第182話 【操影術】と【第六感】

 ポートタウンに着いた私は、まっすぐギルドの方に移動した。トモエさんから聞いた単発討伐クエストを受けるのに、ギルド内を見回してみると、大きめの掲示板が置かれていて、そこにプレイヤーが集まっているのが見えた。他の受付と比べたら、小さい受付が近くにあるので、間違いないはず。


「メインがギルドを設立するための施設って感じなのかな」


 そういえば、こんな場所もあったかなくらいの朧気な記憶しかない。それくらい印象は薄かった。プレイヤーが集まっていると言っても、掲示板の前が埋め尽くされる程ではないので、その中に混じって、実入りが良いクエストを探す。


「う~ん……」


 討伐クエストと言っても、あるのは海エリアの内容のみ。必然的に蟹や鶚の討伐が多くなる。その中で、私の知らないモンスターもあった。


「サハギンの討伐、シーサーペントの討伐、マンイーターシャークの討伐かぁ。サハギンは分からないけど、他は海の中だなぁ……取り敢えず、サハギンと蟹と鶚のクエストにしよ」


 掲示されているクエストを手に取ると、どこからか職員NPCが現れて、同じクエストを張りだした。誰でも受けられるという点を守るためには、取られたら張り出すという風にしないといけないって感じかな。


「お願いします」

「かしこまりました。こちらにサインをお願いします」


 そう言われてペンを渡されるので、名前を書く。そこに、受付の職員NPCがハンコを捺して紙を返される。


「討伐証明部位とこの紙を一緒にお持ちください」

「分かりました」


 紙をアイテム欄に入れて、ギルド会館を出る。今日は、誰にも邪魔されずに、そのままポートタウンを出る事が出来た。やっぱり、私の旬は過ぎたみたいだ。これは有り難い。

 ポートタウンから出て、少し歩いた場所で、蝙蝠を出す。普段通りの小さな蝙蝠は三匹出せて、大きな蝙蝠は一匹出せた。大きな蝙蝠の方は、小さな蝙蝠よりも耳が小さくて、牙が鋭かった。それに顔が怖い。

 取り敢えず、いつも通り周辺を飛んで貰って、敵の位置を探って貰うのと、マッピングの範囲を広げる。

 スノウとレインは、ひとまずお休みだ。私のスキルを確認したいからね。

 普段通りに走りながら探索していると、自分の速度が上がっている事に気付いた。【疾走】が【神速】に進化した結果だ。これは、いつも使っている高速移動の初速も上がっている可能性がある。

 そこは気を付けないといけないと思っていると、急にドロップアイテムのログが流れてきた。


「ん? 蒼鶚のドロップ? スノウじゃないし……大蝙蝠かな?」


 超音波が聞こえてこなかった事を考えると、大蝙蝠は、支援とかじゃなくて、自分で狩りに行くタイプの蝙蝠かな。蒼鶚を倒せるくらいの強さって考えると、相当な強さだ。


「その内、大蝙蝠が血を飲んだら、【吸血】と同じ効果を私に還元するみたいにならないかなぁ」


 そうなったら、スキルを獲得出来る可能性が高くなる。その分、また管理が難しくなるけど。

 そのまま走っていると、蝙蝠が三箇所で超音波を出した。【感知】に引っ掛からない距離だ。全部バラバラの方向なので、一番近い場所に向かう。そこには、大きな蟹が歩いていた。

 私は、高速移動で突っ込む。いつもは蹴りで攻撃するけど、今回は拳で攻撃した。【神腕】の効果を確かめるためだ。

 ジャイアントクラブの身体が浮く。でも、罅は入らない。やっぱり、殻は硬いみたいだ。ここで、隠密双刀を抜く。そして、【影装術】を使う。【血装術】に似た効果を持っていると思ったのだけど、ちょっと毛色が違った。影は固まる事なく、隠密双刀の周りを流動していた。でも、影が置き去りになるという事はなく、しっかりと隠密双刀に纏わり付いている。

