第172話 レインの正体
転移するための広場に行くまでに、他のプレイヤーに見られるかと思ったけど、レインの事が見えないようで、全然注目されなかった。どちらかというと、私の方に視線が向いていたくらいだ。
すぐにギルドエリアに転移すると、厩舎の方からスノウが飛んできた。スノウは、私に頭を向けてくるので、優しく撫でてあげる。その中で、レインの事に気付いたらしく、レインを見て首を傾げていた。
二人とも私がテイムしたからか、ちゃんと認識し合えるみたい。
「この子は、レイン。スノウの後輩になるのかな。仲良くしてね」
『ガァ!』
『よろしく』
スノウは、レインに挨拶すると、自分の厩舎に戻っていった。一応、仲良くやれそうな気はするけど、竜と……竜と何だっけ。そういえば、レインが、どんな種族なのか分からないままだった。
テイムモンスターのメニューを出す。スノウ達を管理出来るメニューみたいだけど、一々出さないといけない。そこには、スノウの種族やスキルなどが書かれている。スノウは、氷炎竜と書かれている。
そして、レインの方は、水の精霊ウンディーネと書かれていた。泉で亡くなり、神の慈悲で神の力を与えられて泉となったレインは、精霊となったって感じかな。神の力の部分が、ちょっと気になるけど。
────────────────────────
レイン:【魔導】【天候魔法才能】【支配(水)】【神力】【神水】【無限水】【水精霊】【精霊体】
────────────────────────
スノウよりも豊富なスキルだけど、水に偏っている。色々と気になるものもあるけど、しっかりと【神力】と【神水】っていう神の力を持っていた。
「レインは、水の精霊だったんだね」
『そうなの?』
レインは、自分が精霊だという事も知らなかったらしい。ただただ泉として過ごしていたって感じなのかな。
「そういえば、あの場から移動して平気だったの?」
『うん。泉を移動させれば良いから。家の近くに泉を作りたい』
「泉? ちょっと待ってね」
ギルドエリアのメニューを出して、泉があるか確認する。
「おっ、あった……二十万……よし! 取り敢えず、屋敷の近くに作っておくね」
『うん』
家の横、畑の後ろに泉を作る。大きさ的には、レインがいた泉よりも大きい感じだけど、一から穴を掘るよりも良いはず。
「見に行こうか」
『うん』
レインと手を繋ぐために、手を出す。そして、レインが私の手に触れた瞬間、強烈な痛みが襲ってきた。
「痛っ!?」
思わず声が出てしまった瞬間、レインの方が手を引っ込める。レインの身体は、全身神の水で出来ているみたいで、闇の因子を持つ私が触れると、焼けるような痛みが走ってしまう。
『ごめんなさい……』
レインは悲しげに目を伏せる。レインが私を傷つけたからだろう。
「良いよ。こればかりは、私が悪いしね」
『……悪魔なの?』
恐る恐るという感じで、レインが訊いてくる。私がダメージを受けた事から、私が【悪魔】のスキル持ちなのかと思ったみたい。強い光の因子。恐らく、上位の因子を持っているであろうレインは、私にとって天敵と呼べる存在だ。そんな自分が一緒にいて良いのかと思ったのから、確認しようとしたのかも。
「ううん。吸血鬼だよ。でも、気にしなくて良いから。レインと触れあってたら、耐性が付く可能性が高いしね」
『耐性?』
因子に関する知識は持っていないらしい。子供の時に生贄になったから、知識を得る機会が少なかったのかな。近くに図書館とかがあれば、話は変わっていたかもだけど。
「うん。光の因子って呼ばれるものを摂取すると、私の中の闇の因子が、光の因子に対する耐性を得られるらしいんだ。今も【聖気】から耐性を得られないか待っているところだしね」
『ふ~ん……じゃあ、私を飲む?』
「レインを? 飲んでも大丈夫なの?」
『うん。私は、枯れる事がないから』
そういえば、あの物語でも消えぬ泉となってって書いてあった気がする。
「なるほどね。それじゃあ、泉に移動したら、少し貰える?」
『うん!』
笑顔で頷くレインと一緒に、新しく作った泉に向かった。実際に見る泉は、やっぱりレインがいた泉よりも大きい。
「これで大丈夫?」
『うん。ここの水って、私のものにしても良い?』
「うん。良いよ」
ここがレインの厩舎代わりになるので、レインのものになるのは当然のことだ。水やりの時に楽になりそうって思ったけど、ここの水を使う事はやめておこう。
私から許可を取ったレインは、ウェットタウンで取り込んだ泉の水を出した。そして、その中に入って沈んでいく。一瞬、引き上げなきゃって気持ちが出て来たけど、レインは精霊なので問題ないという事を思い出し、静かに見守る。
レインは、泉の中を一周してから、私の元に戻ってきた。
『それじゃあ、はい』
レインは、両手のひらに水を溜めて、私に突き出してきた。その水を受け取るために、私も同じように手で受け皿を作るけど、レインは首を傾げていた。これは、レインの手から飲むしかないのかもしれない。運営が何を思って、こんな行動を設定したのか分からないけど、そういう界隈からしたら、良い趣味をしていると言われるものかもしれない。もし良い趣味かって、私が訊かれたら、微妙って答えると思うけど。
