第96話 夜の砂漠

 気を落ち着けるために、ゆっくりと歩いていると、【感知】に反応した。一体だけだけど、形は蠍だ。いる場所は、砂丘の麓の砂の中。こちらに気付くまでは、基本的に隠れている状態のままみたいだ。後は、不意打ちをする時も隠れるかな。

 どうやって先制を取るか考えようとしていると、デザートスコーピオンが勢いよく飛び出した。私が思考しようとしている間に、こちらに気付いたみたいだ。


「判断が遅かったかな。敵は、一体だけ……みたいだね」


 昼に向けての練習としては、ちょっと生ぬるいけど、デザートスコーピオンと戦えるだけ感謝しよう。私は、高速移動でデザートスコーピオンに突っ込む。着地は、砂漠じゃなくて、デザートスコーピオンそのものにする。鋏や尻尾による防御も間に合わず、その身体に脚を突き刺す事が出来た。

 少し予想外だったのは、デザートスコーピオンの甲羅を破壊した事だ。一部分に罅を入れただけなら、私も納得出来るのだけど、その罅が全体に広がっているのだから、驚いても無理は無いと思う。

 デザートスコーピオンは、身体中にダメージを負っているにも関わらず、尻尾の毒針を私目掛けて突き刺そうとしてきた。


「【雷打】」


 高速で突き出された硬質化した拳が、デザートスコーピオンの尻尾の毒針を粉砕する。自分の上にいる敵に対する攻撃手段を失ったデザートスコーピオンは、身体を揺らして、振り落とそうとしてくる。


「【踏鳴】」


 強烈な踏みつけ攻撃に、デザートスコーピオンは、砂の中に身体を埋める事になった。ここまで攻撃しても、デザートスコーピオンのHPは一割残った。


「HPが高い。本当に厄介なモンスターなんだなぁ。【震転脚】」


 ちょっと跳んでから踵落としを叩き込む。それで、デザートスコーピオンは倒れた。ここで、改めて、デザートスコーピオンのドロップアイテムを確認する。デザートスコーピオンの甲羅、デザートスコーピオンの鋏×2、デザートスコーピオンの毒針、デザートスコーピオンの血を手に入れた。


「甲羅が異常に硬い鎧の役割を果たしていて、防御力が高いのと、HPが他のモンスターよりも高く設定されている感じかな。砂漠の難敵で間違いはなさそう」


 今の倒し方は、夜だから出来た事。これを昼にやれと言われても、圧倒的攻撃力不足で確実に出来ない。だから、ここからは、自分が昼間の状態だと考えて、攻撃力で押し切るような戦い方はやめる事にする。

 今後の行動も決めたところで、砂漠を駆けて始める。走りにくいので、平地程速度は出ない。一分程走っていると、【感知】が反応する。集中して、気配の形を探ると、四体の蠍がいた。


「昼間と同じ数。倒し方は、なるべく下を攻撃する。同士討ちを誘って、防御力を下げさせる。よし!」


 イメトレを済ませて、血刃の双剣を抜く。そして、一気にデザートスコーピオンの群れに突撃する。相手の探知範囲に入った瞬間に、四体が続々出て来る。そして、最初に出て来た一体を先頭に突っ込んできた。

 先頭が両手で鋏を広げて、私を切ろうとしてくる。私は、スライディングして鋏を避けつつ、そのお腹に双剣を刺して抜ける。その過程で、出血状態になったので、即座に【血装術】を発動する。先頭の尻尾から抜けた私に向かって、真後ろに続いて来た一体が尻尾を突き刺そうとしてくる。身体を横身にして避けつつ、最初に攻撃した個体の尻尾の付け根に、左の短剣を投げつける。

 ちょうど関節を狙った一撃は、すんなりと突き刺さる。それを横目に、目の前に接近していたデザートスコーピオンの顔面に硬質化した拳を下から叩き込む。アッパーになった一撃によって、デザートスコーピオンがひっくり返る。

