第138話 魔法都市
魔法都市は、ツリータウンと違って、層構造にはなっていないけど、ちょっと丘みたいになっていて、階段で上に上がるような形になっている。
「何だか変わった形の街だね。他の街とは違う感じ」
「ツリータウンの方も似たようなものだよ。あっちは、層構造になっていて、五階まであった。行けるのは四階までだけど」
「そうなんだ。追加された街に共通するのは、上下する街って感じかな」
「ああ、なるほどね。それじゃあ、探索を始めようか」
霊峰の霊視鏡を掛けると、アカリが正面に回ってジッと見てくる。
「う~ん……もうちょっと違うデザインの方が良かったかな……?」
「眼鏡なんて、どれでもあまり変わらないでしょ」
「変わるよ! ぜんっぜん変わる! 眼鏡の有無とデザインで印象なんてがらりなんだから!」
アカリの心に火を点けてしまった。そこからアカリの眼鏡論が続くと思われるので、指で街の方を指す。街の探索をしようという意味を込めた合図を見て、アカリは頬を膨らませながらも前を向いた。
「上に行く程、広くなっていく構造かな。一番上のでかい建物が一番怪しいね。何だろう?」
「魔法都市……ってくらいだから、魔法に関する何かだと思うけど。その前に、下から調べていこう」
「うん」
アカリと一緒に魔法都市を歩いていく。下にあるのは、雑貨屋ばかり。でも、売っているものに関しては、結構興味深かった。
「何だか、凄い置物だね」
「呪われた置物みたいだけどね」
売っているのは、見た目が狂っている置物だった。どう見ても呪われていると思われるようなものだ。インテリアとして置くにしても、このデザインはないだろう。
「スキルに呪術みたいなのが、追加されてるのかもね」
「そうなると、道具ありきのスキルって感じかな。使いにくそう」
「確かにね。一つくらい買っていく?」
「いらない。家も持ってないし。アカリは? 店に飾ったりとか」
「さすがに、私もいらないかな。商売繁盛よりも衰退しそうだよ」
確かに、繁盛のお守りにはならなさそうだ。そんな呪いの品などを見ていくと、私よりもアカリが食いつく店を発見した。
「凄い! 素材の宝庫だよ!」
「そこら辺のモンスターからは手に入らないの?」
「うん。ハクちゃんが持ってきてくれた禊ぎの水みたいに特殊な入手の仕方ならあると思うけど」
双刀の隠れ里の近くにある禊ぎの水。現在は、双刀の隠れ里近くの泉しか採取する事は出来ない。その禊ぎの水が、ここに売っている。だから、アカリも興奮している。
「コストは見合う?」
「どうだろう? どちらかと言うと、【錬金】や【合成】で使うような素材だから、売り物としては出さないんだよね。追加効果のために作るって事はあるから、その部分でだけかな。後は私用」
「なるほどね。そういう意味でもアカリにとっては、良い店になるわけか」
「うん。時間掛かっちゃってごめんね」
「良いよ。私も色々見たいし」
「ありがとう」
アカリが物色している間に、私も店の中を見て回る。店の中に靄でもあればと思ったけど、特に何も無かった。その間に、アカリは店員さんに何かを交渉して戻ってきた。
「何話してたの?」
「発注」
「発注? そんな事出来るの?」
「お金は掛かるし、出来る素材とかはお店によって変わってくるけど、出来るよ。でも、店員さんの受け答えが変わってたよ。何だか、前よりも自然というか、現実の店員さんって感じがしたよ」
NPCとよく接しているアカリが言うのだから、間違いない。正直、私はNPCと全く接しないので、全然分からなかった。
「アカリのところの店員も変わってる?」
「前より、人らしい感じだったよ。素っ気なさとかがなくなって、個性が出て来たみたいな感じかな。今の店員さんからも感じたけどね」
「ふ~ん……なるほどね。もう少しNPCと接してみても良いかな。クエストフラグにもなりそうだし」
「頑張れ!」
「別にコミュ障なわけじゃないんだけど……」
人と接するのは苦手だけど、全く出来ない訳でも無いので、別に応援されないでも出来る。そのはず。
「一応、店も見終わったし、上に上がろうか」
「そうだね。ところで、【霊視】の方はどう?」
「成果無し。特に見えないかな」
