第109話 ファーストタウンの地下道
地図帳を本棚に仕舞って、ゲルダさんと図書館を出て、街の北東方面に向かった。
「そういえば、私に付き合っていて、良いんですか? ギルドとかの用事とかは」
「今はないわね。色々と落ち着いて、ようやくある程度自由に動けるようになったってところよ」
「それなら、尚更やりたい事をした方が良いんじゃ?」
「これがやりたい事よ。おかげで、面白そうなものが見られそうだもの」
ゲルダさんは、未知のものが気になるだけみたい。確かに、この街の地下なんて、行った事のある人の方が少ないだろうし、既に何人も行っているのなら、そういう情報が出回っていてもおかしくないわけだしね。
そんな話をしていると、街の北東部分に着いた。
「えっと……ここら辺だと思うんですけど……」
「そうね。地図を照らし合わせると、そっちの外壁辺りにあるわね。でも、ここら辺にどこかへ繋がりそうな入口なんてなかったと思うけど……」
ゲルダさんの言う通り、それらしき入口は見当たらない。そこで、念のため霊峰の霊視鏡を掛ける。
「何か見える?」
「いえ、何もないですね……埋められちゃったとかでしょうか?」
「あるいは、この外壁ら辺に描かれているものが、外側を示しているのかもしれないわね」
「街の外壁周辺は、あまり探索されていないとかですか?」
「それはないと思うわ。誰かしらは、調べているはずよ。そういう細かいところが気になるプレイヤーは少ないもの」
「それもそうですね。じゃあ、やっぱり、これですか」
「一応、掛けたまま移動しましょう」
私とゲルダさんは、街の外側から件の場所周辺に向かった。近づくにつれて、私の目に見えるものがあった。
「あそこです。【霊視】に反応しています」
「私には分からないから、本当みたいね」
青白い靄をジッと見て、靄を固めて形を作る。すると、これまでと違って、さっきまであった地面が消えて、階段と扉が現れた。靄から作ったというよりも、これまで幻術か何かで覆っていたものを晴らしたような感じだ。
「……これは凄いわね」
「ゲルダさんにも見えるって事は、【霊視】で固めたものは、アイテムに限らず、全部他人にも見えるようになるって事ですね」
「そうね。あまり人前で使うのはやめておきなさい。現状、使えるプレイヤーが少ないものだから、変なやっかみを受ける可能性があるから」
「はい」
【霊視】が広まるまでは、無闇矢鱈に使うのはやめた方が良いと釘を刺された。まぁ、私も同じ意見だったから、最初から無闇に使う気はなかったけど。
私達は、階段を下って扉の前に立った。取っ手に手を掛けて、開けようとしたけど、鍵が掛かっているようで開かなかった。さすがに、そこまで不用心ではなかったみたい。
私は鍵を取りだして、鍵穴に入れる。鍵はすんなりと穴に入り込んだ。今のところ、形的に間違っている感じはしない。後は、これが回るかどうか。
ちょっとだけ緊張しながら、鍵を回す。すると、こちらもすんなりと回った。もう少し硬いと思っていたから、少し驚いた。
「開きました」
「みたいね」
恐る恐る扉を開けて、中を覗く。地下だからといって、真っ暗という事はなく、一定間隔で灯りが用意された階段があった。
「匂いがないわね」
「へ? 匂いですか?」
「下水道と地下道に繋がっているのであれば、下水の匂いがしてもおかしくはないのよ。でも、そういった匂いが一切しないわ。【五感強化】をされているから、間違いないはずよ」
「なるほど」
ゲルダさんに遅れて、私もこの状況を理解した。下水と繋がっているとしたら、匂いは凄まじいものになっているはず。それが全くしないというのは、不自然だ。
「地下道と下水道は繋がっていないって事でしょうか?」
「どうかしらね。地図を見る限り繋がっているようにしか見えないけれど」
ゲルダさんが、地図を持っているように言うので、どういう事だろうと思ってゲルダさんを見ると、メニュー画面を見ているだけだった。まだ地下に下っていないので、マップが出て来るはずはない。
「スクショよ。ハクが見ている間に撮っておいたの。どこかで使えるかもしれないから」
「あぁ、その手が」
普段スクショなんてしないから、そんな利用方法も思い付かなかった。ゲルダさんといると、自分の頭の硬さがよく分かる。
「それじゃあ、私が先に下りるわ。何が起こっても良いように、武器だけは、すぐ取り出せるよう準備しなさい」
「はい」
私よりもスキルレベルが高く、素手が主要武器なゲルダさんが前を歩く。二人ともアタッカーだけど、ゲルダさんは索敵が得意なので、これが一番良い分担だった。
十秒程下って、地下道に着いた。地下道は、階段と同じく一定間隔の灯りが用意されていて、視界が確保されている。
「まだ下水道とは繋がってないみたいですね。まだ先の方でしょうか?」
「そうね。それよりマップを見てみなさい」
「え? あ、はい」
メニューを操作して、マップを出す。すると、一部分だけしか表示されていないマップが出て来た。
「マッピングしないといけないんですね……ん? マッピング?」
「そう。普通、街に入ったら、街の簡易マップを得られるわ。普通にマッピングする必要はない。マッピングが必要なのは、外のエリアとダンジョンだけ」
「つまり、ここも同様な扱いになっていると。だったら、ここにモンスターが出る可能性も」
「どうかしらね。現状、【感知】に反応はないわ。【感知】を潜り抜ける方法を持っているモンスターがいるならお手上げだけど。それと、一応、その眼鏡は掛けっぱなしにしておきなさい。ここが【霊視】で発見出来たから、そもそも【霊視】持ちを前提に作られたダンジョンと考えるのが妥当だわ」
「分かりました」
またゲルダさんを先頭にして、地下道を歩いて行く。ゲルダさんがスクショで地下道と下水道の地図を撮っておいてくれたので、マッピングをしないでも、迷う事なく歩ける。
そして、下水道と合流する場所までやってきた。
「これは……」
「凄いですね……」
私とゲルダさんは、目の前の光景に唖然としてしまった。私達が見たのは、下水道に棲み着くスライムの姿だった。匂いがしない正体は、目の前のスライム達が流れてきた汚物を食べていたからだった。スライムが【消化促進】を持っているのは、こういうところにも理由があるのかもしれない。何でもかんでも消化して食べる習性とか。これは、図書館で調べれば良い。
スライムがいる場所が偏っているので、そこら辺が民家と繋がっている場所と考えられる。
「【感知】が反応しないですね」
「そうね。もしかしたら、モンスターとしての扱いでは無いのかもしれないわ」
「まぁ、いなくなったら、色々と困る事になるかもしれないですしね」
「そうね。でも、これで一つ分かったわね」
「え? 何がですか?」
この光景を見て、私が分かることといえば、スライムのおかげで匂いがしないくらいだ。
「恐らく処理施設はないわね。スライムが代わりを為しているもの」
「ああ、確かに。ゲルダさん、ずっと気にしていましたもんね」
「もしかしたら、見つかっていないダンジョンかもしれないからね。こっちに敵対しないみたいだけど、注意しなさい」
「はい」
ゲルダさんがスクショした地図を頼りに、地下道を進んで行く。
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