけど、何が起こっているのかは分からない。靄が晴れた時、周囲の様子は豹変していた。黒い布を被って、祈りを捧げている集団が四段の上にいた。そして、上下左右前後の台に魔法陣のようなものが浮かび上がっていた。魔法陣は、不気味な赤黒い色をしていた。
「何これ……?」
急な事に理解が追いつかない。周囲を見回して、何か手掛かりがないか探す。
「何も無い」
台を降りて、黒い布の人に近づいてみる。顔がよく見えないので、布を取ろうとすると、手が通り抜けてしまった。
「えっ!? 触れない……映像……いや、過去?」
あの靄は、この場所で起こった何かを見せるためにあったと考えるのが、一番納得出来る。
「でも、何を見せて……ん?」
急に魔法陣の赤い光ではなく、紫色の光で照らされた。その光は、中央の台の上……いや、この部屋の中央にあった。
「紫色の炎?」
紫色の炎が浮いていた。激しく燃えるというよりは、安定した炎という印象を受ける。そこに白い靄が集まっていく。その靄は、周囲の黒い布を被った人達から出ていた。白い靄を出した人達は、どんどんと力なく倒れていく。
「人の魂? 生贄か何か?」
過去の出来事故に、私が干渉する事は出来ない。だから、この状況を見ている事しか出来ない。白い靄が、炎の中に入る度に、どんどんと炎が黒くなっていく。
「黒い炎……冥界の炎?」
どんどんと私が持っている冥界の炎に近づいていくけど、白い靄の供給が止まったのと同時に、炎の色が紫に戻って、そのまま赤になり消えた。
『……失敗か』
急に声が聞こえた。声の主は、炎が消えたのと同時に入ってきた偉そうで豪奢な服を着ている初老の男性だった。その隣には、倒れている人達と同じく黒い布を被った人が侍っていた。
『現在百二十二名です』
『まだ足りないというのか』
『次は、また人数を増やしましょう』
『そうだな。我らの悲願。悪魔召喚の為にも贄となる者を集めよ。犯罪者なら、他の街でも集められるだろう』
『承知しました』
そんな会話をした後、二人は部屋を出て行った。すると、急にまた青い靄に包まれた。視界が開けると、そこは元の暗い部屋だった。少し呆然としてしまっていた私の目の前にウィンドウが出て来る。
『クエスト『隠された闇と財宝』をクリアしました』
一応、さっきの光景を見る事がクエストクリアの条件だったらしい。あそこまでが、【霊峰霊視】で見る事が出来る光景の限界だったのかな。この悪魔召喚が隠された闇なのか財宝なのか、補完が欲しいところだけど、それはもっと神殿を調べてみれば分かる事なのかもしれない。
この場所で何が起こったかは分かったけど、クエストをクリアした事の他に気になる事が一つあった。
「悪魔召喚? それには、生贄が必要……いや、真に必要だったのは、冥界の炎だ」
あの人達が黒い炎にしようとしていた事を考えれば、生贄は悪魔召喚に必要なのではなくて、悪魔召喚に必要な冥界の炎を作り出すのに必要な事だったと考えられる。
「つまり、冥界の炎は、この場所で使用する事が出来る」
中央の台に、再び乗って冥界の炎を取り出す。すると、冥界の炎が入っていた容器が砕けて、冥界の炎が、さっきの光景と同じように中央に移動していった。
そして、炎がどんどんと成長していって、大きな炎へとなっていく。同時に、周囲にある台に魔法陣が浮かび上がる。魔法陣の色は、冥界の炎と同じく黒だった。
その魔法陣から粘性のある黒い液体が出て来る。
「うわっ……キモっ!」
急いで逃げようとしたけど、足元の魔法陣から液体に足を掴まれた。いや、実際には掴まれたってわけじゃないけど、そう思ってしまうくらいに締め付けるような感覚を受けている。そのせいで、一切動く事が出来ない。
どんどんと溜まっていく黒い液体に身体が沈んでいく。同時に掴まれる感覚が、足、腰、腹、胸、腕、首と上がってくる。幸い、そこまで沈んでもダメージは一切受けていない。そういう類いのものではないのかもしれないけど、このまま上がっていくと、窒息の方が心配だった。
これ以上上がらないで欲しいという願いは聞き届けられず、どんどんと液体は増えていく。覚悟を決めて、思いっきり息を吸った直後に顔も沈み、身体全身が黒い液体に飲まれた。
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