第133話 双剣の極意

 武器の説明が終わったところで、急にラングさんが罰の悪そうな表情になる。


「ただ、一つ謝らないといけない事がある」

「謝らないといけないですか?」


 ここまで良い仕事をしてくれたのに、謝罪を受けないといけない理由が分からない。


「ああ。嬢ちゃんから貰った竜の素材をふんだんに使って、他にも色々と用意していった結果、百二十万Gになった……」

「あっ、値段の話ですか」


 竜の素材の値段じゃなくて、追加で色々と購入して作ってくれた部分で大きく嵩んだって事だと思う。


「全然だいじょう……ぶ……ですよ」

「そのわりには、歯切れが悪いな……分割にするか?」


 ラングさんが魅力的な提案をしてくれる。歯切れが悪くなったけど、貯金が大きく減る事に気付いたからであって、払えないという事はない。


「いえ、一括で払います。思えば、装備くらいにしか出費がありませんから」

「ん? ああ、嬢ちゃんは血で回復出来るからか」


 そう。皆がお金を払って買う消耗品である回復薬を、血で賄える私は買う必要がない。状態異常を回復する薬は買わないといけないけど、数を揃える必要がないので、大きな出費にはならない。だから、貯金が貯まっていても、装備以外に使うものがない。


「嬢ちゃんは、プレイヤーホームを買うつもりはないのか?」

「う~ん……特に困る事はないですしね」

「意外と便利というか、落ち着くものだぞ。俺も工房に籠もってばっかでいるよりも、一旦帰ってみた方が良いアイデアが出る事がある」

「それは確かに……」


 ラングさんの言う事は分かる。誰も来る心配がない空間は、考え事をするのに打って付けだ。今の私は、そういう考察を色々としないといけないから、あったら良いくらいには思うかも。


「今の相場だと、最低が五百万、最高が百億だな。ただ、五百万の方は、あまり勧めない。かなりボロいからな。そういう面を考えれば、最低でも七百万あった方が良いな」

「おおう……」

「嬢ちゃんなら、一月くらいで稼げるだろう。市場の相場を確認して、高額素材を狙えばの話だけどな」

「大分飽和してきた感じですか?」


 プレイヤーも増えているし、素材の需要と供給のバランスが、少し変わってきているはずだ。実際、スライムの核の売値は下がってきている。主に私のせいで。自業自得である。


「レア素材の値段は、変わっていないものが多いが、普通に出て来るモンスターの値段は下がっているな」

「なるほど。レアモンスターの素材ですか……」

「難しいが、通常のモンスターの素材でも数を揃えれば良いだけだ。鱗や甲羅、武器系のドロップなら、俺のところに持ってくれば、買い取ってやるぞ」


 変わらない相場で買い取ってくれるって事かな。それは有り難い。


「分かりました。手に入れたら、売りに来ますね。それじゃあ、武器ありがとうございました」

「おう。気をつけてな」


 支払いを済ませて、双血剣を受け取った私は、まっすぐ双刀の隠れ里に向かった。一旦スキルの装備を変える。


────────────────────────


ハク:【武芸百般Lv3】【短剣Lv61】【双剣Lv50】【武闘術Lv18】【真祖Lv23】【血液武装Lv24】【操影Lv17】【使役(蝙蝠)Lv29】【執行者Lv66】【剛力Lv43】【豪腕Lv58】【豪脚Lv37】【駿足Lv33】【防鱗Lv14】【未来視Lv3】

控え:【剣Lv65】【魔法才能Lv46】【水魔法才能Lv8】【支援魔法才能Lv45】【HP強化Lv63】【MP強化Lv20】【物理攻撃強化Lv64】【物理防御強化Lv36】【魔法防御強化Lv26】【神脚Lv43】【器用さ強化Lv30】【運強化Lv55】【視覚強化Lv33】【聴覚強化Lv43】【腕力強化Lv13】【毒耐性Lv25】【麻痺耐性Lv6】【呪い耐性Lv1】【沈黙耐性Lv4】【暗闇耐性Lv1】【怒り耐性Lv5】【眠り耐性Lv1】【混乱耐性Lv23】【気絶耐性Lv1】【消化促進Lv53】【竜血Lv35】【登山Lv6】【毒霧Lv2】【毒液Lv2】【捕食Lv17】【狂気Lv5】【擬態Lv10】【夜霧Lv18】【言語学Lv42】【感知Lv37】

