第136話 ツリータウン

 熱帯エリアに来た私は、マップを確認する。


「えっと……北東側だね。自動でマップが更新されて良かった」


 もう一度探索してマップを更新しないといけない可能性もあったけど、きちんとマップに街の場所が増えている。私は、そこに向かって一直線に走る。


「おっ……前より速くなってる。速さを上げるスキルが増えたからってのもあるけど、ステータス上昇系スキルの効果上昇が影響している感じかな」


 アップデートで上がったステータス上昇系スキルの効果上昇。これに関しては、走るよりもモンスターと戦った方がよく分かりそうだ。途中で現れたスローイングチンパンジーに向かって勢いよく突っ込む。また高速移動の速度が上がっている。

 でも、何だかいつもと違う。着地する場所に、どういう角度で入れば良いのか分かる。【双天眼】の効果が、ここでも現れている感じかな。スローイングチンパンジーの首に足先が突き刺さり、一撃で倒した。


「結構強くなってるかな。本格的に検証するなら、雨男と戦うのが一番だけど、正直嫌だなぁ」


 雨男と再戦するのは、まだやりたくないので、本格的な検証は後回しにした。そのまま走り続ける。


「【双天眼】の効果は、結構凄いかも。視界から入ってくる情報量が増えてる。これなら、長時間使用でのデメリットも頷けるかも」


 【双天眼】の利点は、双剣を装備しているだけでも発動する事が出来るというところだ。この装備というのは、手に持つという事では無く、身に着けるという事。だから、こうして鞘に納めていても発動する事が出来る。

 双血剣は、血刃の双剣の鞘に無理矢理納めている。だから、鞘を破って使用している事になっている。耐久値は、かなり低くなっていると思う。


「これも新調しないと。アカリには伝えておいたけど、ちゃんと出来るのかな。アカリは出来るって言ってたけど」


 アカリには、学校で情報を共有しておいた。新しい武器である双血剣を手に入れたから、その鞘を注文するためだ。その時、アカリは、


『了解。任せて! そのくらいなら作れるから!』


 と言っていたから、多分大丈夫なはず。

 そんなこんなで、ツリータウンが見えてきた。


「おぉ……」


 ツリータウンは、その場所だけ存在する異常に成長した木々を利用して、高いところに家を建てている街だった。ただ、地面に家を建ててもいるので、街全体が層構造になっている感じだ。街の大きさ的には、他の街と同じくらいなのだけど、層構造な分、ツリータウンの方が、探索範囲は広い。


「よし」


 霊峰の霊視鏡を掛けて、ツリータウンを歩く。なんて言えばいいのか分からないから、下から一階層って感じで呼んでいこう。ツリータウンは、全部で五階層になっている。四階層、五階層は、下三階層よりも小さくなっている。

 取り敢えず、それぞれの階層に何があるのかを調べていく。一階層には、大量の空き家があった。そのほとんどが店として利用可能な物件だった。ファーストタウンが手狭になってきたから、ここにも出店出来るようにしたのかな。

 木の周りに付けられた螺旋階段を上がっていき、二階層も調べる。すると、二階層も一階層と同じように空き家だらけだった。


「商業都市みたいにするのが目的かな。アカリやラングさんもこっちに引っ越したりするのかな。今度会った時に聞いてみよ」


 次に三階層へと向かう。三階層は、一、二階層と違って、ここには住人と思わしきNPCと探索に来たであろうプレイヤーが、沢山いた。一、二階層が何もないと知って、すぐに三階層目の探索に移ったのだと思う。


「うわっ……」


 人が多い場所で【双天眼】を使っているからか、ちょっと頭が圧迫されるような感覚がした。入ってくる情報が一気に増えたからだ。

 師範が常用するように言ったのは、こういうのに慣れさせるためというのもあったのかもしれない。一度深呼吸をして、身体と精神を落ち着けてから、探索を再開する。

 三階層にあったのは、NPC製武器と食品やアイテムの店、飲食店と普通の住宅だった。私は、その中で食品の店を覗く。


「果物は……流星フルーツと熱帯チェリーか。流星フルーツの方は、スターフルーツで、熱帯チェリーは……アセロラ? まぁいいや。取り敢えず買っておこう」


 口直しのためのフルーツを調達した私は、アイテム店の方を覗く。武器と防具とアクセサリーに関しては、アカリやラングさんがいるから覗く必要がない。


「アイテムは、あまり変わらないかな。怒りを抑える鎮静薬が置かれているくらい。これなら来る必要はないか」


 他のプレイヤーからしたら、回復アイテムの補充をファーストタウンに行かなくても出来るっていうメリットがあると思うけど、私には、血があるから問題ない。【真祖】を使って倒さなければ補充出来るし。

 他の店も大体同じ品揃えだった。


「アイテムの店がファーストタウンよりも増えてる? 何かしらの変化がありそう。まぁ、私には関係ないかもだけど」


 ワンオンでのNPC店は、基本複数ある。一気にプレイヤーが来たら、行列になるから、それを分散させるためだと思う。


「次は、四階層に行こっと」


 四階層に上がると、お店は一つもなく、住民の家が並んでいる。特に調べるような場所もないので、五層に目を向ける。五層は、四層よりもさらに小さくなっていて、下から見る限りでは、二、三軒しか建物がない。その代わり、一軒一軒が大きい。その内、一番大きな建物の前に【霊視】で見る事が出来る靄があった。


「人目が多いな」


 ここで【霊視】の効果を使うと、目撃者が多くなってしまうかもしれないので、固めないようにしながら五階層を目指す。すると、五階層の入口が、扉で塞がれていた。扉には、錠が掛けられていて、そこから先に行けないようになっている。

 取り敢えず、いつもの鍵を使おうとするけど、鍵穴に入らない。


「さすがに、そこまで万能じゃないか。ここから先の探索は、鍵を見つけるか、何かしらのクエストを受ける必要がある的な感じかな。細かいところの探索をしてから、魔法都市に移動しよっと」


 ツリータウンの家々の裏を見ていくけど、【霊視】に引っ掛かるものは一つもなかった。毎回毎回複数個あるとは限らないのか、五層目に集中しているのかもしれない。

 最後に、一番下からツリータウンを見上げる。


「……木登りをしたら、五層まで行け……る?」


 ツリータウンの支柱となっている樹を使えば、五階層まで上がれるかもしれないと思ったけど、支柱の樹は、四、五メートルくらいの太さがあって、そこまで節くれ立っていないので、かなり登りづらそう。


「それなら、あの扉を跳び越える方が楽かな。やったら、どうなるか分からないけど」


 システム的に妨害されるか、NPC達から追いかけ回されるか、ツリータウンを出禁になるか。色々と考えられる事はある。だから、あそこを通る時は、正々堂々と通った方が良い。私の中では、そういう結論に落ち着いた。


「さてと、魔法都市、魔法都市」


 私は、もう一つの追加された街である魔法都市に向かうため、ファーストタウンに転移した。

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