第110話 地下書庫

 今のところ、図書館にあった地図通りに続いているらしい。ゲルダさんが迷わないから、多分そうだ。


「そろそろ図書館の下に着くわね」

「何かあると良いんですが……」


 そう返事をしたと同時に、何か嫌な予感がした。


「しゃがんで!」


 私は咄嗟に叫ぶ。ゲルダさんは、即座にしゃがんだ。そんな私達の頭上を下水道から跳んできたスライムが通り過ぎる。半透明である事は変わらないけど、身体に白黒のマーブル模様が付いている。名前は、ミミクリースライムというみたい。


「他のスライムに擬態する事で、【感知】から逃れていたわけね。助かったわ」


 ゲルダさんが感心している間に、【血武器】で作ったナイフを投げて、ミミクリースライムの核を割る。幸い、弱点は他のスライムと変わりなかったみたいで、一撃で倒す事が出来た。


「勿体なかったですかね?」

「……ゲームとはいえ、下水を流れていたスライムに口を付けるのは、おすすめしがたいわね」


 ミミクリースライムが【感知】を逃れるスキルを持っているとするならば、【吸血鬼】でスキルを獲得するべきだ。でも、あのミミクリースライムは、下水から飛んできた。つまり、身体に下水の水を纏っているという風に捉えられる。

 ゲルダさんも絶対にやめろと言わないって事は、ミミクリースライムが持っているであろうスキルの有用性に気付いているのだと思う。


「うぅ……下水上等ですよ!」

「フレイ達に聞かせたくない言葉ね。せめて、なるべく下水を落としてから吸いなさい」

「分かりました」


 そんな返事をするのと同時に、ミミクリースライム達が、次々に襲ってきた。


「ハク、指示」

「えっと、核を壊さないようにしてください!」

「分かったわ」


 ゲルダさんが攻撃してくるミミクリースライムを弾き飛ばしていく。その間に、一匹のミミクリースライムを掴む。そして、軽く振って、気持ち水分を取ってから、魔力の牙を突き刺して、ミミクリースライムを吸う。幸い、汚物の匂いがするなんて事もなく、普通のスライムと同じ感じだった。結構覚悟していたのだけど、全然意味なかった。いつものスライムよりも、吸い取る時間が掛かるけど、問題なく吸い取れる。


「大丈夫そうね」

「はい。どんどんいきます」


 ゲルダさんに群がってくる相手を頼んで、私は一匹一匹どんどんと飲んでいく。十匹程飲むと、スキルを獲得した。


『【吸血鬼】により、ミミクリースライムから【擬態】のスキルを獲得』


 『水魔法才能』からスキルを手に入れられていなかったので、ちょっと嬉しかった。下水に浸かったスライムを飲んでいる事を除けば。


「手に入れました。取り敢えず、蹴散らして大丈夫です」

「分かったわ」


 ゲルダさんは、そう返事をすると、すぐにミミクリースライムを殲滅した。一撃一撃が、的確に核を破壊していた。


「それで、目的のスキルだったのかしら?」

「はい。【擬態】ってスキルです」


────────────────────────


【擬態】:周囲に溶け込む事が出来る。


────────────────────────


 説明は簡潔だけど、多分、ミミクリースライムと同じ事が出来るはず。控えで発動するものではないみたいなので、【格闘】を外して、【擬態】を付ける。


「どうですか?」

「ハクは、モンスターじゃないんだから、【感知】で分かるはずないでしょう

「あっ……」


 【感知】の仕様を思い出して、獲った意味があったのかと疑問に感じてしまった。


「でも、ちょっと見づらくなってはいるわね。レベルが低いから、完全に溶け込む感じではないのかもしれないわね」

「後は、溶け込むだから、人とかが密集した場所とかの方が効果が高いとかですかね?」

「人を隠すなら人の中。スライムを隠すならスライムの中って事ね。それなら、納得もいくわね。効果が、人混みの中に限定されていたら、そこまで利便性がなさそうね。レベルを上げて、化けると良いわね」

