第132話 私の新しい相棒

 息抜きの一日から四日後。ラングさんからメッセージが来た。


『武器が出来た。平日なら二十時から二十二時の間に取りにきてくれ。色々と説明した方が良いからな』


 新しくなった武器に関して説明もしたいから、指定の時間内で取りに来るようにという事だった。あれから何度かメッセージでやり取りをして、武器について色々と詰めていた。だから、一応、ラングさんも【武芸百般】について知っている。【双剣】とかが広まっていない時点で、ラングさんが不用意に話を広げる事はないはずなので、問題ないだろうと判断した。


「何だろう? ちょうどいいから取りに行こっと」


 ちょうど指定の時間内なので、ラングさんのところに向かう。店内に入ると、NPCが立っていたので、ラングさんを呼んで貰う。

 ラングさんは片手をあげながら出て来た。


「おう。早いな」

「ちょうどログインしていたので」

「まぁ、早い事には越した事はないからな。ちょっと待ってな」


 ラングさんは、一度裏に入ってから、手に武器を持って戻ってきた。その武器を見た私は、少しだけ目を丸くしてしまう。その理由は、双剣の刀身にあった。それぞれの刀身の色が違っていて、黒と白の刀身になっている。


「まず一つ。これが、本来あるべき双剣の姿だ」

「本来あるべき?」


 どういう事なのか分からず首を傾げる。


「正確に言えば、このゲームにおいてだがな。双剣は、二本一対の武器の一つだ。だが、この二本が完全に同一の造形である必要はない」

「えっと……それだったら、血染めの短剣とツイストダガーみたいな形にも出来ると?」

「いや、そこまで形が変わると駄目だな。短剣が二つという風に扱われる。双剣として扱うには、ある程度までは繋がりが必要になる。出来ても、刀身の大きさを変えるところまでだな」


 そうなれば、刀身の色を変えるくらいは、問題ないという事かな。血刃の双剣のように、完全に同じものじゃなくて良いっていうのは理解した。


「まぁ、形に関する制限はあるが、本題は二つ目にある。それは、一本ずつ違う特性を持たせられるという事だ」

「へぇ~」

「その顔は、何も分かってないな」


 ラングさんから呆れたような視線を受ける。

 ラングさんも失礼だ。私にだって、どういう事か理解は出来ている。つまり、片方ずつ血染めの短剣とツイストダガーの特性を持たせられるという事だろう。


「良いか。武器自体に特性を持たせるってのは、追加効果を付ける事で成り立たせている。つまり、追加効果がなければ、武器に特性なんてものはない。ここら辺は、生産職でやっているプレイヤーにしか分からない部分だな」

「ほう」


 それなら、アカリに訊いたら同じように教えてくれるかもしれない。まぁ、ラングさんが嘘を言っているとは思ってないけど。


「ここまで聞けば分かるだろう。双剣は、一本一本に違う追加効果を付けられる。現状、他の武器にはない特徴を持っているという事だ。そして、これが嬢ちゃんの武器だ。双血剣という名前になった」

「おお、短いですね」

「そうだな。まぁ、短くまとめたのにも理由がある。こいつらは、一本一本にも名前が付いている。白い方は双血剣『白百合』。黒い方は双血剣『黒百合』という名前だ。白百合の方に血染めの短剣、黒百合の方にツイストダガー、血刃の双剣は、両方に使っている。因みに、血刃の双剣の機構は、そのまま組み込んでいる。自傷は可能だ」


 元々の私の武器が、受け継がれている。それは、純粋に嬉しい。


「それともう一つの機構だが、正直使い勝手は良くないかもしれん」

「まぁ、そこは慣れますよ」


 ちょっとした説明も終わったので、武器の追加効果を確認する。


────────────────────────


双血剣『白百合』:全てを打ち消すような眩く白い刀身を持つ短剣。刀身に血晶石が融け込んでいる。柄には、百合の花と牙の意匠が彫られている。【攻撃力上昇++】【HP吸収+】【MP吸収+】【形状変化(血液)】【退魔】【修復】【共鳴】


双血剣『黒百合』:全てを飲み込むような深く黒い刀身を持つ短剣。刀身に血晶石が融け込んでいる。柄には、百合の花と蝙蝠の意匠が彫られている。【攻撃力上昇++】【状態異常確率上昇(出血)++】【形状変化(血液)】【焔血】【修復】【竜鱗】【霊気】【共鳴】


────────────────────────


 追加効果が七つも付いている。アカリよりも一歩上の実力って感じかな。アカリは、色々なものに手を出しているけど、ラングさんは鍛冶一筋だしね。


「えっと……」

「心配すんな。全部説明する。まず【退魔】だが、【霊気】と同じく実体のない相手を斬る事が出来る。だが、これにはそれだけじゃなく、魔法も斬る事が出来る効果がある。ただ、耐久力を消費するから、無闇矢鱈に斬るのは勧めない。まぁ、それを解決するための【修復】だ。MPを消費する事によって、武器の耐久力を回復する。それを円滑に出来るようにするための【MP吸収】だ。ただ、【HP吸収】の方と同じく、吸収出来る量は少ない。次は、【焔血】だ。これは、剣に付着した血が燃える」

「燃える?」

「ああ、文字通り燃える。炎属性的な感じだな。【共鳴】と同じで、自動で発動するわけじゃないから、そこは安心しろ。普通は、血が付くことはないから、嬢ちゃん専用追加効果だな」

「へぇ~、そんな追加効果を付けられる素材があるんですね」


 私が戦った事のあるモンスターは、そんな感じの事をしてきた事はないから、レアモンスターとかかな。


「まぁな。錬金術で作られた素材から得たものだ」

「あっ、錬金……なるほど」


 完全見当違いだった。錬金によって出来た素材だとすると、私には気付きようもない。というか、そういうものでも、ここまで良い効果があるとなると、軽視は出来ないスキルだ。アカリもここら辺に気付いて、自分で調達出来るように取ったっていうのもあるのかもしれない。


「最後に、【形状変化(血液)】だ。これは、血液に反応して、刀身の形状が変わる。さっき言った機構が、これになる」

「これが使い勝手が悪いかもしれないんですか?」

「ああ、【形状変化】は、名前の響きは良いが、しっかりとイメージしないと、安定した形状にならない。戦闘中に、瞬時に意識を割けるかが鍵になる」

「なるほど」


 戦闘中に、想像力を働かせないといけないのは、ちょっと難しいかもしれない。これは、本当に慣れが必要そうだ。他にも色々と変わっているから、イベントまでに、頑張って練習しよう。

 取り敢えず、双血剣の一通りの説明が終わった。そこで、一つ武器の性能に関係ない質問を思い付いた。


「そういえば、どうして百合なんですか?」


 恐らくラングさん自身で付けているものなので、由来を訊いてみた。


「どうせだから、意味を持たせようと思ってな。黒百合の花言葉が呪いっていうんでそう決めたんだ。白百合の方は、ただそこに合わせただけだな」

「なるほど。そのわりに、呪いの効果は付けなかったんですね?」

「嬢ちゃんのスタイルだと要らないだろ」

「まぁ、そうですね」


 私に必要なのは、出血であって呪いじゃない。それに、白百合の方でMPを奪えるから、ある意味呪いの効果はあるし良いか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る