仕方ないので、膝立ちになって、レインの手から水を飲む。すると、身体の内側から燃やされているのではと思うような痛みが広がった。
「うぅ……!」
『お姉さん!』
レインの心配する声が聞こえるけど、返事が出来ない。歯を食いしばって痛みに耐えないと、思いっきり叫んでしまいそうになるから。
HPを見ると、一気に半分も削れていた。さらに、継続ダメージで、ゴリゴリとHPが減っている。痛みに慣れた瞬間に、アイテムの血を取りだして飲む。一本では足りないので、HPがなくなる前に飲み続ける。
『グルゥ!!』
後ろからスノウが飛んで近づいてくる。私が苦しんでいる事に気付いたみたい。でも、何をすれば良いか分からないからか、オロオロとしてから、急に飛び立った。それから五秒くらいして、悲鳴が聞こえてくる。
「わわわあああああ!!」
私の隣に着地したのは、アカリを掴んだスノウだった。アカリが、ギルドエリアに来た事に気付いて連れてきたらしい。自分では、どうにも出来ないけど、アカリならって考えたのかな。
「スノウちゃん……いきなり過ぎ……って、ハクちゃん!? どうしたの!?」
「ちょっと、物は試しって感じ」
「あ~……聖属性の何かを飲んだ的な?」
「大正解。それと、この子がメッセージで教えた例の子ね。名前はレイン。水の精霊ウンディーネだよ」
「精霊!?」
アカリが、レインに注目する。レインも、アカリの事をジッと見ていた。
「私は、アカリ。よろしくね、レインちゃん」
『うん。よろしく。アカリさんは、私の事が見えるの?』
「ん? うん」
レインが気付いて、私もおかしいという事に気付いた。私は、霊峰の霊視鏡を掛けて、初めてレインの存在に気付く事が出来た。でも、アカリは何も掛けていない。裸眼の状態で、レインが見えている。
私も霊峰の霊視鏡を外してみる。すると、レインの姿が消える事はなく、しっかりと姿として見る事が出来るようになっていた。恐らく、テイムした瞬間から、私とギルドメンバーには、レインの姿が見えるようになったのだと思う。道中で目撃されなかったのは、他の人達が、ギルドメンバーとか関係のある状態じゃないからだろう。
「私も普通に見えるや。ふぅ……落ち着いた」
『耐性付いた?』
「う~ん………ん? 【聖気】のダメージがない。一応、少しの耐性は付いた感じかな。レイン、手を貸して」
『うん』
伸ばされるレインの手に触れると、じわっと燃え上がるように指先から痛みが走ってくる。
「痛っ! まだ駄目みたい。闇の因子が弱いのかな。アカリ、適当な入れ物とかある?」
「あるよ。はい」
アカリから空き瓶を百個も貰う。
「こんなに貰って平気なの?」
「まだまだあるからね。共有の方のストレージに入れておくね」
共有物置のストレージ内に入れてくれるとの事なので足りなくなったら、取りに行くことにしよう。まぁ、そう簡単になくならないとは思うけど。
「レイン、この中に水を入れてくれる?」
『うん』
取り出した空き瓶に、レインが次々に水を入れてくれる。
「どうするの?」
「いや、これで、いつでも耐性を付けるために修行が出来るなってだけ」
「えぇ……かなり苦しんだんじゃないの?」
「よくお分かりで。でも、だからこそ、やる価値があるんだよ。レインとも、ちゃんと触れ合えるようになりたいしね」
私がそう言うと、アカリは、ちょっと呆れたように息を吐いてから頷いた。自分から自分を追い込むような事だから、もう少し良い方法を考えればいいのにって感じかな。でも、地下書庫の因子本に書かれていた事から考えれば、これが最良の方法のはずだ。
『お姉さん。全部入れたよ』
「ありがとう、レイン」
レインの水が入った瓶を回収する。
『ねぇ、お姉さん。私は、ここで何をすれば良い?』
「ん? 別に普通に暮らしてくれれば……」
そこまで言ってから、レインは役割を欲しがっているのだと気付いた。ただ泉の中にいるのも退屈だっただろうしね。
「それじゃあ、畑に水やりをして貰おうかな」
『水やり?』
「そう。でも、あまりあげすぎないようにね」
『うん!』
「それと、アカリにも協力してあげて。レインの水が必要になるかもしれないから」
『うん。アカリさんなら良いよ。何だか繋がりを感じるから』
レインが感じている繋がりっていうのは、恐らくエルフと精霊の関係性によるものか、ギルドメンバーという繋がりによるものだろう。ほぼ確実に、この二通りで絞れる。
「ありがとう」
「それはそうと、色々と訊きたい事があるんだけど」
「ああ、うん。なら、屋敷で話そうか。レイン、また後でね」
「ごめんね、レインちゃん」
『ううん』
私とアカリは、レインと別れて屋敷に向かう。ちらっと後ろを見て確認してみると、レインの傍にスノウが来て、何かを話しているようだった。スノウは、言葉を喋る事が出来ないから、ちゃんと会話になっているか分からないけど、取り敢えず仲良くやれそうで良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます