第131話 良い息抜き
そして、再びログインしてきた私は、アク姉の家に向かう。ノックすると、すぐにアク姉が扉を開けて中に引っ張り込まれる。
「いらっしゃい! それで、その魔法に関するものって何?」
リビングまで運ばれながら訊かれる。リビングには、アク姉の他にメイティさんとアメスさんがいて、メイティさんがウクレレみたいな楽器を弾いていた。何だか癒される音楽が奏でられている。
そんな中でソファに座ったアク姉の膝の間に座らされる。
「これ」
アク姉に『大規模魔法陣形成』の本を渡す。
「おぅ……」
本を見たアク姉は、何とも言えない声を出してからパラパラとページを捲っていく。
「読めない……」
「レベル上げ頑張って」
私から言えるのは、それだけだ。自分で読まないと、スキル収得に繋がらないだろうし。アク姉が絶望していると、アメスさんがアク姉から本を取り上げた。
「何これ? ハクちゃんのお土産?」
「はい。アク姉にとって良いスキルが手に入ると思ったので、お裾分けです」
「アクアにとって? 私とメイティも魔法職だけど……って、なるほどね。攻撃魔法に使えるものだから、メイティには使えないし、連射を主にしている私にも微妙な技術ね。あっ、スキルが取れるようになってる。大規模魔法の連射って、出来るのかしら?」
「どうでしょう? 魔力の消費がエグそうですけど……」
【大規模魔法才能】で使える魔法が、どんなものか分からないので、はっきりとした事は言えないけど、さすがに、連射となると魔力の消費が心配になる。
「まぁ、気が向いたら取るわ。アクアは、これが読めるようになるまでレベル上げしなさい」
「はぁ……めんどい……」
「結構良い情報取れるよ。モンスターのスキルとか」
「そういえば、あったわね。確かに、【吸血鬼】持ちのハクちゃんにとっては、良い情報ね」
「あっ、進化して【真祖】になりました」
アメスさんやメイティさんには報告していなかったので、二人とも驚いた顔をしていた。
「二段進化ね……色々と改善したのかしら?」
「なんとステータス低下が四割になって、夜には強化されるようになりました」
「おぉ、一割の差も大きいだろうし、良かったね」
メイティさんは演奏しながらも、普通に会話していた。
「はい。あっ、一応、これも読みます? 召喚魔法が使えるようになりますよ」
アメスさんが『大規模魔法陣形成』を読んでいるのを見て、こっちも読んだ方が良いかなと思い、『召喚獣概論』の本をアメスさんに渡す。
「召喚魔法? 『召喚獣概論』……ふ~ん……なるほどねぇ」
「面白い?」
「検証が必要ね。実戦でどこまで使えるのかは調べないといけないわ。召喚獣よりも魔法が強かったら意味がないから。触媒ってのも探さないといけないし、色々と扱いが難しそうね。アクアかメイティが使うのが良いと思うわ」
大きな隙を晒す可能性とアメスさんの連射という特徴から、アク姉かメイティさんが使うのが良いって判断したみたい。
「これもあった方が良いですよね」
召喚魔法を使うってなったら、触媒が必要になるので、『召喚触媒一覧』をアメスさんに渡す。
「こんなものまで……どこで見つけたのかしら?」
「地下道で見つけました」
「地下道……?」
アメスさんは首を傾げる。そこに、演奏を止めたメイティさんが会話に入った。
「前に広場で騒いでいたあれだと思う。突然見つかったって話だったけど、ハクちゃんが関わってるの?」
「見つけたのは、私とゲルダさんですからね。最初に関わったって感じです」
「やっぱり、第一発見者は他にいたんだ。でも、よく見つけられたね?」
「これを使ったんです」
メイティさんに霊峰の霊視鏡を渡す。
「【霊視】?」
「はい。霊峰の支配竜の素材から付けられた追加効果です。見えないものを見て、形を与える効果があります。それで色々と形を作っていたら、地下道を見つけるに至ったって感じです」
