第173話 情報共有と談笑
アカリと一緒に屋敷の空き部屋に入る。ただ、空き部屋だと思っていたのは、私だけで、そこは少し大きめのテーブルが一脚に椅子が二脚置かれていた。二人で話せるような場所を作っていたみたい。
私が席に座るとアカリは、お茶を用意してから座った。
「さてと、まずは、レインちゃんとはどこで会ったの?」
アカリから質問される。アカリに送ったメッセージには、新しくテイムしたという旨しか送っていない。長々と書いている暇もなかったし、一番伝えたい部分がそこだったからだ。
「ウェットタウンの泉だよ。【霊視】で見つけた物語があった場所。物語の内容から、その泉が、光の因子を持っているものって予想は付いていたから、それを確かめに行ったら、レインの声がして、よく分からないけど、テイム出来た。あの泉そのものが、レインだったんだ……あれ? 泉を吸い上げたから、泉自体なくなってるんだよね。それは、私も確認した。という事は、レインを他の人がテイムする事は不可能になったって事?」
「……どうだろう? レインちゃんは、クエスト報酬的な感じだった?」
「いや、クエストは終わってない。そもそも、どうやったらクリア出来るかも分からないし」
ここが、このゲームの不親切だけど面白いところで、クエストの次の目的地などがはっきりと書かれていない。自分で進めた部分までは分かるけど、レインに関しては書かれていない。
「クエスト進行のところにも、レインに関しては書かれてないよ」
「なら、クエスト由来なのは、レインちゃんと会うまでなのかもね。そこから、テイム出来るかどうかは運とか」
「何かしらの条件が必要になるって感じかな。そうしたら、最初の一人限定っていうのも、少し納得出来るかも?」
「【真祖】?」
「それはない」
レインをテイムするのに条件がいるというのは、あり得る話だと思うけど、それが【真祖】かってなるとあり得ないになる。何故なら、闇の因子である【真祖】とでは、相性が最悪だからだ。そこまで考えて、一つの答えが出た。
「あっ、【聖気】かな? 一応、レインより弱いって言っても、同じ光の因子だし」
「因子? 師範にも言われたっていう闇に属するものとかと関係ある話?」
アカリには、因子の詳しい話をしてなかった。でも、これまでに話した内容から、ある程度察しは付いたみたい。
「そそ。私が聖属性でダメージを受ける理由でもある。【吸血鬼】から何だけど、私の身体の中に、闇の因子が流れてるんだって。そこに聖属性とかに含まれる光の因子が来ると、互いに攻撃し合って、ダメージを受ける事になるんだってさ」
「へぇ~、そういう原理なんだ」
私がダメージを受けるメカニズムを聞いて、アカリはちょっと興味を抱いたみたい。何かに活かせないかなって思っているのかな。
「そういう因子を持つスキルに、【悪魔】とか【天使】とかあるよ」
「【悪魔】と【天使】か。取り方とかは?」
「そこまでは分からない。でも、【悪魔】は、ちゃんと実在すると思う。レインの口からも出て来たからね」
私を悪魔と勘違いしたって点から、【悪魔】の方は、ほぼ確実に実在する。だから、あの本に書かれていた事は事実のはず。そこから、【天使】も実在する可能性は高い。
「どんな条件だろう? 悪行を積むか善行を積むか?」
「どちらかというと、教会とかでのお祈りとかで取れそうだけどね」
「ああ、【天使】の方は、それもあるかも。ハクちゃんは、教会に入れるのかな?」
教会と聞くと、ゲーム内では聖域みたいな扱いをされる事が多いから、闇の因子を持つ私には入れないのではとアカリは思ったみたい。正直、言われた瞬間に、確かにって思ったけど、すぐにもう一つ重要なものがある事に気付いた。
「いや、入れるんじゃない? 【聖気】あるし」
光の因子そのものもしっかりと持っているので、多分大丈夫だと信じたい。
「ああ、ちゃんと、そっちの要素もあるんだっけ。変な感じだね。一応、レインちゃんの水を飲んで耐性は付いたんだよね?」
「まぁね。今もHPは減ってないから、完全に耐性が付いたって事で良いと思う。後は、レインの水でどんどん耐性を上げていく感じかな。【聖気】もレベルが上がったら、進化出来るだろうし」
現状の【聖気】に対する耐性は、完璧に付いた。HPは、一ミリも減っていない。いつもなら、既に一ドットくらい減っていてもおかしくない。それが、一切動いていないのを見て、ようやくって感じがした。
「へぇ~、色々と考えてるんだね」
「まぁ、まさか自分が聖属性の力を手に入れると思わなかったからね。耐性に関しては、ちゃんとしないと」
