第130話 地下道で見つけた本
昨日は、かなり濃い一日だった。雨男を倒してから、フレ姉達と考察、地下道の探索。整理してみると、そこまで濃く無さそうに思えるけど、雨男戦がかなり濃い。あそこで、かなり消耗したのは事実だ。そういう事もあって、雨男との再戦は控える。
そういう事もあって、今日は図書館で読書三昧して過ごす事にした。図書館の三階で、モンスターの本と地図を読んで、色々と復習などをしていた。どのスキルがイベントで使えそうか、熱帯の地図から地下道に繋がる場所はどこになるかとか、考える事や調べる事は多い。
特に後者に関しては、昨日私が出た場所や紙束と地下道の地図から推測は出来た。ただ、そこを調べる事が出来ないので、確かめようがないのが痛い。
「時間のある時に、ゲルダさんに頼もうかな」
そんな呟きの直後、メッセージが飛んできた。
『地下道についての連絡ありがとう。やっぱり、【霊視】関連だったみたいで、すっきりした。こっちでも、色々調べてみたけど、普通に分かる範囲では、ハクが見つけた謎を解き明かす事は出来そうにない。それと、嫌な噂を聞いたけど、地下道の探索を独り占めにしているプレイヤーがいるっていう内容だけど、これって、ハクの事でしょ? 迷惑行為でBANされるからするプレイヤーはいないと思うけど、気を付けなさい』
どうやら昨日の出来事を掲示板か何かで広めている人がいるみたい。多分、あのうるさい人かな。この前の迷惑プレイヤーBAN事件があったから、直接的に何かをしてくる人はいないはず。
「やってくるとしたら、イベント中かな。正々堂々とPKが出来るわけだし。また面倒くさい事になりそう……」
どうしようもないので、このまま放っておくことにする。実害が出ているわけじゃないから、運営に報告しようにも出来ないし。
それから本を読み続けて、レベル上げを続けていると、不意にフレンド通信が掛かってきた。ラングさんからだ。
「もしもし」
『ラングだ。急に掛けて悪いな。嬢ちゃんに、一つ提案があるんだが、聞いてくれるか?』
「提案……っていうと、武器の事ですよね?」
『ああ、その通りだ。実は、武器を作る上で、紐付けと呼ばれる機能があるんだが、簡単に説明すると、一つの武器を複数のスキルに対応させるというものだ』
「はぁ……」
分かるような分からないような感じだ。今の状態でも、血染めの短剣は【剣】と【短剣】に、血刃の双剣は【剣】と【双剣】に対応している。
『最近使えるようになってな。普通は使わなくても良い機能なんだが、双剣を扱おうとしたら、【短剣】と【双剣】を紐付け出来るという風に出て来た。つまり、血刃の双剣で、【短剣】の恩恵も得られ、技も使えるという事になる。意味ないと思っていたが、こういう時に使われるものなんだろうな。これから先は、使う事が増えそうだ』
「なるほど……逆に、血染めの短剣とツイストダガーに【双剣】との紐付けをする事は出来ないですか?」
『無理だな。短剣を双剣扱いは出来ない』
双剣を短剣として扱う事は出来るけど、短剣を双剣として扱う事は出来ないみたい。【短剣】の上位に【双剣】が位置しているから、【双剣】の方を繋げる事が出来るって感じかな。
これは、少し迷う。仮に血刃の双剣に紐付けを行う場合、血染めの短剣とツイストダガーを使う意味が無くなってしまう。
「血染めの短剣とツイストダガーって、どうなりますか?」
『そのまま使っても良いが、血刃の双剣も合わせて、三つで新しい武器を作る事も出来る。嬢ちゃんから預かっている素材もあるからな。良い武器には仕上げられるだろう』
「なるほど……」
結構迷う。用途別だったり、色々と考えてはいたけど、双剣を短剣と同様に扱えるようになるというのなら、態々分ける必要もなくなる気がする。私には、【武芸百般】と【血液武装】という組み合わせもある事だし、せっかくだから双剣一本にしてもらうのが良いかもしれない。
「それじゃあ、新しい武器で、紐付けをお願いします」
『了解だ。そうなると、今日中に完成は無理だな。明日以降出来上がり次第、メッセージを送る』
「お願いします」
『おう。それじゃあな』
そう言って、ラングさんは通信を切った。これから、私の新しい武器を作るために、色々と吟味するのかな。まぁ、絶対に良いものを作ってくれるから、期待して待っていよう。
