第139話 魔導大図書館

 中に入った直後、私とアカリは、二人揃って脚を止めてしまった。その理由は、目の前の光景だった。本棚が大量に並んでいる。学校の図書室の倍ぐらいの大きさだ。そのくらいなら、立ち止まることはなかった。ただ大きいねって話だけで済むからだ。

 でも、そこに空を飛ぶ本があれば、一気に魔法の街の図書館って感じがして圧倒されてしまう。見たところ、管理人のような人はいないみたいだ。貴重そうな場所だし、受付にいたようなゴリマッチョがいてもおかしくないと思っていたのだけど、もしかしたら、そういう心配はないのかもしれない。


「凄いね……」


 溜めに溜めて、アカリから出て来た言葉は、その一言だけだった。でも、その気持ちは、私もよく分かる。


「読み終わった本が、自動で戻っていく感じかもね。勝手な持ち出しをしようとしても、勝手に戻るから、持ち出せないとかもあり得そう」


 管理人が、ここに常駐していない理由は、そこら辺にありそうだ。まぁ、仮に持ち出そうと外に出ても、受付のゴリマッチョに倒される気がするけど。


「取り敢えず、一周してみる? 本の種類とかも大雑把に調べておきたいでしょ?」

「だね。本の背表紙で種類を確認しつつ、【霊視】で見えるものがあるか探す感じかな。手分けで良い? 【霊視】の方は、ざっと見るだけでも大丈夫だろうから」

「分かった。じゃあ、左側から調べていくね」

「それじゃあ、私は右ね」


 アカリと手分けをするために、私は右側の本棚へと向かった。

 その本棚に置いてある本は、基本的に論文をまとめたような本ばかりだった。背表紙から読み取れる内容は、魔法に偏っているけど、錬金術や合成などに関する論文もいくつか見受けられた。


「論文を否定する論文みたいなのもある。まだ誰でも入れるような場所だし、ここら辺のものは外に出ても問題ない内容ばかりなんだろうなぁ。吸血鬼の論文とかもあれば良いのに」


 そんな独り言を口にしながら、探索を続けていった。本の背表紙と通路を見るだけなので、本棚の調査は、三十分くらいで終わった。結果、このエリアに【霊視】で発見出来るものはなかった。


「私の方は、魔法とか錬金術とかの論文ばかりだった」


 魔法が大半を占めていたけど、段々と錬金術に関するものや合成に関するものの論文が増えていった。私は、あまり興味がないけど、アカリにとっては、貴重な資料になると思う。


「そっちは?」

「こっちも魔法は多かったよ。でも、錬金術じゃなくて、モンスターに関する論文と鍛冶とかに関する論文も多かった。それとダンジョンについての本とか」

「ダンジョンについて?」


 ダンジョン自体、通常エリアの中で一度も入った事がないので、一体どんな本があるのか気になった。恐らくは、今回のアップデートで追加されたダンジョンの説明か、その情報が書かれているものと考えられる。


「うん。中は見てないから、まだ詳しい事は分からないけどね。こっちだよ」


 アカリに案内されて、ダンジョンの本が並ぶ本棚に着いた。本の数は、本棚二つ分くらいで、意外と多い。


「えっと……『ダンジョン【深き森の双頭犬】』『ダンジョン【拒み阻む沼地】』……他にもある。でも……」

「うん。同じ名前の本がいくつもあるんだよね」


 モンスターの本でも同じような名前の本は多くあった。それぞれの著者による考察などが書かれていて、かなり興味深い本になっていて、楽しく読めていた。

 でも、それはモンスターの本だから楽しく読めただけに過ぎない。これが、ダンジョン……場所などの本になると話は変わる。ダンジョンについて書かれているという事は、ダンジョンの情報が書かれているという事。

 でも、それが複数あるという事は、嘘の情報も混じっている可能性が高い。いや、嘘というのは失礼があるかもしれない。その人の勘違いなども本に含まれるという方が正しいと思う。


「一応、中身は読めるから、ダンジョンに行く前に情報を集める事は出来るけど、どれが正しい情報なんだろう?」

「モンスターの本と同じように、同じ内容の部分を抜き取るとかは?」


 モンスターの本を調べた時は、この方法で正しい情報を見つける事は出来た。でも、一つだけダンジョンとは違う事がある。それは、一度実際に戦った後でないと、モンスターの本は読めないという事だ。

 ダンジョンの方は、まだダンジョンに入っていないのに読める。この事から、ダンジョンは、そう簡単に攻略出来るものではない、もしくは、本を読まないと発見出来ないような隠しエリアがあるものと思われる。


「まぁ、それが堅いかな。ここには、机と椅子もしっかりとある事だし、ノートでも買って、まとめてみるかな。イベント後くらいになると思うけど」

「二週間後だっけ? まともに活動出来るのは、土日くらいだし、今日明日と来週である程度スキルを整えないとね。特にハクちゃんはね」

「そういう事。ここのモンスターのスキルの中にも欲しいものがあるかもしれないけど、そんな一気に増やしたら、レベル上げも追いつかないしね」


 私は、モンスターからスキルを獲得して、イベントまでに実用可能レベルまで上げる必要がある。それを考えると、ダンジョンについて調べている暇はない。

 双血剣になって、新しくなる自分の攻撃スタイルのためにも、上げておきたいスキルがあるし、双血剣自体にも慣れておきたいというのもある。血刃の双剣や血染めの短剣とは、また異なる武器だから、使い慣れた武器を扱うようにはいかない。師範との稽古で、重々思い知った。ここに【血液武装】なども入るのだから、余計にね。


「ここからはどうする? 私は、裏路地とか巡って、【霊視】ポイントを探しに行くけど」

「う~ん、イベントに備えて、レベル上げする。ハクちゃんも、やる気みたいだし、少しでも成長しておかないと」


 さっき私の戦闘を見たからか、アカリもレベル上げをしておきたくなったみたい。アカリはアカリで結構強いのだけどね。


「それじゃあ、またね」

「うん」


 私達は、魔導大図書館で別れた。私は、魔法都市の裏路地などを【霊視】で調べていく。各街に一つくらいはあると思っていたのだけど、魔法都市には、靄が一つもなかった。


「屋根に登って調べてみたけど、それでも発見出来ないって事は、図書館の中かな。どのエリアかによるけど、十段階目のエリアとかだったら道は遠いなぁ」


 【霊視】で発見出来るものは、進行中になっているクエストに関係するかもしれないので、出来るだけ調べておきたいのだけど、こればかりは仕方ない。まだ場所が分かっているツリータウンの方がマシだ。まぁ、いつ五階層に行けるか分からないけど。

 魔法都市を調べられる範囲で調べ終えた私は、イベントに向けて、スキルを集めるため、魔法都市を出た。【真祖】になって、確率が大きく上がったとはいえ、確実に獲得出来る保証はない。試行回数を増やして、一個一個確実に獲っていかないと。


「さてと、私も頑張らなくちゃね」


 やる気は十分だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る