 そこに、左右から別々のデザートスコーピオンが鋏を広げて突き出してきた。私は、即座に、その場で跳び上がる。鋏は、空を切った。


「【共鳴】」


 空中にいる内に、投げつけて刺さっていた短剣を呼び戻す。同時に、そのデザートスコーピオンの尻尾が突き出された。その尻尾を、上から叩き落として、鋏にぶつける。

 勢いが付いてぶつかった尻尾と鋏は互いに罅が入る。同じ硬度を持つが故に、互いに傷つけ合う事になる。

 そこに落ちていく私は、双剣で一遍に斬った。鋏と尻尾が落ちる。地面に着地した私に向かって、鋏を落とされた二体が、尻尾を突き刺そうとしてくる。これは、悪手だ。だって、二体の攻撃は、その延長線上でぶつかるのだから。

 私は、ただ直前で一歩ズレる事で、攻撃を避ける。二体の尻尾がぶつかり合い、互いに罅が入る。この間に、尻尾を落としたデザートスコーピオンが、私に向かって鋏を突き出してくる。広げて切るためではなく、ただただ鈍器として、思いっきりぶん殴ろうとしてきた。


「【朧月】」


 デザートスコーピオンの鋏は空を切った。そして、私が振り下ろした双剣が鋏を斬り落とした。硬直時間が入るけど、その間に攻撃をしてくる個体はいなかった。ちょうど隙間時間と重なったみたい。

 ただ、一つだけ悪い事があって、さっきアッパーで裏返した個体が起き上がった事だ。これで、三対一が四対一に戻った。

 四方を囲むように、デザートスコーピオンが動く。でも、大分攻撃手段を減らす事が出来ているからか、ピンチという感じはしない。

 この状況で、先に攻勢に出たのは、私だった。高速移動で、アッパーをしただけで無傷のデザートスコーピオンの下に潜り込む。高速移動とスライディングの組み合わせを試してみたけど、意外と上手くいった。そのお腹に突き刺して、背後に抜ける。直後に、軽く跳び上がり、尻尾の付け根に回し蹴りを叩き込む。尻尾に大きな罅が広がる。


「あっ……やっぱ、夜じゃ練習にならないな」


 昼間に出来そうな戦い方を意識していたけど、やっぱり夜の身体じゃ上手く出来ない事が分かった。大人しく、夜は夜、昼は昼で、戦い方を練習する事にした。だから、ここからは、ちゃんと戦う。

 地面に着地した私は、罅を入れた尻尾を斬って落とす。そして、その元尻尾の付け根に蹴りを叩き込んで、その正面にいるデザートスコーピオンにぶつける。そこで互いに罅が入ったところで、私も跳び上がる。


「【流星蹴り】」


 上から二体まとめて蹴りで貫く。これで二体がポリゴンに変わった。ここで【血装術】が解けたので、血刃の双剣を納めて、血染めの短剣を抜く。残り二体は、片方の鋏を失って、尻尾に罅が入った二体だけだ。

 片方に対して、血のナイフを投げつけて牽制しておいて、もう片方に突っ込む。残った鋏で、私を切ろうとしてくる。なので、走りながら、唐突に高速移動を使って、鋏が付いていない方に回り込もうとする。


「わっ……!?」


 順調に倒していくつもりだったけど、ドジっ子みたいな事をしてしまった。やっぱり、高速移動の着地には難ありだ。


「こっちの練習もしないとっ!」


 砂に突っ込んだ私に向かって、罅の入った尻尾が突き出された。私は、四足歩行で走って逃れる。そのまま立ち上がり、高速移動で牽制した方のデザートスコーピオンに突っ込む。モンスターに着地する分には、足場の不安定さとかは関係なく無理矢理着地出来るので、ある意味楽だ。


「【トリプルピアース】」


 ぐしゃぐしゃに罅割れたデザートスコーピオンに、三連続の刺突を繰り出して倒す。最後の一体にも同様の攻撃をして、戦闘は終わった。夜の戦闘は、本当に問題なくする事が出来た。この後も、デザートアルマジロやデザートスコーピオンと四度程倒してからログアウトした。

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