第95話 修行と空
戦闘開始から一時間程経過すると、トモエさんの攻撃や防御に慣れてきて、トモエさんの裏を掻くような動きを見出そうとしていた。すると、私の動きに余裕を感じたのか、メイティさんも攻撃に参加した。トモエさんだけに集中していると、横から光線が放たれるので、本当に危なかった。
様々な方向からの攻撃を避けつつ、トモエさんに果敢に挑み続けた。私の攻撃は、悉く防がれるものの、私もトモエさんの攻撃を避ける事が出来るようになっていた。
トモエさんとメイティさんとのPvPは、三時間にも及んだ。
「今日は、この辺で……」
「分かりました。お疲れ様です」
「うん。頑張ったね。良い子だね」
トモエさんとメイティさんが、同時に頭を撫でてくれる。優しく慈愛が込められているかのように撫でてくれるメイティさんに対して、トモエさんは壊さないように恐る恐る撫でているような感じだった。
「どうでしたか?」
私の攻撃が、二人にどんな風に見えていたのかを訊く。
「血のナイフを投げるタイミングなど、色々と工夫を凝らした部分が見受けられましたね。ただ、血のナイフに関しては、攻撃力不足というところでしょうか。私の素の防御力でも、無傷で受けきる事が出来ると思います」
「うっ……対人戦には向いてないですかね?」
「いえ、タンクに対して使うのは、効果が薄いと思いますが、フレイさんやサツキなどのアタッカーにとっては、鬱陶しいものと思われますね」
【血武器】の対人戦利用に関しては、もう少し考える必要がありそうだ。
「魔法への対処は、もう少し考えた方が良いかな。死角からの攻撃を、ちゃんと避けられるようになった方が良いかも。いつもの嫌な予感は来なかった?」
「あっ、そういえば……デザートスコーピオンの時も、嫌な予感がしなかったです」
「まぁ、何にでも反応するわけじゃないだろうしね。そればかりは仕方ないよ。それに、嫌な予感にばかり頼っていたら、自力での対処が出来なくなりそうだしね」
メイティさんの言うとおりだ。嫌な予感ばかりに頼りきりにはなってはいけない。今回みたいに、嫌な予感がしない事だってあるのだから。その事を改めて思い知った。
「でも、死角からの攻撃をどうやって対処するんですか?」
「【感知】を上手く活用するのが重要かな。敵の位置を感じ取って、攻撃のタイミングを見計らうの。敵の行動パターンを予測出来るか、【感知】で得られる情報を正確に認識出来るかが必要かな」
「前者は、何度か戦って覚えればどうにかなります。後者に関しては、プレイヤースキルが必要になってくるでしょう。ハクちゃんであれば、後者も出来ると思いますよ」
【感知】の有効活用。これが、これからの冒険で、かなり重要になってくるみたい。トモエさん的には、私は、【感知】を有効に使えるはずとの事。一緒にゲームをした事は、何度もあるので、そこから考えてくれるのだと思う。
正直、自分では、そこまではっきりとした自信はない。でも、トモエさんやメイティさんに言われるのなら、少しだけ自信も芽生えるかも。
「ハクちゃんが望むのであれば、明日も来ますが」
「私も空いているから、一緒に来るよ」
「あっ、じゃあお願いします」
トモエさん達とのPvPは、結構良い経験になった。対人ということで、砂漠攻略に役立たないとも考えられるけど、死角からメイティさんが攻撃するので、あの時デザートスコーピオンに負けた瞬間と似ている。あの敗北の二の舞にならないようにするという意味では、十分に有意義だと思う。
「それじゃあ、十四時くらいでいいかな?」
「はい」
「大丈夫です」
明日の十四時に、また集まる事になった。
「それでは、失礼します」
「また明日ね」
「はい。ありがとうございました」
メイティさんとトモエさんとは、ここで別れた。私は、最後に近くのホワイトラビットから血を吸って、HPを回復してから、ファーストタウンに戻りログアウトする。
そして、夜ご飯やお風呂などを済ませて、二十時にログインした。夜。私が敗北した環境とは違う環境で、砂漠を歩くつもりだ。
オアシスタウンに転移した私は、準備を整えてから外に出る。
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ハク:【剣Lv55】【短剣Lv48】【双剣Lv31】【格闘Lv55】【拳Lv36】【蹴りLv50】【投げLv25】【吸血鬼Lv60】【血装術Lv35】【血武器Lv25】【夜霧Lv15】【執行者Lv48】【剛力Lv11】【豪腕Lv38】【感知Lv18】
