第108話 街の地図
ゲルダさんを連れて、一周回っていて、一台の本棚で脚が止まった。その本棚の本に、『ファーストタウン地図』という題名が書かれていたからだ。その一冊を手に取って、開いてみると、本当に地図が描かれていた。
「かなり正確な地図ね」
横から覗いていたゲルダさんが、メニュー画面を出しながらそう言う。自分のマップと見比べているのだと思う。
「完全に一緒にですか?」
「どちらかと言うと、こっちの方が詳しいまであるわね。こっちのマップは、簡易的なものだから」
「そうなんですね。あっ、アカリエがある」
「!?」
地図の中に、アカリエの文字を見つけて口に出すと、ゲルダさんが顔を近づけてアカリエのある場所を見ていた。
「……読めないわね。こっちの文字で書かれている感じかしら。いえ、それよりも、本当にアカリエって書かれているのね?」
「えっ、あ、はい。あっ……」
「気付いたようね」
ゲルダさんが驚いていた理由が、遅れて理解出来た。ここにアカリエが書かれている事は、ほぼあり得ない。だって、アカリエは、最初からある店じゃなくて、アカリが店を買って命名したものなのだから。
「自動更新の地図帳というところかしら。他のページはどう?」
「えっと……」
パラパラと地図帳を捲っていくと、ファーストタウンを分割して、それぞれのエリア毎に拡大した地図が描かれていた。こっちの方がより詳しく道などを見る事が出来る。そして、アカリエがあるエリアのページまでくると、しっかりとアカリエという文字がある。ついでにラング武器屋という文字もある。
「アカリエがあります」
「最後のページに発行日とかは書かれているかしら?」
すぐに最後のページを開いて確認する。でも、特に発行日に関しては書かれていなかった。
「ないです」
「そう。そこから考える事は不可能ね。でも、私は自動更新だと思うわ。都合良くアカリエが出来た後に発行されたとは考えにくいもの」
「私も同意です」
「……ファーストタウンの過去の地図みたいなものはないかしら?」
「過去の地図ですか? えっと……」
題名を見ていき、古い本が並ぶところに来て、ファーストタウンの地図を見つける。
「ありました」
「見比べてみましょう」
近くにある高さの低い本棚の上に、二つの地図を広げて見比べる。文字が読めないゲルダさんでも、地図自体は読めるので、問題はない。
「意外と変わっているものですね」
「そうね……拡張工事と考えたいけど、一々壁を取り壊しているのかしら?」
地図から街の大きさが違うという事が読み取れて、過去に建てられていた壁が、新しい地図にない事から、拡張の度に壁を壊していたのかと疑問に思ったみたい。
「街を広くしたいから、後で壊したみたいな感じですかね?」
「それが正しそうね。後は、南東の区画が大きく変わっているわね。今で言う図書館がある区画よね?」
「そうですね。でも、昔から図書館はあったみたいです。場所も一緒だと思います」
「街の拡張がいつ頃行われたのか分からないから、はっきりとは言えないけれど、そこまで古い建物には思えないわね。改装されたのかしら」
「じゃあ、古い時の名残とかもありそう……ですね……」
自分で言っていて、ある事に気付いた。それは、霊峰の霊視鏡を使って、図書館で見つけた鍵の事だ。
「どうかしたの?」
「実は、霊峰の霊視鏡を使った時、三階でこんな鍵を見つけたんです」
私は、見つけた鍵をゲルダさんに見せる。
「見るからに古そうな鍵ね。この図書館で見つけたとしたら、図書館に関する鍵の可能性が高いと思うけど、一通りは調べているのよね?」
「はい」
あの時は軽く調べただけだけど、図書館に通っていた時に、息抜きに鍵が使える場所がないかは調べた。さすがに、本棚を動かす事は出来なかったから、見える部分に限られたけど。
「地下かしらね」
「地下なんてあるんですか?」
「さすがに、そこまでは知らないけれど、こういう時のお決まりは地下だと思うわ。そうね……調べるとしたら下水道になるかしら」
「下水道……」
地下を調べる方法として、下水道というのはお決まりなものだ。下水という概念があったら、ほとんどの場合地下に作られているだろうから。
「入口って知ってますか?」
「さすがに、私も知らないわね。下水処理場か何かがあれば分かりやすいのだけどね。この街を調べた時には、発見出来なかったわ。普通にマンホールでも持ち上げてから入るのかもしれないわね。地図帳に、そこら辺の記載はないかしら?」
「えっと……」
地図帳を捲っていき、何かないか探す。すると、下水道と地下道の記載を見つけた。
「ありました!」
「図書館で、大声はやめなさい。この感じだと北東部分に入口がありそうね。下水の出口は……そのまま南の方に続いているわね。川と合流させている感じかしら。ジャングルを探したら、下水処理場も見つかるかもしれないわね」
「でも、そんな施設があったら、既に見つかっているのでは?」
「熱帯で隠しエリアを見つけた本人が何を言っているのかしら。説得力がないわよ」
「あ」
私よりも先にプレイしている人が、沢山いる中で、誰も到達した事のない双刀の隠れ里を見つけた。それと同じように、まだまだ見つかっていない隠しエリアは、至る所にあるかもしれない。
「ジャングルの地図はあるのかしら?」
「えっと……あります」
「一応、それも確認させてくれる?」
「はい」
私は、ファーストタウンの地図を仕舞って、昔と今のジャングルの地図を取りだす。そして、さっきと同じように広げて見比べる。
「今も昔も街道はなし。ほとんど変わったところはないみたいね。この分だと、下水処理場があったとしても地下になりそうね」
「ジャングルの地下って、どうやって行くんでしょうか?」
「さすがに分からないわよ。でも、あるとすれば、確実に人工的なものになるわね。下水の出口から調べるのが手っ取り早そうね。熱帯の地図を出してくれる?」
「あ、はい」
南の川と言えば、熱帯だから熱帯の地図が見たいみたい。すぐに熱帯の地図を見つけて広げる。
「……今まで見つからなかっただけあって、地図にも、それらしい記載はないわね。後は、川の中を調べて行くしかないかしら」
「うわぁ……私には無理そうです」
「クロコダイルなら、ハクでも……って、もしかして、【吸血鬼】のデメリットで泳げないとかかしら?」
ゲルダさんは、すぐに私が無理と言った理由を言い当てた。
「正解です。流れる水の中だと、全然なんです。でも、泉とかそういう場所だったら大丈夫みたいで、オアシスでは泳げました」
「そう流水が駄目って事ね。下水には、落ちないようにしないと駄目よ。まぁ、それを抜いても下水を泳ぐのはやめた方が良いのだけどね」
「それはそうですね」
下水を泳いで移動しようとは、さすがの私も考えていない。確実に汚いし、病気にもなりそうだからだ。
「それで、ハクは、これからどうするのかしら? 地下道の入口みたいな場所を調べる?」
「北東ですよね。鍵の謎が解けるかもなので、行こうと思ってます」
「気になるから、私も一緒に行くわ。一つだけ確認したいのだけど、地図があるのは、どこの本棚までかしら?」
「えっと……ここら辺だけっぽいです」
「そう。ありがとう」
文字が読めなくても、地図を見るだけなら出来るから、何かしらに活用するつもりみたい。完全にマッピングが出来ていなくてもある程度確認は出来るから、活用法は色々とありそう。
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