第94話 とある提案
メイティさんは、頭を撫でながら話しかけてきた。
「ところで、ハクちゃんは、今、何のスキルを上げているの?」
神聖魔法の検証が終わった事で、メイティさんが別の話題を振ってくれた。それは、私が、ここにいる理由だった。
「【血武器】と【投げ】です」
メイティさんの前で、血のナイフを作り出す。
「おぉ、新しいスキルだね。強度は?」
「二回命中したら、折れます。一回でも罅が入るくらいです」
「常用は無理そうだね。牽制とか?」
「そうですね。でも、結構使えますよ」
私は、ナイフを投げて、スライムの核を割る。
「正確な投げだね。【器用さ強化】は取った?」
「器用さは取ってないですね。【投げ】に影響しますか?」
「するよ。正確には、飛び道具に影響する感じかな」
「なるほど……この際だし、強化系のスキルは、全部取ろうかな……」
「【魔法攻撃強化】は、要らないと思うよ。魔法攻撃は使わないでしょ?」
「あっ、それもそうですね」
私は、【器用さ強化】【物理防御強化】【魔法防御強化】の三つを収得する。これは、控えで効果を発揮するので、装備枠は、気にしないで良い。
その三つを収得して、何となく他のスキルを流し見すると、一つ見覚えのないスキルが増えていた。
「あれ? 【剛力】がある」
「おめでとう。それがあると、素手での攻撃力が上がるよ」
「なるほど」
フレ姉も持っていたスキルだ。私は、【剛力】も収得する。そこで、一つ忘れていた事を思い出す。
「後は、【拳】も上げておきたいんですよね」
「ん? 【武闘術】狙い?」
「はい。やっぱり、【武闘術】は、【格闘】【拳】【蹴り】【投げ】の統合なんですね」
「うん。大正解。でも、【拳】か……ちょっと待ってね」
「あ、はい」
メイティさんがメニューを操作し始めるので、私は近くのホワイトラビットに血のナイフを投げていく。HPが大分減ってきたので、近くのホワイトラビットを捕獲して、吸血していると、メイティさんがメニューを消して、私の方を見た。
「ハクちゃ……」
ホワイトラビットを掴んで吸血している姿を見て、メイティさんは固まった。こんな光景を初めて見たら、普通にこんな反応になる。絵面は、酷いものに見えるだろう。
メイティさんは、すぐに我に返って、咳払いをする。
「んんっ! これから、トモエが来てくれるから、トモエを叩いたりナイフを投げつけると良いよ」
メイティさんは、笑顔でとんでもないことを言い出した。
「そんな、さすがに悪いですよ。私のスキルために犠牲になるかもしれないのに……」
「私がいるから大丈夫」
「あっ……」
メイティさんという回復役がいるから万一の事はない。だから、心置きなくトモエさんをサンドバッグにすると良いって事みたい。
「いや、どのみち悪いって気持ちは変わらないんですけど……」
「そう言うと思ったから、トモエには、PvPをするって送っておいたよ」
「えぇ……」
「デスペナと昼間。ハクちゃんにとって、トモエは、かなり格上の存在になるね」
「元々な気もしますけど……」
「それに、砂漠攻略の良い練習にもなると思うな」
「砂漠攻略の?」
トモエさんと砂漠。共通点って何かあるだろうか。五秒程考えて、一つ思い至った事があった。
「硬い」
「正解。砂漠のモンスターは、基本的に硬い鎧のような甲羅を持ってるの。トモエも全身鎧だから、防御はガッチガチに固められている。これだけでも、砂漠のモンスターと同じような感じだけど、ここに私の支援も合わせて、更にガッチガチにするよ」
「え?」
何だか思っていたものと違う事になりそうな気がしてきた。
「更に、トモエからも積極的に攻撃するように言っておいたよ。大丈夫。ここには、ハクちゃんの回復薬がいっぱいいるから」
メイティさんが言っているのは、確実にホワイトラビットの事だ。さっき、私がホワイトラビットの血を飲んで回復しているところを見たから、出て来た発想だと思う。まぁ、計画を立てた後に気付いたから、後付けの理由だと思うけど。
メイティさんが説明し終わったのと同時に、ファーストタウンの方から、全身鎧のトモエさんが走って来た。
トモエさんが来るまでの間に、スキルの整理をする。
────────────────────────
ハク:【短剣Lv48】【双剣Lv31】【格闘Lv43】【拳Lv25】【蹴りLv40】【投げLv16】【魔法才能Lv40】【支援魔法才能Lv40】【吸血鬼Lv60】【血装術Lv35】【血武器Lv18】【執行者Lv47】【剛力Lv1】【豪腕Lv30】【感知Lv15】
