第93話 神聖魔法の検証
オアシスタウンに戻ってきた私は、即座にファーストタウンに戻った。デスペナルティが抜けるまで、砂漠の探索なんて出来ない。だから、日差しが強いオアシスタウンよりもファーストタウンにいた方が、気分的に楽だ。
「アカリエに……は、さすがに入り浸り過ぎか」
毎回暇になったり、息抜きをするためにアカリエに行ってしまっている。アカリには、アカリの作業とかもあるので、毎回入り浸るのはやめた方が良い。まぁ、今更って感じがしなくもないけど。
「ん~……平原でいつものしながら、スキルでも確認しよ」
アカリエ以外に行く場所も、特にないので、平原でスキルレベル上げをする事にした。普段だったら、【吸血鬼】を上げるところだけど、現状は、【血武器】のレベル上げを優先したいので、血のナイフを作って投げるという事を繰り返す事にした。まぁ、相手はホワイトラビットとスライムだから、経験値も少しずつしか稼げないけど。
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ハク:【剣Lv55】【短剣Lv48】【双剣Lv31】【格闘Lv43】【拳Lv25】【蹴りLv40】【投げLv16】【魔法才能Lv40】【支援魔法才能Lv40】【吸血鬼Lv60】【血装術Lv35】【血武器Lv18】【執行者Lv47】【豪腕Lv30】【感知Lv15】
控え:【HP強化Lv44】【物理攻撃強化Lv42】【神脚Lv15】【運強化Lv37】【毒耐性Lv18】【麻痺耐性Lv6】【呪い耐性Lv1】【沈黙耐性Lv1】【暗闇耐性Lv1】【怒り耐性Lv5】【眠り耐性Lv1】【混乱耐性Lv1】【消化促進Lv35】【竜血Lv12】【夜霧Lv15】【登山Lv6】【言語学Lv10】
SP:133
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スキルを見てみたら、【毒耐性】が、かなり上がっていた。その理由は、ヴェノムアナコンダとデザートスコーピオンだ。あの二体の毒を食らったせい、あるいはおかげで、かなり育った感じかな。最後のデザートスコーピオンの攻撃は、猛毒にまで発展していたし。
「【竜血】で、毒が効かなくなっていれば良かったのに」
こればかりは言っても仕方ない。毒対策は、私自身で出来るものは、もうやっているので、後はアクセサリーとかで耐性系の追加効果を探すくらいしかない。でも、アクセサリーに関しては、そういった耐性系のものは付ける気はない。【温暖耐性】と【寒冷耐性】に関しては、スキルとしてないから付けているけど、状態異常耐性系は、スキルで取っているので、アクセサリーには、追加効果でしか得られないものを付けておきたいからだ。
「【拳】の成長が遅い……これも成長させないと、【武闘術】に統合出来ないはずだから、こっちも育てないと」
「こんなところで、レベル上げ?」
「!?」
いきなり背後から声を掛けられたので、跳び上がってしまった。サッと背後に振り向くと、そこにはメイティさんが立っていた。
「メイティさん?」
「うん。見ての通り、メイティだよ」
メイティさんは、優しく微笑みながら、頭を撫でてきた。私は、大人しく受け入れる。
「ここでレベル上げしても、そこまで効率は良くないと思うけど……」
「あっ、デスペナ中なので」
「あ~、なるほどね。でも、誰に負けちゃったの?」
「デザートスコーピオンです」
私が答えると、メイティさんは納得したように、何度も頷いた。
「分かるよ……って言っても、砂漠で死に戻りはした事ないけどね。時々複数湧きしてくると厄介な事この上ないモンスターになるから、気を付けてね」
「ちょうど、その複数湧きに遭遇しました。しかも、初見で……」
「あっ……」
メイティさんが言葉を失う程運が悪かったという事だろう。複数湧きは珍しい方と考えて良いかもしれない。
「もしあれだったら、一緒に行く? 私がいたら、かなり楽になると思うけど……って、そうだった。ハクちゃんは、神聖魔法がダメージになっちゃうんだったね」
メイティさんが同行を提案してくれたけど、すぐにイベントでの出来事を思い出したみたい。私に対して、神聖魔法はダメージに変換されてしまう。だから、回復とかで援護しに来てくれても、逆に追い詰める要素にしかならない。
「そうですね。神聖魔法に、完全な耐性を得れば大丈夫そうですけど、さすがに、そこまでは無理だと思います。あっ、そうだ。メイティさんって、今から時間ありますか?」
神聖魔法と聞いて、一つやりたいことを思い付いた。ただ、ここにメイティさんが来た理由が分からないので、いきなり頼む事は出来ない。なので、予定から訊いた。
「ん? うん。大丈夫だよ」
「本当ですか? 何か予定があって、ここに来た訳では?」
「ううん。ここにハクちゃんがよくいるって、アクアやアカリちゃんから聞いたから、ちょっと見に来たって感じ」
「私に用事って事ですか?」
「ううん。暇だったから」
メイティさんは、暇つぶしに私捜しをしていたみたい。それの何が楽しいのか、全く分からないけど、まぁ、見つかった良かったかな。