「そうですね」


 常時発動型だと思うので、このまま装備してレベル上げをしておく。そこから、何度かミミクリースライムに襲われたけど、二人で、瞬殺していった。

 そうして、ようやく図書館の真下に着いた。


「ここが真下ね」

「あっ、ゲルダさん。向こうに、【霊視】で見えるものがあります」

「やっぱり、【霊視】前提のダンジョンだったみたいね」


 【霊視】で見ると、靄が固まっていき、梯子を形成した。それは、真上に続いている。つまり、図書館の方へ。


「先に上って良いわよ。気になるでしょう?」

「はい!」


 梯子を上っていくと、マンホールのような蓋がされていた。鍵穴みたいなものも見当たらないので、手で押し開ける。重みによる抵抗を感じながら開けると、薄暗い空間に出た。周囲にあるのは、沢山の本だった。


「書庫?」

「みたいね。若干埃っぽいところを見ると、あまり人が来ない場所なのかしらね。ここの本は読めるかしら?」

「えっと……あれ? 読めないです……紙と同じ感じです」


 一応、中も確認したけど、紙と同じ範囲でしか読めない。これでは、何の本なのか全く分からない。ここまで来て、ここでお預けとは思わなかった。


「三階の次は、地下って形で続くみたいね」

「ここが読めるようになったら、もう全ての本を読めるようになるんでしょうか?」

「そこまでは分からないわよ。でも、少なくとも【霊視】で見つけた紙を調べる目安にはなるんじゃないかしら?」

「そうですね。後もう少しと信じて頑張ってみようと思います」


 紙と同じ範囲でしか読めないのであれば、ここが読めるようになったら、紙も読めるという事だ。その逆も然りだ。どちらにおいても、一つの目安になる。


「取り敢えず、鍵の謎と図書館については、ここで行き止まりね」

「はい。後は、ここから、直接図書館に行ける場所があれば良いんですけど」

「ショートカットね。手分けして探してみましょうか」

「お願いします」


 二人で分かれて、図書館地下を探索する。一々地下道を経由して来るのは、面倒なので、出来ればショートカットが欲しい。


「ハク、あったわよ」


 ゲルダさんの方で、それらしきものを見つけたらしい。私は、すぐに声のした方に向かう。すると、扉の前に立つゲルダさんがいた。傍に動かした形跡のある棚があるから、棚に隠れていたみたい。


「この扉にある鍵。さっきの鍵と同じじゃないかしら?」


 そう言われたので、また鍵を取りだして、鍵穴に差し込む。この鍵穴にもすんなりと入り込み、鍵を開ける事が出来た。そうして、内開きの扉を開いてみると、目の前にあったのは、階段だった。


「まぁ、地下だから、上に上るためのものはあるわよね。どこに続いているのかしら」

「少なくとも、図書館近くは確実ですね」


 ゲルダさんが先を譲ってくれたので、私が先頭になって階段を上がっていく。すると、また鍵付きの扉が現れた。それも鍵を使って開けると、物置の中に出た。


「これは、さすがに予想外ね。てっきり、図書館のカウンター裏とかに出るかと思っていたのだけど」

「完全に物置ですね」


 物置という事もあって、私達が入って来た扉の他にも扉がある。そこを通ったら、図書館の裏に出た。太陽光の元に出たので、一気に怠くなる。すぐに、日傘を差した。


「外ね。多少面倒くさいけど、地下道よりはショートカット出来るわね」

「はい。有り難いです。あの地下書庫も、すぐに発見されますかね?」


 私達が見つけた場所だけど、【霊視】で固めてしまった以上、誰でも入れるようになっている可能性は高い。


「恐らく、ハクが持っている鍵が必要よ。あの扉が閉まる時に、毎回鍵も閉まる音が聞こえていたから」

「そうなんですか?」


 私も【聴覚強化】を持っているけど、そんな音は聞こえなかった。それだけゲルダさんの五感が鋭いって事なのかもしれない。もっとレベルを上げないと、気付ける事にも気付けないかもしれない。精進しよう。

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