第129話 謎スパイラル

 奥へと進んでいくと、変な部屋に着いた。そこには、机と椅子と棚、そして、大量の資料が散らばっていた。


「これも読めない……って、いやいや、その前にここについてだよ。紙束にも記載がない。この計画書みたいなのは、組織で作ったものなのか、個人が作ったものなのか……取り敢えず、ここら辺の資料は回収しておこう」


 資料を回収していくと、机の下に靄を発見した。取り敢えず、固めると、出来上がったのはペンだった。文字的なものが彫られているけど、これも読めない。


「これもコイン系かな。謎が謎を呼ぶ……う~ん……本格的に【言語学】に集中した方が良さそう……でも、イベントに備えてスキルを揃えておきたいし……悩むなぁ」


 資料を一枚一枚確認して、図が描かれているものを探す。現状、図しか情報にならないから。


「文字ばかり……それに、色々黒塗りだったり、射線だったりが引かれてる。計画書の素案? 何にせよ、自分の頭の中を整理していたような感じがする」


 資料を集めていると、資料に埋もれていくつかの本があることにも気付いた。


「あれ? これは読める」


 表紙に書かれていた題名は、『錬金術概論』『合成概論』『錬金生物概論』『合成生物概論』『召喚獣概論』『召喚触媒一覧』『大規模魔法陣形成』といったものだった。


「概論多っ!? 広く浅く調べてたのかな? 置いていったって事は要らないって事だろうし、詳しい資料は持っていったとかも考えられるか。アカリに見せて、見た事があるか訊いてみようっと」


 全部の資料を集め終えたので、もう一度部屋を一回りして、見落としがないか確認してから、後にする。そして、壁を開けるために、また【操影】で探る。


「もう少し、影に感覚が欲しい……う~ん……おっ……開いた」


 さっきより時間が掛かったけど、何とか壁を開くことが出来た。身体を伸ばしつつ、さっきの大きな空間に出た。そして、次はどこに行こうかと紙束を見ていた私は、つい落とし穴のことを忘れていた。身体に浮遊感が生まれて、落とし穴に気付く。


「あっ……」


 さっきと同じように硬質化と【防鱗】で防御を固めて、槍の隙間に落ちる。


「油断大敵。夢中になり過ぎちゃった。取り敢えず、ここから行けそうな場所を探索していこう」


 そこから三箇所の鍵が必要な場所を調べていった。ただ、これまでと違って、そこには何も無かった。紙束の方にも、特に何か変わった点があるわけでもないので、さっきみたいに隠し部屋がある事もない。念のため、【操影】で確かめたけど、あの隠し部屋と違って、影が入り込む事がなかったので、本当に何もないと思われる。


「後は……ジャングル方面に向かう道かな。これも紙束にあるけど、色々と調べる部分がありそうだなぁ」


 地図と見比べて移動し、鍵を使って中に入る。すると、急に後ろで大きな音が鳴った。唐突だったので、ビクッと肩を跳ねさせてしまう。鍵が閉まった直後だから、余計に驚いた。

 何事かと後ろを向くと、プレイヤーが鉄格子を掴んでいた。その後ろにも何人か見えるので、パーティーで来ている人達だと思う。【霊視】がないと何も発見出来ないような場所なのに、よく探索に来ようと思うな。まぁ、それを知っているのは、極一部だから、当たり前か。


「おい! どうやって入ったんだ!?」


 もの凄い大声で訊いてくるので、かなりうるさい。


「普通に入りました」

「鍵が掛かってるだろうが!!」

「だから、普通に入りました。では」


 正直、こうして知らない人と絡むのは好きじゃないので、それだけ言って奥に進んでいく。


「おい! ここを開けろ! 俺達にも探索させろ!」


 ここで鍵を開けると、なし崩しにこの人達と探索しなくちゃいけなくなるし、何より、これから言い寄ってくる人が出て来るかもしれない。完全に無視して、奥に進む。


「おい! って、あ? おい、どこに行った!?」

「一本道なんだから、奥だろ」

「いや、見当たらないぞ……」

「お前がうるさくてログアウトでもしたんじゃねぇか?」


 【擬態】で紛れたのか、相手が見失ったみたい。ログアウトしたと勘違いしている。薄暗いから、上手く発動してくれたのかもしれない。まぁ、運が良かったと考える方が良いかな。いつもは、ここまで上手く発動してくれないし。