「それじゃあ、お願いがあるんですけど、私に神聖魔法を使って欲しいんです」
「嫌だけど……?」
唐突なお願いに、メイティさんは困惑しながら拒否した。そりゃ、私の事を傷つけるという事だから、メイティさんからしたら嫌なのかもしれない。アカリと同じ感じかな。
「あっ、えっと、検証がしたくて……」
「……どういう検証かによるかな」
検証の言葉を出したら、そういう返事をくれた。メイティさんも伊達にゲームをやっているわけではない。スキル検証と言われれば、それがある程度重要度の高い事だと認識してくれている。
「今から、私が毒血を飲むので、神聖魔法で解毒してくれませんか?」
「解毒の魔法で、ハクちゃんにダメージが入るかって事?」
「はい。神聖魔法の効果を反転しているのか、神聖魔法に付属するであろう聖属性に身体が反応しているのか、ただ単純にHP回復を反転しているだけなのかって感じです」
私は、自分で考えられる三つの仮設を、メイティさんに聞かせる。先に知りたい事を言っておけば、メイティさんも検証の許可をくれる可能性が高くなるはずと考えたからだ。
「う~ん……確かに、これから先の事で必要になるかもしれないし、そこの確認はしておいた方が良いかもね。良いよ」
メイティさんから許可も頂いたところで、パーティーを組み、毒血を飲む。毒の状態異常マークが出る。それを確認したメイティさんが、杖を握る。
「【アンチポイズン】」
私の身体を緑色の光に包まれる。毒の状態異常が消えた事で、しっかりと効果を発揮している事が分かる。
「痛っ……」
HPは減っていないけど、身体の内側をチクチクとした感覚が襲ってきた。HPが減っていない理由に関しては、あの時と違って、パーティーを組んでいるからと予想出来る。つまり、パーティーを組んでいなければ、ダメージを受けていたと考えられる。
「大丈夫!?」
メイティさんが駆け寄って、抱きしめてくる。少しでも、気が紛れるようにしてくれているみたい。アク姉程じゃないけど、柔らかい感触がする。それのおかげで気が紛れるという事はないけど、寄り掛かって良いのは、ちょっと楽になるので有り難い。
「大丈夫です。回復とは違った痛みですね。でも、これで分かりました」
「ハクちゃんの身体は、現状聖属性が付加されているものに対してダメージを受けるようになっているって事だね。でも、それだと疑問が残るね」
「疑問ですか?」
私は、メイティさんが抱いた疑問が分からなかった。私が、見逃しているところがありそうだ。
「【アンチポイズン】の効果の解毒は効いている。だから、毒状態も解除された。ここまでは、今の検証で分かった事」
「はい」
「でも、イベントの時に【ヒール】を使った時を思い出してくれる?」
「……あっ!」
メイティさんに言われて、私も思い至った。あの時、【ヒール】を受けても、私のHPは回復せずダメージを受けただけだった。聖属性にだけ反応して、通常の効果は受け付けるのであれば、回復してからダメージを受けているはず。でも、実際にはそうなっていない。
状態異常回復魔法は、私自身というより、私の中にある異物の排除をしているから、効果があるって感じかな。
HPの減少を、身体の損傷と考えると、私の身体そのものを元に戻そうとしていると考えられるから、そこで状態異常回復とHP回復は区別されているのかもしれない。
病気を治すか怪我を治すかって考えれば、もっと分かりやすいかな。
「このことから、聖属性と回復魔法は、別々って考えた方が良いと思うよ」
「つまり、私は、回復魔法を受け付けないって事ですか?」
「多分ね。こればかりは、検証のしようがないから、確証はないけど」
もうメイティさんのスキルは【神聖魔法才能】に進化している。だから、ただの回復魔法を使う事が出来ない。ここら辺の不便さは、本当にゲームらしい不便さだ。これに関しては特に文句はない。
「でも、有意義な事が分かって良かったです。これからも、神聖魔法は受けないように気を付けます」
「うん。私も、ハクちゃんに神聖魔法は使わないようにしないとね。そう考えると、ハクちゃんと冒険するメリットが、格段に減っちゃうね」
メイティさんは、少し寂しそうにそう言った。確かに、回復魔法が効かなくて、聖属性でダメージを受けるということは、回復職であるメイティさんとパーティーを組む利点が、ほぼなくなってしまう。
「別に、メリットがなくても、メイティさんなら一緒に遊びますよ。私が嫌なのは、知らない人とかに詰め寄られる事とかなので」
正直、メリットを重視するなら、誰かと固定パーティーを組んでいる。その方が、冒険もしやすいから。それでも、ソロをするのは、私の好みの問題だ。
そして、友人と一緒に冒険に行くのに、メリットだけを考えるような事はしない。楽しければ、それで良い。
「ハクちゃんは、やっぱり良い子だね」
メイティさんに、また頭を撫でられる。アク姉やフレ姉とは違う撫で方なので、やっぱり新鮮に感じる。
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