「まぁ、そうだね。そういえば、聖属性に光の因子が含まれていて、ハクちゃんがダメージを受けるなら、私の身体にも流れているって事?」
エルフと精霊の関係性についても、アカリは知らない。全然情報を共有出来てないなっと実感しつつ光の因子の本に書かれていた事を説明する。
「ああ、そうそう。エルフは精霊と繋がりを持っているから、身体に少しだけ光の因子が流れているみたいだよ。レインが繋がりを感じているのも、エルフだからだと思う」
「じゃあ、エルフだから、レインちゃんが見えるって事になるのかな?」
「あっ、ギルドメンバーだからだと思ったけど、それもあるのかな? 道中は、私しか見られなかったけど」
エルフと精霊の繋がりが、アカリがレインの事を見られた理由になると気付いた。
「道中で、レインちゃんは見られなかったっていうのは、絶対?」
「うん。視線が私にしか向かなかったからね」
「じゃあ、普通にギルドメンバーの方だと思うよ。だって、エルフの人もいるだろうに、見られなかったって事だもん。レインちゃんの見た目は、結構目立つしね」
レインの見た目はほぼほぼ人だけど、水を纏っていたり、美少女だったりで、確かに目立つ。エルフには見えるとすれば、レインの方に視線が向いていなかったというのは、ちょっとおかしいかもしれない。結局、ギルドメンバーという繋がりが、レインを見られる理由って方が正しそうだ。
「じゃあ、結局、他の人には見えないって事ね。それって、ヤバくない?」
「レインちゃんの能力によるけど、本当に強力じゃない? 見えないところから、攻撃が飛んでくるって事でしょ?」
「確かに、レインのスキルは異常だからね。今度、一緒に戦闘しに行ってみる」
仮に、周囲からレインの姿が、本当に見えないとしたら、強キャラでは留まらない。最強の存在になるかもしれない。これは、しっかりと確認しないといけないだろう。
「うん。実力を確かめた方が良いかもね。氷を使うスノウちゃんとも相性が良いだろうし」
「二人を一緒に出せるかな?」
テイムモンスターについて、全く詳しくないので、二種類のモンスターを出せるかどうかが分からない。
「……分からないけど、やってみたら? 雪原エリアは、良い練習になると思うよ」
「的が多いからね。そういえば、アカリは、今どうしてるの? まだ氷炎竜に挑んでるの?」
この前海に行ったのは、ギルドを設立するためだったので、まだ雪原エリアを攻略出来た訳じゃない。なので、どこまでいったのか気になった。
「うん。取り敢えず、倒す事は出来たよ。だから、海のエリアに行ってみたけど、この前はハクちゃん達がいたから戦えただけで、私じゃ厳しかったよ。あの蟹強いね」
「ああ、確かに面倒くさい相手だけど、脚とか斬り落としたら楽だよ」
「私は、突きが基本だから、斬る力が弱いんだよね」
細剣は、突きの威力が高い傾向があるらしい。その分斬る方向になると、威力が落ちるっていうデメリットもあるみたいだ。意外と使い勝手が悪い武器なのかな。
「武器二つ持ち?」
「それは面倒くさいから、あれを貫ける速度を身に着けたいんだよね」
「速度よりも、強引に扱っても良い頑丈さじゃない?」
「頑丈さ?」
「うん。細くて壊れそうだし」
「う~ん……まぁ、確かに?」
アカリは、ちょっと納得いっていないみたいだ。アカリ自身が求めているものとは違うらしい。それなら、他の案を考える。
「後は、速度が上がれば上がる程威力が出るみたいな追加効果があると良いね」
「速度で威力……ちょっと色々研究する。出来たら、ハクちゃんも使う?」
アカリが訊いてくる。速度が威力に影響するというのは、ちょっと魅力的だけど、今の双剣の追加効果は、結構ベストだと思うから、武器に使おうとは思えない。
「それなら、武器より脚の方が欲しいかな速度を使った攻撃って、蹴りでやることが多いし」
高速移動からの蹴りで威力が上がるのは、結構良いかもしれない。
「脚……うん。それじゃあ、靴に付けておくね」
「よろしく」
「それじゃあ、取り敢えず、レインちゃんをテイムした経緯は分かったよ。何か、レインちゃんにも必要なものがあったら言ってね」
「うん。ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ、私は店に戻るね」
「了解」
ここでアカリとは別れた。私も屋敷から出ていった。
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