控え:【魔法才能Lv40】【支援魔法才能Lv40】【HP強化Lv46】【物理攻撃強化Lv45】【物理防御強化Lv10】【魔法防御強化Lv8】【神脚Lv18】【器用さ強化Lv6】【運強化Lv38】【毒耐性Lv18】【麻痺耐性Lv6】【呪い耐性Lv1】【沈黙耐性Lv1】【暗闇耐性Lv1】【怒り耐性Lv5】【眠り耐性Lv1】【混乱耐性Lv1】【消化促進Lv35】【竜血Lv15】【登山Lv6】【言語学Lv10】
SP:146
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魔法の装備を外して、完全物理特化の装備にした。【夜霧】も装備したから、昼間みたいな事になっても抜け出せはする。
「修行……修行? あのPvPは、修行なのかな? まぁ、修行で良いか。修行の成果を発揮出来ると良いなぁ。そういえば、最近、師範のところに行けてないなぁ。明日の夜は、師範のところに顔を出そっと」
イベントが終わってから、師範の道場に行けていない事に気付いた。まぁ、毎日行く必要があるかと言われたら、そうでもないのだけど、メイティさん達とのPvPと同じで、良い修行になる。行って損はない。
そんな事を考えつつ、砂漠を歩いていると、【感知】に反応があった。一体だけの反応なので、恐らくデザートアルマジロ……いや、ここで、朧気な情報に満足しているから駄目なのかもしれない。【感知】から受ける情報を漠然と受け取るのではなく、ちゃんとした情報として受け取る。
考える事が増えるというよりも、頭の容量が食われていく感じがする。情報処理能力が高くないと、厳しいかもしれない。確かに、トモエさんの言うとおり、プレイヤースキルによるものって感じもする。
「大きい……丸い……アルマジロで確定かな」
まだ得られる情報は朧気なままだけど、それでもおおよその形は分かった。意識しないと出来ないから、これを無意識で出来るようになれば、不意打ちを防ぐ事も出来るようになるかもしれない。
気配を感じる方に歩いて行くと、砂丘の上からデザートアルマジロが顔を出した。そして、昼間と同じく私に向かって上から転がってきた。
私は、血刃の双剣を抜きつつ、デザートアルマジロが来るのを待つ。今は、夜。つまり、私の時間だ。私は、軽く跳び上がり、身体を回して、デザートアルマジロに後ろ回し蹴りを打ち込む。
あの時は弾くだけだった。でも、今回は違う。完全にデザートアルマジロの回転を止め、その甲羅に罅が入る。その後は変わらず、サッカーボールのように吹っ飛んで、砂丘に埋まる。ひっくり返って頭から埋まっているデザートアルマジロに駆け寄り、魔力の牙を立てる。
蹴りだけで四割も削られていたデザートアルマジロは、十秒も掛からずに倒れた。
「あの状態になったら、吸血した方が早いかな。蹴りで吹き飛ばせるし、夜じゃ脅威にはならなさそう。問題は、蠍の方か」
夜という事もあって、身体も本調子なので、砂漠を駆けて探索を進めていく。何度かデザートアルマジロに遭遇したので、サッカーボールのように蹴り飛ばしてから、吸血もしくは双剣などでトドメを刺した。
「蠍がいない。そこまで数多く配置してないのかな」
デザートスコーピオンに出会えない事に、ちょっと不満を感じていると、不意に嫌な予感とは別の予感めいたものがした。背筋どころから身体全体が凍り付いたように冷えて動かなくなる。
唯一動く目だけで、上を見る。すると、遙か遠く空の中を、一頭の竜が飛んでいた。霊峰の支配竜のような四つ脚の竜じゃない。東洋の細長い竜だ。青い身体に青白い炎と雲のようなものを纏いながら、優雅に飛んでいる。
ただそれだけだというのに、私の頭の中の警鐘が鳴り止まない。その姿が、雲の中に消えるまで、私は、ただただ呆然と見ているしかなかった。
「何、あの竜……もしかして、あれも夜霧の執行者と同じエンカウントボス?」
格が違う。圧倒的に、格が違いすぎる。それは、私自身ともだけど、何より夜霧の執行者との格の差が大きい。天と地程の差がある。あれ相手だったら、フレ姉も瞬殺されると思う。
「はぁ……気を取り直そう。あれとすぐに戦うとかはないはず」
そもそも飛んでいる場所は、私のいる場所から、かなり離れている。即座に戦闘になる可能性は、限りなく低い。私は、気を取り直して、砂漠探索に戻った。
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