SP:251


────────────────────────


 【剣】を育てる必要は、今のところないので、【武芸百般】を装備している。それと、これからする事に【感知】も役に立たないので、【未来視】を入れてみた。これを使えるかどうかは分からないけど、極限状態では、突破口になる可能性を秘めている。逆に、地獄への切符になる可能性も秘めているけど。

 師範の家に来て、ノックする。すると、すぐに扉が開いた。


「また遅かったな」

「武器を新調していまして」

「なるほどな。それならちょうどいいかもしれないな」

「?」


 師範は、指だけで付いてくるように促してくる。そんな師範に付いていって、いつもの道場にくる。そして、いつも通り、私と向き合って立つ。


「お前に双剣の極意を教えよう」

「……良いんですか?」


 最近色々あって、すっかり忘れていたとは言えない。そういえば、知りたくなったら来いって言われていたっけ。レベルが関係するだろうと思って、まだ駄目だなって考えていたはず。


「それに値する。最近、成長していないんじゃないか?」

「成長……」


 武器の新調に合わせて、双剣自体使わなくなったから気付かなかったけど、もしかしたら、【双剣】のレベルが限界に達していたのかもしれない。【双剣】みたいに、収得方法が特殊なスキルには、一定レベルで制限を掛けられて、極意を教わらないと成長出来ないとかがあるのかもしれない。


「お前には見所がある。ここで止まるような半端ものではないだろう」

「はい。お願いします」


 レベルが上がらなくなるのは困るので、ここは師範の教えを受けよう。


「では、構えろ!」

「えっ!? 実戦!?」


 驚きつつも、すぐに双剣を抜いてしまうのは、師範との稽古の成果かもしれない。こうして、双血剣を構えて気付くことがあった。それは、刀身の長さについてだった。血刃の双剣の時、短かった刀身が、血染めの短剣くらいになっている。これだけでも十分に戦えるようにしてくれている。短剣だけとしても使う事になるから、そこら辺を配慮してくれたのだと思う。

 そんな事を想っていると、師範が急に目の前に現れた。放たれる鋭い突きを、反射的に、双剣を交差して防ぐ。


「惚けている場合か!!」

「す、すみません!!」


 師範の縦横無尽の攻撃を防ぎ続ける。目で見ているだけでは追いつけない。いつもの嫌な予感すら働く暇のない攻撃は、私の防御をすり抜けて、何度も攻撃を受ける事になる。


「視界全体から情報を拾え! 攻撃の起点! 陽動の見極め! 全てを瞬時に行え!」

「は、はい!」


 普段の稽古と違って、滅茶苦茶指摘が入る。恐らくこの目の使い方が極意なのかな。言われた通りにやろうとしているけど、師範の攻撃速度がいつもよりも速すぎて、受け止めきれない。

 HPが一割になった瞬間、師範の攻撃が止まった。


「休憩にする」

「はい……」


 フレ姉やゲルダさんとした修行とは、別の厳しさがある。攻撃に移行出来ない連撃。双血剣の慣らしを込めて、稽古に来たけど、それどころじゃなかった。まだマシだったのは、刀身が血刃の双剣よりも伸びている事だった。これがなかったら、もっと早く削られていたかもしれない。

 血を飲んで回復しながら、何か良い方法はないか考える。解決方法で考えられるのは、【未来視】だけど、あの連撃の軌道を事前に見たとしても、身体が追いつかないと思う。だから、師範の言う通り、攻撃の起点からどういう軌道を描くかを見抜くのが一番という結論になる。

 そもそもそんな事が出来ればの話だけど。


「よし、再開だ」


 HPが回復しきったところで、師範からそう言われる。


「はい」


 双剣の極意を得るための稽古が再開する。今日中に会得出来るのかな。そんな漠然とした不安を持ちながら、私は師範に挑む。

 都合四回目の休憩。段々と生き残る時間は延びているのだけど、まだ師範からの合格は貰えていない。


「ふむ。今日はこれくらいにしておくとしよう」

「はい……」


 結局、今日中に極意を会得する事は出来なかった。そう簡単に会得出来るものではないみたいだ。


「動きは良くなっている。精進しろ」

「はい」


 そこで道場から出てログアウトした。双血剣の慣らしは、次の土曜日に回して、明日も師範のところに通う事にする。なるべく早く極意を会得したいから。

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