途中色々と省いているけど、大体合っているはず。
「そういう事。じゃあ、あれもそういう事ね」
メイティさんは納得しながら、眼鏡を返してくれる。ただ、一つ気になる事があった。
「あれって何ですか?」
あれもそういう事と納得されても、私にあれが分からない。
「地下道の探索を独り占めにしているプレイヤーがいるって、騒いでいるって話があったから」
「あっ、ゲルダさんからも聞きました。ちょっと面倒くさい事になっちゃっているみたいですね」
「ハクちゃん、また変な事に巻き込まれてるの?」
アク姉が後ろから抱きしめながら、そう訊いてくる。
「巻き込まれているってか、中心人物だよ」
私が無視した事が原因だから、巻き込まれたというよりも、私が中心にいるという方が正しい。
「このゲームだと、ハクちゃんはトラブル体質みたいになるね」
「スキル構成が異質だからかな。【吸血】を育てている人が少ないだろうし。他の人と違うから、他と違う情報や物を手に入れられるって事だし」
「いや、今回の原因は、【霊視】だから、【吸血】は関係ないでしょ。それに最初のトラブルも始めたばかりで、パーティーを断られたっていう私怨からなわけだし、ハクが原因の体質ってよりは、向こうが勝手に恨んでるだけよ」
「アメスの言う通り、何かあったら、また呼んでね。そうしたら、どうにかするから」
仮に何かあった時、私一人だけの通報だけじゃ、すぐに対応してくれるか分からないし、そう言ってくれるのは嬉しい。でも、その分申し訳なさもある。
「別に気にしないで良いわよ。こっちだって、ハクちゃんから色々と貰っているわけだし。友人が困っていたら、助けるのは普通でしょ?」
アメスさんは、私の頭を撫でながらそう言う。色々っていうのは、情報とか、さっき渡した本とかの事だ。それで、助けになっているのか分からないけど。
「そういえば、ハクちゃんは、次のイベントに参加するのよね?」
突然話題が変わった。このまま話し続けても、ネガティブな方向に行くだけだったからかな。
「はい」
「今更だけど、良かったの? 敵になる相手を強化するようなものよ? イベント後でも、良かったと思うけれど」
確かに、『大規模魔法陣形成』や『召喚獣概論』は、スキル収得に必要なものだし、アク姉やアメスさんが取ったら、厄介な相手になるのは確実。まぁ、アク姉は、ちゃんと戦ってくれないと思うけど。
「全然大丈夫です。せっかくだから、共有しておきたいって思っただけですから」
イベントで何をしてでも優勝したいってわけじゃないし、仮にこれで負けても恨みはしない。大体の理論は、頭に入っているから、対策出来ないわけでもないしね。
「そう? なら良いけど」
「はい。ところで、さっきのメイティさんの音楽って、【演奏】を使ってるんですか?」
スキルとしてあるのは知っているけど、実際に見るのは初めてなので、ちょっと気になっていた。
「そうだよ。ギターとかヴァイオリンとかフルートとかキーボードとかもあるよ。一緒にやる?」
「出来るんですか?」
「補正が掛かるのと、ちょっとしたバフが掛かるくらいだから、ほとんど関係ないよ」
メイティさんがキーボードを取り出すので、そっちに移動する。さすがに、ここでアク姉が解放してくれないという事はなかった。メイティさんに教わりながら、キーボードを演奏していく。
アク姉が家にいた頃とかに、メイティさんに教わりながら演奏をした記憶が蘇ってくる。まだ三ヶ月くらいしか経っていないのに、随分懐かしい感じがする。
ちょっとした懐かしさを感じながら、夜が更けていく。昨日の濃厚な一日とは逆に、今日は、ほのぼのとした雰囲気で過ごす事が出来て、良い息抜きになった。
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