 そこから考察する事はせず、すぐにジャイアントクラブの殻を斬る。すると、斬りつけた隠密双刀の後を追ってきた影が、ジャイアントクラブの殻を削る。


「【追刃】に似てる……」


 ただ、【追刃】が斬撃なら、【操影術】の影は目の粗いヤスリ的な感じだ。硬い殻を持つ相手には、こっちの方が効果的かもしれない。


「ん?」


 一瞬何かしらの違和感を覚えた直後、ジャイアントクラブが、その巨大な鋏を振り下ろしてきた。私は、敢えてその攻撃を避けない。鋏が目の前まで来たところで、一瞬で展開された影が鋏を防いだ。これが、【防影】の効果だろう。影の速度が、自分で操るよりも速いので、本当にギリギリになるまでは、【防影】は発動しない。避ける気でいる時に、勝手に【防影】が発動するって事は、そうそうないはず。

 影によって鋏が弾かれた直後に、今度は【大地操作】で、脚が接地している場所の土をどかすように移動して、穴の中に脚を埋めるようにする。更に、どかした土と他の土も使って脚を絡め取る。その場から動けなくなったジャイアントクラブは、鋏で私を切り裂こうとはせずに、口から巨大な泡を吐いてきた。その直前に、また変な違和感を覚えた。その正体を考える前に、【水氷操作】を使って泡を上に送る。泡がどんな扱いになるのか心配だったけど、普通に【水氷操作】の効果範囲ないに入っていて良かった。

 そのままジャイアントクラブの背後に回って、跳び上がる。


「【震転脚】」


 踵落としで、ジャイアントクラブの背中を割った。地面に伏せるように倒れたジャイアントクラブの上に着地する。


「【踏鳴】」


 思いっきり脚を踏みつけて、ジャイアントクラブの身体が地面に沈む。これでもHPは、まだ三割も残っている。


「さすがに硬いなぁ。でも、レベル上げにはちょうど良いかも」


 【大地操作】で、ジャイアントクラブを更に地面に沈めつつ、【操影術】を使った隠密双刀でジャイアントクラブを滅多斬りにした。完全に抵抗出来ずに、ジャイアントクラブはポリゴンになって消えた。


「スノウがいるのといないのでは、結構変わってくるかな。後は、双血剣じゃないのもあるかな。やっぱり、純粋な攻撃力なら【血液武装】の方が上だね。レベルの問題もあるかもだけど。後は、あの違和感……攻撃がされる事やその軌道が既に分かっているような……【第六感】の感覚かな」


 ジャイアントクラブの鋏も泡も、それが来る前から分かっていた。未来を視ていたわけじゃないのに、その軌道すらも分かっていたから、どちらも避ける事は可能だった。急なことだったので、私の中では違和感のようになっていた。でも、改めて考えると、そういう事だと分かった。


「これは、この感覚に慣れないといけないな。一番良いのは、師範、師匠との稽古になるかな。他のスキルの勝手は、大体分かった。また戦闘で出来る事が増えたなぁ……」


 こんなに増えると、もう最善の行動が取れるとは思えない。それこそ死闘になったら、尚更だ。


「取り敢えず、素材を集めながら、感覚に慣れよう」


 蝙蝠達の超音波と【感知】を頼りに、ジャイアントクラブを探し出し、さっきとほぼ同じようなやり方で倒していった。やっぱり、あの違和感は、【第六感】によるものだと分かった。【未来視】の効果を視るではなく、感じ取るという風なスキルみたいだ。頭痛という副作用はなく、視界に被る事もない。頭痛がないのは、本当に有り難い。でも【未来視】よりも分かりにくいという欠点もあった。

 これに関しては、慣れていけば問題ないと判断した。まずは、何事も慣れからだ。


「ジャイアントクラブの素材は、もう大丈夫。蒼鶚も大丈夫だろうから、後はサハギンかな」


 ジャイアントクラブを倒している間も、大蝙蝠が空で蒼鶚を倒していたので、どんどん蒼鶚のドロップは集まっていた。なので、最後のサハギンの素材だけが必要だ。


「まぁ、名前から判断して、海の近くだよね。砂浜を歩いていたら出て来るかな」


 そう考えて砂浜まで走る。


「取り敢えず、【突進】と【水氷装術】を交換しておこう。せっかく水がある事だしね」


 海の水を操れるのは、感覚で分かる。だから、【水氷装術】の効果範囲に入っている事も分かる。【突進】のレベル上げをしたいところではあるけど、こっちの具合も確認しておきたいので、こっちを優先した。


「さてと、サハギンは出てくれるかな」


 サハギンが現れてくれる事を祈りつつ、私は砂浜を歩き始めた。

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