第137話 アカリと一緒に魔法都市へ
ファーストタウンに転移すると、タイミング良くアカリからメッセージが届いた。そこに書かれていたのは、
『鞘が完成したから、都合の良い時に取りにきて』
との事だった。
「本当にタイミングが良いし、取りに行こっと」
魔法都市に移動する前に、アカリエに向かう。アカリエの中に入ると、受付で作業をしているアカリと眼が合った。
「ハクちゃん、いらっしゃい。はい、これ」
アカリは、すぐに新しい鞘が付けられたベルトをくれる。ベルトを交換して、双血剣を納める。伝えた通りに仕上げてくれたみたいで、双血剣にぴったりだった。
「ありがとう」
「ううん。でも、一気に印象が変わったね。いつもは双剣と短剣二つって異様な感じに見えてたし」
「でも、双剣は見えないようにしていたし、短剣二つだけしか見えなかったでしょ?」
「まぁね。知っている人からすると分かる感じだけど」
血姫の装具の外套の内側に入るようにしていたから、双剣を知っている人じゃないと、そこにある事に気付かないようになっていた。まぁ、抜いたら分かるけど。
「そういえば、アップデートの内容は読んだ?」
「読んだよ。さっき、ツリータウンの方に行ってきたところ」
「そうなんだ。じゃあ、まだ魔法都市には行ってない?」
「これから行くつもり」
「私も一緒に行って良い?」
「良いけど、店は?」
「注文の品は、全部出来てるから大丈夫」
「それじゃあ、行こうか」
こうして、魔法都市には、アカリと一緒に行くことになった。街の西側から外に出て、豪雨エリアへと向かう。私は、日傘を差したまま歩いていたけど、アカリは、豪雨エリアに入る直前に傘を差した。
「アカリも傘作ったんだ?」
「まぁ、モンスターに遭遇するまでは、混乱にならないでいられるからね」
魔法で攻撃をするのなら、ずっと傘を差していられるだろうけど、私やアカリは、接近戦を主とするスタイルなので、戦闘に入るとどうしても雨を浴びてしまう可能性が大きくなる。私は、他にも攻撃方法があるから、アカリよりマシって感じだ。
取り敢えず、蝙蝠を出して索敵をさせる。
「ハクちゃんの蝙蝠、初めて見たかも」
「そりゃそうでしょ。パーティーなんて、ほとんど組んでないんだし。そんな事言ったら、アカリに見せてないスキルは、結構あるよ」
「ハクちゃんは、びっくり箱みたいな存在になりそうだね。イベントでも、同じような反応しそう」
「イベントまでには、色々とスキルを用意するつもりではいるしね。そういえば、今回のアップデートで、生産系のスキルにも色々と要素が追加されたみたいだけど、どんな感じだった?」
アップデート内容に書かれていたので、ちょっと気になっていた事をアカリに訊く。
「う~ん……ちょっと難しくなったって感じかな。自由度が上がるって事は、それだけ自分で決める事が増えるって感じだから。まぁ、私からしたら嬉しいけどね」
「まぁ、アカリはそうか」
現実で服を自作しているアカリからすると、より現実に近づいたってだけで、特に影響はないみたい。
「私としては、鍛冶の方で自由を利かせるっていうのが難しいって感じ」
「鍛冶なんて、現実じゃやれない事だしね。本物の鍛冶師がゲームをしていたら、アカリと同じように考えるんじゃないかな」
「だと思う。そうだ。後、ハクちゃんが貸してくれてる本のおかげで、ちょっと面白い事が出来そうだよ」
アカリに貸したのは、合成生物と錬金生物に関する本だ。でも、アカリの話からすると、まだ完成には至っていないみたいだ。
「出来そうって事は、まだ出来はしないの?」
「うん。まだ難しいかな。素材の一つが見つからないから」
「ふ~ん……どんな素材??」
「モンスターの心系素材。なんとかの心っていう感じの素材」
「初耳だね。これからのアプデで追加されるとかかな?」
スライムの核とかならあるけど、心系の素材なんてものは一つも見た事がない。
「そういえば、ツリータウンに空き家がいっぱいあったけど、アカリは、そっちに移転するとかある?」
