第91話 砂漠の暴走族

 オアシスタウンに着いた私は、すぐに日傘を差す。嫌な慣れだけど、ファーストタウンとかでのステータスダウンには慣れてきていたので、ファーストタウンで傘を差す機会が減ったのだけど、オアシスタウンでは、ちゃんと差さないと辛い。


「暑……」


 暑いと感じるのは、耐性装備をしても変わらない。まぁ、急に暑さを感じなくなったらなったで、怖いけど。


「大分、マシかな。いるだけで息切れするみたいな事もないし。でも、この倦怠感は、どうにかして欲しい……」


 暑さはマシになっているけど、倦怠感だけは、普段よりも強かった。それだけ日差しが強いって事なのだと思う。砂漠だからって、太陽光のパラメータを弄らないでも良い気がする。私みたいな【吸血鬼】持ちがいる事も考えて欲しい。

 まぁ、何を言っても、私の我が儘でしかないのだけど。


「さてと、取り敢えず、砂漠のモンスターを見に行こっと。種類によっては、吸血が捗るし」


 自分で言って、何を言っているのだろうと思わないでもない。言っている事が、ほぼほぼ吸血鬼そのものだ。ただ、複雑な事に、これも私の本心から出ている言葉だった。だって、新しいスキル欲しいし。

 日傘を差したまま、砂漠を歩き始める。色々なところに砂丘が出来ていて、遠くを見通す事が出来ない。ジャングルや熱帯とは別の意味で厄介かもしれない。


「砂丘は、転んだら危なそう。登る時は、気を付けよ。それにしても歩き辛い……」


 巨大な砂浜を歩いている気分。日本にも砂丘があるけど、もしかしたら、似たような感じなのかも。ちょっと行ってみたくなった。

 近くにあった砂丘の上に着いた。でも、この砂丘は、まだ小さい方だったみたいで、周囲は、砂丘だらけだった。


「これは……また迷子になりそうな地形だなぁ……」


 一応マッピングはされているので、現在位置は分かるけど、これがなかったら迷子になって延々と彷徨うことになるだろう。


「ここから向こうまで跳べるかな」


 砂漠には、【神脚】になって使い勝手が悪くなった脚の練習にも来ているので、無駄だと思えるこの行動も、私にとっては重要な事だ。

 日傘を畳んで、思いっきり踏み切る。砂丘に向かってジャンプした私は、高く舞っていた。でも、飛距離は全然足りず、砂丘の途中に落ちる。普通の地形なら、地面を掴んで落ちるのを耐えられるのだけど、ここにあるのは、砂。掴んでも意味が無い。


「うわっ!?」


 体勢を保っていられず、背中から倒れる。そのままの勢いで、後ろに二回程回ってしまう。


「はぁ……せっかくシャワー借りたのに……」


 再び砂まみれになって、気分もガタ落ちだ。軽く砂を払いながら、起き上がる。そのまま何気なく上を見ると、でかいアルマジロが、こっちを見下ろしていた。一秒くらい視線が合っていた。

 でも、すぐに身体を丸めた。砂丘の上で、身体を丸めるという事は、そのまま坂道を下る事になる。その先には、当然の事だけど、私がいる。


「ですよね~!!」


 アルマジロを見た時から、そうなるだろうとは思っていた。私は、すぐに砂丘を下る。でも、向こうの方が速い。そりゃ球体で転がる方が、私より速いよね。


「なるようになれ!」


 私は、さっきみたいに踏み切ってジャンプする。それだけでは足りないと思ったので、大して効果はないけど、日傘を差す。イベントの時同様、落下速度がほんの少しだけ落ちる。今は、一秒でも長く滞空しておきたいので、この方法が有効だと思った。


「ゲルダさんに見られたら、また怒られるな」


 この場に自分しかいない事に安堵しつつ、自分の下を高速で転がっていくアルマジロを見送る。そこで、ようやくアルマジロの名前が見えた。デザートアルマジロ。それが、あのアルマジロの名前だ。