「ちっ! 独り占めかよ」


 でかい話し声を聞く限り、一人以外は、良識がありそうだ。下手に絡むと、迷惑行為にカウントされてBANに近づく可能性もあるから、慎重になっているのかも。かなり面倒くさい相手みたいだったけど、扉で塞がれていて助かった。


「嫌な時に鉢合わせたな。まぁ、オンラインゲームだから、探索場所が被るのは仕方ないか。まぁ、身内でもないのに、寄生しようとしないで欲しいけど」


 運営には、早く【霊視】を持つ素材の追加をお願いしたい。私と同様に鍵を見つける人がいてくれないと、私を捕まえようとする人も出て来る可能性があるし。


「さてと、気を取り直して探索を続けよっと」


 蝙蝠を先行させて、マッピングをさせる。そして、紙束を確認して、地図と現地の地形と比較しつつ進んでいった。今のところ、間違いはない。


「ん? ここに通路があるはず……」


 【操影】で探りつつ、アイテムから血を四つ取り出して、【血液武装】の操血で動かす。レベルも上がったので、血も四つ同時に動かせるようになった。操作自体は、結構難しいけど。

 扉と思われる場所に血を巡らせる。扉の縁以外に、何かないかを探っていると一箇所だけ血が入り込んでいく場所を見つけた。その形は、鍵穴のようになっている。

 ちょっと疑いを持ちつつ、鍵を差し込む。すると、石の中に鍵が沈んでいった。本当に、その形通りになっているみたい。


「さっきも、これを見つけてたら、楽だっただろうなぁ」


 鍵を回して開けると、扉が開く。さっきは、ピッキングみたいな事をして開けたみたい。それも普通のピッキングのように鍵穴じゃなくて、錠の内側に入り込んで開けたような感じだ。

 扉が向こう側に開いていくので、中に入る。すると、前と同じように勝手に閉まっていった。

 毎回同じなので、それは気にせずに進んでいく。すると、資料があった部屋よりも大きな空間に、パソコンやモニターのようなものが置かれている場所に出た。


「モニターは……死んでる。電源も落ちているみたいだし……」


 色々と弄くり回しているけど、何も反応しない。


「何をする場所なんだろう? 見た目がデスクトップパソコンだし……モニターも大きいし、監視系かな?」


 モニターの数は結構ある。パソコンみたいなものも八台くらいあるので、結構大がかりなものをしていたと思うのだけど、それが分からない。

 悩みつつ、何気なく上を見てみると、千切れた配線が見えた。


「元々他にも何かがあった……でかいモニターかな。監視系のものって可能性が高いか……でも、なんで?」


 また謎が増えた。ここにも資料があれば良いのだけど、そういうのは全くない。


「駄目だ。これも後回し!」


 鍵穴を探し出して、再び通路に戻る。ここからは、何もないただの通路になるはず。でも、念のため、【操影】を広げて、影が引っ掛かる場所を探しておく。何度か曲がりつつ進んでいくと、突き当たりが見えた。突き当たりには、梯子が掛けられており、下水は、このまままっすぐ穴の向こうに続いている。

 ここに入ると溺れながら流される事になるので、梯子の方を使って上っていく。

 梯子の上に置かれている蓋を持ち上げて、外に出ると、そこは熱帯エリアに繋がっていた。


「結構歩いたと思ったけど、まさか熱帯まで繋がっているとはね」


 熱帯のマップを確認すると、ジャングルとの境界に近い高台に出たみたいだ。ここまでで分かった事は皆無。謎が謎を呼ぶ地下道だったと言わざるを得ない。


「今後のアップデートで追加されるものなのかな。取り敢えず、当面は、【言語学】のレベル上げをしつつ、イベントに備えよっと」


 熱帯からファーストタウンに戻った私は、ゲルダさんに、地下道を探索した報告書的なものをメッセージで送ってからログアウトした。

 ゲルダさんがいなかったら、地下道を見つけられていたか分からないし、向こうも調べた事を教えてくれたので、お返しの意味も込めての報告だ。

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