「あっ、そうだ。【武芸百般】のおかげで、日傘も武器として使える訳だし、こっちも本格的にアカリに強化して貰おっと」
一旦、図書館を後にして、アカリエに向かう。すると、ちょうどアカリが受付で接客しているところだった。お客さんは、メイティさんだった。
「こんにちは、メイティさん」
「ハクちゃん、こんにちは。アカリちゃんに用事?」
「はい。あっ、でも、メイティさん優先で良いですよ。先に来ていたお客さんですから」
「ありがとう」
メイティさんはお礼を言いながら、頭を撫でてくれる。
「それじゃあ、防具の強化をお願いね。方向性は、いつも通りで」
「はい。分かりました。明日の夜までに仕上げますね」
「ありがとう」
メイティさんは、アカリの頭を撫でてから帰って行った。防具の強化を頼んでいたけど、代わりの防具も持っているのかな。私みたいな普段着的なものは着てなくて、防具として使えそうなものだった。
「メイティさんって、防具二つ持ち?」
「うん。というか、私のお店を使う人は、大体二つ持ちだよ。直している間に、使えないと困るからね。ハクちゃんも二つ目作る?」
「う~ん……今はいいや。これ気に入ってるし」
「ふふ、ありがとう」
アカリは嬉しそうに笑いながらそう言う。
「それはそうと、何か用事があったんでしょ? 何?」
「ああ、そうだった。日傘をより実用性高くして欲しいんだけど出来る?」
「戦闘力を持たせたいんだね。うん。任せて」
「ありがとう。それじゃあ、またね」
「もう行っちゃうの?」
アカリが、少し寂しそうな表情をする。最近は、アカリエに来たら、ちょっと居座る事が多かったから、そういう気持ちになるのかもしれない。でも、私も色々としたい事があるから仕方ない。
「イベントに備えてレベル上げをしたいからね……って、そうだ! もう一つ用事があったんだった」
図書館に戻ろうと思った時に、一つ思い出した事があった。それは、地下道で見つけた本達の事だった。
「この本って、読んだことある?」
私は、地下道で見つけた概論系の本を取り出す。アカリは、本の表紙を見ていく。
「ううん。『錬金術概論』『合成概論』は読んだことあるけど、『錬金生物概論』『合成生物概論』『召喚獣概論』『召喚触媒一覧』『大規模魔法陣形成』はないかな。ねぇ、この『錬金生物概論』と『合成生物概論』だけでも借りて良い? ちょっと気になって」
「良いよ。そのつもりだったし。他のは要らない?」
「うん。魔法は使わないからね」
「了解。それじゃあ、またね」
「うん。またね」
今度は、アカリも引き留めようとしなかった。今は、本に夢中みたいだ。【錬金】と【合成】持ちとしては、しっかりと読みたいところ何だと思う。
「私も他の本をじっくり読もうかな……」
アカリエを出て、図書館に戻った私は、『召喚獣概論』から読んでいく。
召喚獣は、魔法の一つである召喚魔法で喚び出される存在。常に付き従うのではなく、恩恵を与えたら消える。恩恵は、攻撃から支援まで幅広い。
召喚魔法の使用には、触媒が必要で、喚び出す召喚獣によって触媒は異なる。召喚に使った触媒は、消費される。
簡単に言うとこんな感じの事が書かれていた。かなり薄い本だったけど、最低限分かるくらいには書かれているので、それは有り難かった。
「あっ、【召喚魔法才能】が追加された。本を読んで知識を得る事が条件か。じゃあ、『大規模魔法陣形成』はどうなんだろう?」
私は、次に『大規模魔法陣形成』の本を取り出して、読んでみる。
こっちは、先に魔法理論系の本を読んでおかないと理解しきれない内容だった。簡単に言えば、込める魔力を上げて、魔法陣を広げる事で威力を高める方法と、大きな魔法陣を必要する魔法に関して書かれていた。
「【魔法陣理論】と【大規模魔法才能】が追加された。これは……魔法職の装備欄を圧迫するスキルが増える感じだなぁ……アク姉にあげよっと」
幸いレベルは低いけど、アク姉も【言語学】を持っている。時間が掛かるかもしれないけど、収得は出来るはず。アク姉にメッセージを送ると、今日の夜にアク姉の家で会う事になった。そこから夕飯まで図書館でレベル上げをしてからログアウトする。
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