第183話 サハギンと【水氷装術】

 砂浜を歩いていて、最初に襲ってきたのは、蒼鶚だった。まぁ、ギルド設立の時に襲ってきたから、ある程度分かっていたけど。

 突っ込んでくる蒼鶚を避けないで、そのまま【防影】に突っ込ませる。さっきジャイアントクラブの攻撃に耐えられたくらいだから、ある程度の硬さはある。

 蒼鶚は、【防影】に突っ込んでHPを半分も失っていた。つまり、それくらいの勢いで突っ込んできているという事になる。さらに、頭から突っ込んだからか、気絶状態にもなっていた。


「……まぁ、運が無かったって事で」


 蒼鶚の首に隠密双刀を突き立てて倒す。ここまで二回の攻撃を受けているけど、まだ罅が入ってもいない。だから、【防影】の限界が、どのくらいか分からない。なので、夜に師匠の元を訪ねる事にした。師範と違って、師匠は全然容赦ないから。

 そんな風に予定を立てていたら、海から何かが飛んでくる。それは、【第六感】で読めていたので、パリィで弾く。弾いたものは、先端が三つ叉に分かれた槍だった。三叉槍ってやつかな。

 そして、【感知】で海から凄い勢いで迫ってくる気配が複数ある事に気付いた。海から上がってきた気配の持ち主達は、身体が鱗に覆われていて、水掻きのある手で三叉槍を掴んでいる。二本の脚でしっかりと立っており、背筋もしっかり伸びていた。ただ、その造形には、隠しきれない程の魚感がある。

 でも、イケメンだった。しっかりと均整の取れた筋肉で覆われた肉体に、魚なのだけど整った面立ちをしている。こちらを睨んでいる姿は、侍のような鋭さを持っていた。そのイケメン半魚人の名前はサハギン。私が探していたモンスターだ。


「無駄! 無駄に格好いい!」


 その言葉に苛ついたわけじゃないと思うけど、サハギン達が牙を剥いて威嚇しながら突っ込んできた。

 サハギンの数は、全部で六体。その内一体に向かって、影を纏わせた月影を投げつける。首に突き刺さった月影の後に続いてきた影が、その周辺を削っていく。これでも一割と少ししか削れていない。昼の時間帯という事もあって、こっちの攻撃力が下がっているから仕方ない。

 悲鳴を上げるサハギンを余所に、他のサハギン達が三叉槍を突き出してくる。四本の三叉槍を日影でパリィしていく。動きが止まったサハギンの一体に向かって高速移動で突っ込み、拳を振う。さっきはジャイアントクラブに向かってやったから、あまり効果を実感出来なかったけど、硬い甲羅を持っていないサハギンなら、十分に分かるだろうと思ってやったけど、効果は予想以上だった。

 殴られたサハギンは、思いっきり吹っ飛んでいき、海の上を何度もバウンドしていった。サハギンで水切りするのもちょっと面白いかもしれない。

 そんな馬鹿な事を考えていると、パリィの効果から解放されたサハギンと最初に私に向かって三叉槍を投げたサハギンと月影が刺さったままのサハギン計五体が、三叉槍を構える。そして、三叉槍の周りを水が纏わり付き、三叉槍からパルチザンのような幅広の槍を形成した後、凍り付いた。


「【水氷装術】か……私も使ってみよ。【共鳴】」


 月影を戻して、【水氷装術】を使う。海から水が浮き上がり、隠密双刀に纏わり付く。


「あれ? 水のまま……よっと」


 サハギンのように凍り付くと思っていたので、何でだろうかと思っていると、サハギン達が槍で突いてきた。【第六感】があったから、見えない角度の攻撃も避けられた。見えている状態よりも避けにくいけど、慣れれば問題ない。

 現状問題なのは、隠密双刀に纏わり付いた水の方だ。今のままだと無理にしかならない。


「【血液武装】と違って、自動で固まるわけじゃないって事かな」


 水が凍るイメージを持つと、水が凍り付いていった。


「なるほど」


 この状態で、どのくらいの攻撃力があるのか試させて貰う。サハギンが突き出してきた槍を弾いて、接近しようとしたら、互いの氷が割れた。


「あれっ!?」


 いきなり【水氷装術】が解けてしまったので、割れた氷を周辺の氷を操って、サハギン達にぶつけた。突然の事に一瞬怯んだ内に、一体の腹を蹴り飛ばして、また海の彼方に吹っ飛ばしつつ、【水氷装術】をもう一度使う。