 デザートアルマジロは、砂丘の下まで転がると、球体から通常の姿に戻った。


「【流星蹴り】」


 日傘を閉じた私は、そのままデザートアルマジロに向かって落下する。流星のように落下した私は、デザートアルマジロの背中に蹴りを入れる。アルマジロだけあって、背中の甲羅は、かなり硬い。でも、【神脚】もあって、ダメージは与えられている。それに、身体の半分が砂に埋まっていた。

 おかげで、硬直時間が解けるまでの時間が稼げた。血刃の双剣を抜き、デザートアルマジロの甲羅にある隙間に向かって、突き刺す。出血状態にさせて、【血装術】を発動する。


「【アタックエンチャント】【スピードエンチャント】【スタンショック】」


 自身の強化と、駄目元で相手を気絶状態にさせる魔法を放つ。すると、運の良いことに、デザートアルマジロが気絶した。

 この好機と考えた私は、デザートアルマジロの上に乗りながら、双剣で滅多斬りにしていく。本当は、柔らかそうなお腹に攻撃しようと思ったけど、せっかく硬いのなら、経験値稼ぎになると思ったので、このまま【双剣】と【血装術】のレベル上げに使わせて貰う。

 デザートアルマジロのHPを半分削ったところで、デザートアルマジロが動き出す。その場で身体を丸めて、勢いよく転がり始めたのだ。


「わわっ!?」


 私は、サーカスの玉乗りのように、デザートアルマジロの上で走る事になった。このままどこかに着地すると、デザートアルマジロが轢きに来る可能性があるので、このまま上で走っているのが一番安全だった。

 でも、この状態だと、私に出来る事が【血装術】で血を抜くくらいしかない。


「こんな曲芸をしたい訳じゃないのに……あっ、これなら! 【踏鳴】」


 私は、デザートアルマジロを思いっきり踏みつける。すると、私の攻撃とデザートアルマジロの回転が、互いに弾き合って、三メートルくらい離れる。幸いだったのは、衝撃でデザートアルマジロの回転が止まって、通常状態に戻った事だ。あのまま回転したままだったら、私は轢かれていただろうから。


「【月駆】」


 高速で移動して、デザートアルマジロとすれ違いざまに身体を独楽のように回転させて、デザートアルマジロを斬りつけて抜ける。後ろに抜けたところで、身体が硬直する。これで、残りHPは、一割程になる。デザートアルマジロは、身体を丸めて、前に進んでUターンしてきた。

 私は、硬直が解けると同時に、左脚を軸に回転して、後ろ回し蹴りを合わせる。さっき【踏鳴】で互いに攻撃を弾き合ったので、【神脚】なら対抗出来るのではと思った。そして、その考えは正しかった。デザートアルマジロが、サッカーボールのように飛んでいく。デザートアルマジロは、空を舞いながら、通常状態に戻った。

 それを見逃さず、右手の短剣を投げる。腹に刺さって、デザートアルマジロのHPは無くなった。


「【共鳴】」


 血刃の双剣の追加効果である【共鳴】を発動させて、手元に双剣を戻す。瞬間移動的な戻り方ではなく、私に向かって飛んできたのを掴み取るという形だった。まぁ、戻って来てくれるだけマシかな。

 デザートアルマジロのドロップは、デザートアルマジロの甲羅、デザートアルマジロの皮、デザートアルマジロの舌だった。


「舌? 長い舌が特徴とかなのかな? まぁ、いいや」


 アルマジロの生態など知らないので、考える事をやめた。取り敢えず、デザートアルマジロ相手なら、十分に戦える事が分かった。

 砂漠のモンスターがデザートアルマジロだけなわけがないので、まだ安心は出来ない。これから、どんなモンスターが出るのか怖いけど、ちょっと楽しみでもある。

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