控え:【剣Lv55】【HP強化Lv44】【物理攻撃強化Lv42】【物理防御強化Lv1】【魔法防御強化Lv1】【神脚Lv15】【器用さ強化Lv1】【運強化Lv37】【毒耐性Lv18】【麻痺耐性Lv6】【呪い耐性Lv1】【沈黙耐性Lv1】【暗闇耐性Lv1】【怒り耐性Lv5】【眠り耐性Lv1】【混乱耐性Lv1】【消化促進Lv35】【竜血Lv12】【夜霧Lv15】【登山Lv6】【言語学Lv10】
SP:127
────────────────────────
【剛力】を装備する関係で、【剣】を控えに配置した。今は、これで良い。どのみち、今回のPvPで【剣】は使わないから。
確認し終えて、メニューを閉じるのと同時に、トモエさんが着いた。
「お待たせしました。ハクちゃんの相手をすれば良いのでしたね」
「うん」
メイティさんが、私のパーティーから抜けて、トモエさんと一緒のパーティーになる。
「ハクちゃんは、PvPの経験はありますか?」
「イベントくらいです」
「では、こちらから申請しますね」
トモエさんがメニューを操作したら、私の目の前にウィンドウが出て来る。
『プレイヤー『トモエ』からPvP(全損決着・時間無制限)を申請されました。YES/NO』
私は、すぐにYESを押す。私と、トモエさんの間に、数字が現れる。五からカウントが始まる。でも、トモエさんは、そのカウントを無視した。
「これから、私は全力でハクちゃんと戦います。メイティは、私の防御力を上げる支援と回復のみをします。ここまではいいですね?」
「はい」
ここで、カウントが終わり『START』の文字が出る。それでも、トモエさんは動かない。説明が終わっていないからだ。
「ハクちゃんは、素手と血の武器でしたか? それで戦ってください。短剣などは使ってはいけません。それと、技も無しにしましょう。私も技は使いません。分かりましたか?」
「はい!」
私が返事をすると、トモエさんは頷いた。兜で顔は見えないけど、多分笑顔だと思う。
「ハクちゃんが満足するまで付き合います。終わりにしたい時は、言って下さい」
「はい」
「では、参ります」
トモエさんはそう言って、剣を抜き、私に向かってきた。当たり前だけど、私よりも速度は遅い。
「【アトラスの支え】」
メイティさんが、トモエさんの防御力を強化する。それと同時に、私も動いた。いつもの高速移動で、トモエさんに突っ込む。これまでは、【蹴り】を併用していたけど、今回は【拳】を成長させるつもりでいる。だから、高速移動の勢いのままトモエさんに左拳を振う。
トモエさんは、正確に私の左拳に盾を合わせた。勢いもかなりあったから、少しくらいノックバックするだろうと思っていたけど、トモエさんはびくりともしなかった。デスペナと昼という事も考慮しても、衝撃的だった。
でも、ここで身体を止める訳にはいかない。すぐに、右拳を振う。私は、右利きなので、こっちの方が打ち込みやすいのだけど、それでも崩せない。
私は、ここで止まらず、すぐに左脚で膝蹴りをした。
「っ!?」
【神脚】のおかげか、ようやくトモエさんを一センチだけ押す事が出来た。その事を喜んでいる暇はなかった。今度は、トモエさんの方が攻勢に出た。私の身長くらいある盾で、私を殴ってきた。
私は、即座にバックステップする事で避ける。トモエさんも、すぐ距離を縮めようと、こっちに駆け出した。私は、牽制のために、血のナイフを二本生成して投げる。普通に盾で防がれたし、トモエさんは止まらなかった。
盾を面で使うのではなく、その先端で、私のお腹を突いてくる。私は、即座に硬質化でお腹を守る。硬いもの同士がぶつかりあう感触の直後、私の方が吹っ飛ぶ事になった。地面を転がるのではなく、バク転を利用して勢いを殺して着地する。
距離を十分に取る事が出来なかったのか、トモエさんの剣が私に振り下ろされる。ギリギリのところで、横に跳ぶ事で避ける事は出来た。私は、次々に血のナイフを生成して、トモエさんに投げまくる。十本くらい投げたので、トモエさんもしっかりと盾で防いで、距離を開ける事が出来た。その隙にホワイトラビットを掴んで、吸血する。
「なるほど。こういうことでしたか。確かに、ハクちゃんにとっては、最良のフィールドですね」
「そうでしょ? まぁ、これは、トモエに頼んだ後に気付いたんだけどね」
トモエさんとメイティさんは、普通に会話している。つまり、そのくらい余裕があるという事だ。
「ふぅ……頑張ろ」
私は、トモエさんを睨み、拳を握って駆け出した。
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