「使い方が違う……いや、同じ強度だから割れた? まだ憶測の域を出ない……試すしかないか」


 凍らせた隠密双刀で、再びサハギンの氷の槍にぶつける。すると、また割れてしまった。なので、今度はサハギンの身体を斬る。こっちは壊れず斬ることが出来た。


「一定以上の硬さとぶつかると壊れるのか……使い勝手が悪いなぁ。これなら、もう少し違う使い方を模索した方が良いかも」


 サハギンの攻撃を避けながら、【水氷装術】の扱い方を考える。


「いっそ、水のまま使うか」


 一旦距離を取ってから、水を纏った隠密双刀を振う。鞭のようになるだろうから、距離感を掴もうとしたのだけど、纏っていた水は勢いよく射出されて、サハギンにぶつかってノックバックさせた。


「あれ? そういう性質?」


 【血液武装】が武器を伸ばしたり強化したりする性質で、【影装術】が削り取るような追加攻撃を纏わせる性質としたら、【水氷装術】は纏った水を飛ばす事が出来るという性質を持つと考えられる。


「【血液武装】でも似たような事は出来そうだけど、自然に出来るのとは違うね。でも、攻撃力は皆無……いや、サハギンだから?」


 そこら辺の検証もしないといけないかな。


「飛んでいる水を凍らせられないかな」


 飛んでいった水の形は、鋭い刃のような形をしていた。それでもウォータージェットのような切断力は持っていなかった。勢いが足りないとも考えられるけど、まずは凍らせる事で、鋭さを保ったままに出来ないかの検証だ。

 再び【水氷装術】を使って水を纏わせ、さっきと同じように水を飛ばす。同時に、飛ばした水が凍っていくイメージをする。すると、氷の刃となって飛んでいった。サハギンは、三叉槍で防いだけど、砕けた氷の欠片が、散弾のように散らばり、サハギン達に微少ダメージを与えた。水とは違って、しっかりとダメージとして入っている。


「氷は脆いけどダメージが確実に入る。水は防がれにくいけど、ノックバック主体ってところかな。使いこなすのは難しそうだけど、便利ではあるかな」


 四体のサハギン達は、怒りの形相でこっちを睨んできた。


「まぁ、このまま戦って検証を続けても良いけど、さっさと素材が欲しいのも本音なんだよね。だから、こっちも本気で戦おうかな」


 隠密双刀を仕舞って、双血剣を抜く。


「血姫の装具じゃないから、普段通りとはいかないけどね」


 双血剣の機構を使って、【血液武装】を使う。そして、高速移動でサハギンの背後に回り、思いっきり斬る。すると一気に一割以上削る事が出来た。やっぱり、攻撃力だけで考えたら、双血剣と【血液武装】の組み合わせが良い。

 三叉槍による攻撃をパリィしていき、確実にダメージを与える。ついでに、そこに【影装術】を掛け合わせれば、更にダメージ量を増やす事が出来た。パリィのタイミングも完全に掴んだので、サハギンも楽に倒す事が出来た。

 ドロップアイテムは、海悪魔の三叉槍、サハギンの鱗、サハギンのヒレ、サハギンの血だった。


「う~ん……ここに、【水氷装術】は重なるかな?」


 【血液武装】と【影装術】を重ねたところに、さらに【水氷装術】を重ねられないか気になったので、今の内に実践してみる。すると、水と血が干渉し合って、固まっていた血が水に溶け込んだ。


「これじゃあ、【血液武装】の強みを活かせない……このまま飛ばすのはどうなんだろう?」


 【血液武装】の強みを失っているけど、まだ【水氷装術】の強みは残っている。なので、思いっきり振って、血を含んだ水を飛ばす。同時に凍らせて、血を含んだ氷として飛ばす事が出来た。


「……強いのかな? 後で試してみよ」


 その後、何度かサハギンと戦いながら、【水氷装術】の有効利用の仕方を探った。【血液武装】との合わせ技としては、凍らせるのと硬質化を同時に使えば、砕かれる事なくサハギンにダメージを与える事が出来た。でも、【血液武装】が剥がれてしまうので、そこまで良い技とは言えなかった。

 サハギンの素材も集め終わったところで、一旦ギルド会館に戻って報告する事にした。素材の量は、大蝙蝠が勝手に倒してくれる蒼鶚の素材が多くなった。

 なので、報告の後でまた蒼鶚のクエストを受けて、この素材でクリア出来ないかと考えて、試しに提出してみた。すると、普通に受け取ってくれて、お金も貰えた。一々クエスト受け直さないといけないという手間があるものの、毎回討伐しに行かないといけないという事がないのは良い。まぁ、結局は素材を持っていないと討伐しないといけないけど。

 夜ご飯の時間まで、狩りを続けてからログアウトした。トモエさんのアドバイスのおかげで、想定よりも早くお金を稼ぐ事が出来た。まだまだ借金には足りないけど、この調子なら二週間くらいで返しきる事は出来そうだ。

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