「あまり配置してないか、見えにくい場所にあるかだね」
「後は行ける場所にあるとは限らないとかね。取り敢えず、探索の方を優先しよう」
「うん」
二階は、空き家が多く、ここもいずれはお店とかになりそうな場所が多かった。
「結構、良い感じの場所だね。雰囲気あるから、そういうお店を作りたい人が買いそう」
「そういう見方もあるのか。生産職視点だね」
「私としては、お客さんの入りが少なくなりそうだから、買わないけどね」
「儲けがないと困るしね。二階は何もないみたいだし、上に上がろうか」
私達は、最上階に移動する。高さ的に言えば、ツリータウンの五階層目と同じくらいの高さだ。その分、階段が多い。
「うへぇ……この階段の多さは、嫌だね……」
「そう?」
「これが脚に振っている人との違いか……」
別に【神脚】があろうがなかろうが、あまり変わりないと思うけど、アカリの気持ち的には、そんな感じがしているみたい。
「それにしても、下から見て大きいなって思ったけど、近くで見ると、さらに大きく感じるね」
「ね」
アカリと一緒に見上げているその建物は、本当に大きい。これまでの街にはない大きさの建物だった。建物の正面に看板が掛けられている。すぐに【言語学】を装備して文字を読む。
「魔導大図書館?」
「うん。私もそう読めるよ。まさかの図書館だね」
アカリも同じように読めているという事は、魔導大図書館という事で間違いはない。図書館という事で、ちょっと気になるけど、魔法都市だし魔導って付いているし、魔法に関する本しかないのではと思ってしまう。
「良い本があると良いね」
「そうだね。取り敢えず、中に入ろう」
「うん」
魔導大図書館の中に入っていく。魔導大図書館は、最初から本棚が見えるようにはなっておらず、エントランスと隔てられているようだった。そこに受付があるので、少し話を聞く。受付には、ゴリゴリマッチョな男の人がいた。
「すみません。中の本を読みたいのですが、勝手に入っても大丈夫ですか?」
「当図書館のご利用は初めてでしょうか?」
丁寧な対応に一瞬困惑したけど、すぐに我に返る。
「はい」
「では、当図書館について、少々説明させて頂きたいのですが、お時間はございますか?」
「はい。お願いします」
「かしこまりました。当図書館では、本を閲覧するために、資格を取得して貰っております。理由と致しましては、閲覧に制限を掛けるためとなっております。資格は、全部で十段階ございます。エリア毎に分かれておりますので、誤って資格外の本を読んでしまう事はありませんのでご安心ください。こちらが、資格を証明するカードとなります」
受付のゴリマッチョは、そう言って免許証的な大きさのカードが机の上に二枚置いた。
「初期の資格に関しましては、試験不要となっております」
そう言われたので、アカリと一緒にカードを受け取る。
「カードを読み取り機に翳して頂ければ、扉が開く仕組みとなっております。ご自身の資格の範囲内でしたら、ご自由にご覧ください。続いて、十段階の資格を取得する方法についてご説明させて頂きます。資格の取得には、試験を受けて頂きます。試験の内容に関しましては、私の方から口外する事を禁じられておりますので、ご了承ください。受験には、毎回十万Gを頂く事になっております。そちらもご了承頂ければ幸いです」
受験して、資格の権限を上げていけば読める本が増えていく事になるみたい。それはそれで面白いけど、一々面倒くさいとも思ってしまう。
「何かご質問はございますか?」
「あ、試験に関して何ですけど、私達が内容を口外する事は可能ですか?」
「禁止とさせて頂いております」
「分かりました。アカリは?」
「私は、特にありません。質問が出来たら聞きに来ますね」
「かしこまりました。では、ごゆっくりご堪能下さい」
ゴリマッチョが扉を手で指した。私とアカリは、ゴリマッチョに頭を下げてから扉の方に向かう。扉の横には、円筒型の装置らしきものが置かれている。その上にカードを翳すと扉が開いた。
その中にアカリと一緒に入っていく。
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