ちょっと気になっていたので、これも訊いてみる。
「ううん。アカリエは、ファーストタウンのままにするつもりだよ?」
「そうなんだ。なら、良かった」
「私がいなくなると寂しいって思ったの?」
「いや、ゲームからいなくなるわけじゃないから、寂しくはないけど、そういう予定があるなら知りたいなって思っただけ。かなりの数の空き家があって、沢山のお店が出来そうだったから」
「そうなんだ。今の店で繁盛しているから、突然移転するとかは、ほぼないかな。一応、ファーストタウンが、この世界の中心だしね。その内、中心が変わるかもだから、そうなったら移転するかな」
今後のアップデートで、大きな街とかが出て来たら、移転する感じかな。私としては、その時に知らせてくれれば、何も言うつもりはない。通っていた店が、いきなり閉店していたら悲しい気持ちになるし。
そんな話をしていると、蝙蝠が超音波を出した。
「モンスターだ」
「え?」
蝙蝠の行動範囲も広がって、今では四十メートルくらいになっている。ギリギリ【感知】の範囲外だから、アカリは感じ取れていない。ついでに、蝙蝠の超音波が聞こえるのは、私だけという検証も出来た。
「アカリは、傘を差したままで良いよ」
「大丈夫?」
「うん。もう分かるだろうけど、凄い勢いで近づいているから、狂乱桜だろうし」
私の予想通り、狂乱桜が走ってきた。【双天眼】を使っているからか、動きがよく分かる。デタラメな行動で、予測をさせにくくしているけど、よくよく見れば隙は多い。【操影】で身体を縛り、思いっきり蹴り飛ばす。影が引き千切れて、狂乱桜が吹っ飛んでいく。その最中に、【血液武装】で作った短剣を投げて、首に命中させて倒す。
「おぉ……」
アカリは、唖然としながら、こっちを見ていた。
「どうしたの?」
「いや……この前のイベントから、大きく変わったなぁって」
「まぁ、スキルも統合や進化で変わってるしね。ほら、行くよ。ジャイアントスライムの方が楽で良いんだけどなぁ。欲しいスキルもあるし」
「ジャイアントスライムの方が厄介なのに、ハクちゃんからしたら飲み物って事?」
「【真祖】になって、吸う速度も上がってるからね。アカリも取る?」
「ううん。取らない」
断固拒否された。まぁ、こればかりは仕方ない。
「そういえば、【真祖】は、何か調整が入ったのかな……? ここも検証しておいた方が良いか」
【吸血】の話になって、スキルの調整の話を思い出した。【真祖】とかも調整に組み込まれているか分からないけど、一応調べておいた方が良いとは思う。
後で、モンスターから血を吸おうと思っていると、アカリが首を出そうとしていた。
「いや、アカリからは吸わないから良いよ。【真祖】だと調整が難しいかもしれないし」
「え、そう? これが一番楽かなって思ったんだけど」
「楽は楽だけどね。誤って、アカリを倒しちゃうかもしれないのは、駄目」
「うん。分かった」
アカリが手伝ってくれるのは嬉しいし、ちゃんと検証出来るは出来るけど、【真祖】の吸血能力は、【吸血鬼】よりも強力なので、下手すると、本当に倒してしまう恐れがある。だから、人を使った検証は控える事にしていた。
「それよりも、そろそろ魔法都市だね」
「確かに、マップを見ると、もう見えても良いと思うんだけど……」
そう話しながら歩いていると、突然雨が止んだ。
「え?」
これにはアカリもびっくりしていた。声には出してないけど、私も驚いていた。
「ここって、雨男を倒す以外でも雨が止む事ってあるんだね」
「止むっていうより、無理矢理止ませているって感じがするかな。ちょうど街の範囲内だけだし」
「魔法の力で?」
「魔法都市だしね」
見たところ、街の見た目から魔法を感じる事はない。
「普通の街っぽいね」
「確かにね」
アカリは傘を閉じるけど、私は日が差しているので、日傘を差したままにしている。ある程度楽になってはいるけど、差していた方が楽なのは変わらない。
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